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この気まずい雰囲気はいつまで耐えなければいけないんだと思っていたときだった。シャドウが口を開いたのは。

「何から話すべきか考えていたのですが……まずは殿下のご年齢をお伝えするべきですかね。その上でご自身の今の立場について知っていただけたら最低限はよいかと思うのですが」

どうやら僕をじっと見ていたのは何を話すか考えていたかららしい。しかし、年齢は助かる。それでだいたいどの過去に戻ってきたのか把握することで、今の状況がある程度わかるだろうから。

例え死ぬつもりでも回復するまでは状況把握くらいはしておきたい。なので、返事の代わりに瞬きを一回ゆっくりとする。

「では、まず殿下のご年齢ですが、19歳です。急に倒れて意識を失い続けてから約16年となります」

16年………神様のいう20年くらいがどれだけ大雑把なのかがよくわかる。20歳くらいだと考えていたけど20にもなってない………ってあれ?それなら兄は2歳離れてるから21歳。皇帝になるのは23歳なはず。ならまだ皇太子なのか。

いや、でもならシャドウがなんで執事長に……?

「そして殿下の意識がない間、現在の皇帝が代わりました」

「!」

もし話せていたなら思わず声をあげていただろう。だってあまりにも早すぎるから。

「現在の皇帝は殿下の兄君であるシリウス・クピド皇帝陛下でございます」

2年も早く?いや、既になっているならもっと早くになっている可能性も………。僕がこんな状態になったことで既に未来が大きく変わりつつあるんだろうか?

でも、何故?元々23歳でも早いと言われていたのに、一度目に兄が早くに皇帝になったのは、父に病気が発見され療養が必要になったから。皇帝の仕事は負担になるのと、兄が皇帝にたる優秀さを兼ね備えていたからこそ交代が許された。

もしかして父の病気の進行が予定より早まったとか………?そんな変化が起きることなんてあるんだろうか?考えれば考えるほど混乱する情報だ。一度目の記憶があるからこそそうなるのだろう。

もっとシャドウから話を聞かないと整理ができそうにない。そう思ったときだった。部屋のドアが開かれたのは。

「シャドウ、席を外せ」

「皇帝陛下………かしこまりました」

入って開口一番にシャドウを追い出す言葉を放ったのは間違いなく僕の兄シリウス・クピドだった。

皇帝に逆らえるはずもなく、シャドウが退室し、突然の兄との二人の空間に僕は頭の中を整理するどころか、より混乱した。だってこんなに早く兄に会うとは思いもしなかったから。

回復するまでに会う可能性を考えなかったわけではないけど、兄から訪ねてくるなんて誰が思う?一度目の人生でも、兄から僕のところへ来たことなんてなかったのに。

「フィーネ……」

「……っ………」

混乱している僕に気づいているのかいないのか、僕の名前を呼び、兄の左手が僕の右頬を包むように触れる。

誰、この人は。見た目は兄だ。声も兄だ。僕が間違えるはずもない。だけど、だけど………冷たい目以外を向ける兄を僕は知らない。

陰を落としたような、しかしどこか熱の籠ったような僕よりも濃い赤い瞳。

「不安になる必要はない。大丈夫だ、フィーネ………俺の可愛いフィーネ………」

笑っている。兄が僕に笑っている。でもその笑みは僕が望んだ温かさのある笑みでは決してない。何で、どうして………こんな兄は見たことがなかった。

一体二度目の世界で兄に何があったというのか。

僕はいくら考えてもわからなかった。ただ、初めて純粋に兄が怖いと感じる。冷たい瞳で見られたときはまだ兄に期待を抱いて行動をしようという気概までは失われなかった。

なのに今、この時は何かに縛られていくようなそんな感覚を覚えたから。

兄から逃げたい……初めて思ったことだった。

これが恐怖以外に何という?この兄の雰囲気に飲み込まれればきっと僕は僕でいられなくなる。

早く死ななければ、死んでここから逃げたい。一気に死ぬ理由が変わっていく。それほどに兄は僕の知っている兄ではなかったから。

「俺が怖いか?フィーネ」

見透かされている。それがより恐怖心を高めているのを兄は知りながらそう問うのだろうか。話せなくてよかったと心からそう思う。きっと話せても僕は何も言えずに終わっていただろうから。

「フィーネには何も怖いことはしない。俺はフィーネだけがいればいいんだ」

僕の知る兄は、僕だけがいればいいだなんて言わない。あの人は僕がいなくても………

【フィーネが死んだのは俺のせいだ………】

なんで今、うさぎに見せられたあの映像が頭に浮かぶのだろうか。あれは未来の兄で今の兄は過去の兄。しかも、僕が死んだ後のことで同じ人物というだけで結びつきなんてないはず。

それにあれは僕が幸せになってなんて兄からすれば意味のわからない言葉を残して死んだから兄を悩ませただけ。兄は僕には冷たくても、正義感に溢れた人だったからきっとその言葉に刺激されたのだろう。例え僕には冷たい態度をとってきたとはいえ。

だから僕がいなくても最後兄の正義感を刺激しないよう何も言わずに死ねば全てが平和に終わって僕も兄から逃げられる。

「もう、耐える日々は終わりだ」

早く……逃げ、なきゃ………

色々追い込まれた僕はまるで目の前の兄から逃げるように再び眠りについた。
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