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22~シリウス視点~

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厳しい環境の中でフィーネの明るさはまるで暗闇に差し込んだひとつの光のような存在で、皇族の血筋としては異質にも思えた。

「おかあしゃまね、おはなきりゃいだったのかな?もらってくれなかったの」

「………そうか」

悲しいのを耐えようとしながらも耐えきれず、涙をぽろぽろと流すフィーネに、思わず手が伸びて頭を撫でてしまった頃には、もう俺はフィーネに囚われていたのだろう。

それからも何度もフィーネと会ううちに俺は、自分の母にそれを知られることがどんなに恐ろしいことか失念していた。

「おにいさま!」

それはフィーネが俺になつき、俺もフィーネが大事な存在だと認識して、自然と笑みが出るようになって1年ほど経った頃。フィーネは少し成長が遅いのか、舌足らずな感じはまだ抜けなかったが、それも俺は可愛くて仕方がなかった。

フィーネと会う場所は決まってフィーネと出会った中庭で、ここでフィーネがわからない勉強を見てやったり、遊びに付き合ったりするのがこの時には日課となっていた。

「フィーネ、今日は何をしたい?勉強か?遊びか?」

「きょうはね、べんきょーひとりでぜんぶできたんだよ!」

「それは凄いな」

こんなちょっとしたこともどや顔でいう可愛いフィーネを見れば、なんでも褒めて頭を撫でたくなる気持ちを抑えきれず行動に移すのは当然のこと。

「だからきょうはね、おにいさまといっぱいあそぶの!」

嬉しそうに言うフィーネに癒されるのを感じながら、この時の俺は、母に何も言われないことをいいことに、フィーネと会っていることをバレていないと油断していた。

フィーネと会って仲良くすることを母がよく思わないことをわかっていたはずなのに。まだこの時は、子供ながら幼い部分があったのだろう。

この日はフィーネが提案したおいかけっこをした後、中庭付近でかくれんぼをすることになったときだった。

「どこからどこまでか隠れていい部分かわかるな?」

「うん!だいじょーぶ!」

かくれんぼは予めここからここまでが隠れていい範囲と二人で決めていた。城の中は広すぎるし、護衛があちらこちらにいるとはいえ、あまりに範囲を広げ見つからないと俺が心配になりそうだったから。

そんなかくれんぼも、何度かしていた遊びだから、いつも通り俺がフィーネを見つけ、みつかっちゃったと嬉しそうに笑うフィーネと笑い合うのだと信じて疑わなかったこの時。

俺が見つけたフィーネは血に染まっていた。

「フィーネ………?」

「………」

「フィーネ!」

「触ってはだめよ、シリウス」

「母上………?」

あまりにタイミングを見計らったような母の登場に俺は呆然とした。

「これで貴方は確実に皇帝となるわ。危なかったわね、あの女の息子だからかしら?小さいながらも貴方を誘惑するなんて」

「母上が、殺したのか」

「いいえ、私は何も。私はただ貴方を探しに来たところフィーネ様が死んでいるところを見つけただけ」

「フィーネ………フィーネが、死んだ………ああああああああっ!」

全ては俺のせいだと。俺はこの日、この腐った世界を滅ぼすことを決め、世界を終わらせた。

もう一度フィーネと人生をやり直せることになったのだから、例えフィーネを守るために関わりが減っても、俺は一度目に世界を滅ぼしたそのことに後悔はなかった。

それぐらいにフィーネは俺の心を掴んでいたから。
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