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兄は冗談なんて言わなかった。それがわかったのは、割りとすぐだった。

僕を着替えさせるのは何故か兄で、食事の場へ行くのに僕は足を地面につけることなく、またしても兄の膝の上で食べさせてもらうことになり、食事が終わればやはり兄に抱えられて兄に言われて用意されていたのか馬車へ。

ちなみに馬車の中でも兄の膝の上に座ることになった。兄は足が痺れたりしないのだろうかと心配になるも何故か微笑むくらいには機嫌がよさげなのでやめてほしいとは言えない。

……僕が地面を歩けるのはいつになるのだろうか。

「兄上、今から行くところはお墓?」

「そうだ。馬車でならわりとすぐの場所にある」

「お墓の前ではさすがに自分で歩きたいんだけど………」

「……………フィーネが、そう望むなら」

物凄く納得いかないといった表情で言われた。でも、了承はしてくれるみたいだ。さすがに親の墓前で、歩けるのに抱えられるのは子供でもないのに恥ずかしいしね。

いや、まあ、墓前でなくとも周りに見られる中で抱えられるのも恥ずかしくないわけではないけど、僕が慣れようと思う。だって兄があまりにも嬉しそうにするから……うん。

兄以外の人は他人ではあるし、物置か何かだと思うようにした。昨日の今日で変わりすぎだと思われるかもしれないけど、僕はわりと割り切れば早いタイプなんだ。

ただふいうちとか、予想にもしなかった出来事とかそういうのには弱いだけで。特に兄に関することは、今後も何かしら動揺せずにはいられない何かがあってもおかしくはない。

「だが、墓参りが終われば俺は遠慮しないからな」

「うん、兄上がそうしたいなら」

兄がこんなにも変わってしまっているのだから。でもいくら動揺しても僕が兄を拒むことはないだろう。

兄を追いかけてきた僕が、兄を拒む未来があるというならきっとそれは…………

「着いたな」

「え、早い……」

本当に大した時間も経たずしてついた墓場。一度目は訪れることのなかった皇室の人間の特別な墓。行かなかった理由は簡単だ。生きている内に、身内で亡くなる人がいなかったから。

寧ろ一度目では、最初に亡くなったのは僕じゃないだろうか?病気が見つかった父よりも先に僕が兄に殺されて死んだのだから。

一度目のとき………僕もここに眠ったのだろうか?どうあっても皇室の人間ではあったわけだし。

「立派な墓、だね」

ようやく地面につけられた足で墓前まで歩いて出た言葉はそれだった。自分より大きな石碑にはクピドの名が刻まれている。

「墓だけだ立派なのは」

「………神様の名前、なんだよね。クピドは」

「知っていたのか」

「愛欲、欲情の神様だっけ。あまり皇家としてそれでいいのかって名前、だよね」

まるで愛を欲しがって仕方がないみたいじゃないか。だから僕は昔からこの皇家の名が嫌いだった。

「呪いのような名前だ」

「呪い……」

………そう言われて不思議と納得してしまうのはなんでだろうか。
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