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「いくら俺を嫌っても構わない。だが、周りを巻き込むお前には失望した」
それが僕の死ぬ間際に兄から聞いた最後の言葉だった。
僕は兄に殺された。僕は抵抗などしなかった。もう疲れてしまっていたから。兄に執着することに疲れてしまったのだ。
家族の愛を求めて、誰よりも尊敬して、純粋だったあの頃の自分。だけど、いつだって兄の目は冷たくて、それを認めたくなくていつしか憎しみに変わってここまで来てしまった。
羨ましかった。兄に笑みを浮かべさせたあの女が。だから殺そうとしたけどそれで終わり。結局兄を唯一笑顔にできた女性を殺すことに躊躇いが生まれたから。
どんな悪事も躊躇わず行ってきた僕は、結局兄を憎むことすら中途半端だったのだろう。そしてその過程で僕は気づいた。僕はただあの女性と同じように兄を笑顔にさせてみたかった………それだけだったんだと。
兄を不幸にしたかったわけじゃなかった。
それでも僕がしてきたことは悪人に分類されるようなことばかり。兄がそんな僕に対して失望できるほどに期待していた何かがあったのかと思うけれど、もうそれを知るための気力すら湧かない。
僕はどうすればよかったんだろう?何故あんなにも兄に執着したんだろう。半分しか血が繋がってない兄なのに。母でも、父でもなくなんで…………。
「しあ、わ、せ………になって」
ああ、今更わかるものでもない。もう考えるのも疲れた。だからだろうか。考える力もなくなった僕は、最後の最後、純粋に弟として兄を慕っていたときを思い出してそんな言葉を兄に投げ掛けた。
そんな僕に兄は怒りを滲ませた苦痛な表情から、驚きの表情に変えてくれたのだから、最後は自分が兄に変化を与えられたことがなんとなく嬉しくて、僕は口角が少しあがるのを自覚しながら心置きなく死ねた……………はずだった。
「ここ、どこ?」
気がつけば真っ白な空間にいた。地獄ならば死んだと実感できただろうが、あまりに何もない白いだけの空間に死んだのか生きているのか今一つ実感がしづらい。
まあ、あの状況で生き残れてるとは思えないから死んだはずだけど。
『ええ、貴方は死にました。フィーネ・クピド』
辺りを見渡していれば突然現れたのはうさぎ。白いワンピースを着たうさぎ。喋る……うさぎ。もふもふそうなうさぎ。どう見てもうさぎだ。
『うさぎではありません、私は愛を司る人間でいう神です』
うさぎって神様だったのか……神様って随分かわいいんだなあ。
『だからうさぎでは……まあ、いいでしょう。まずは何故ここにいるのかを先に話しましょう。貴方に頼みたいことがあり、貴方の魂をここに呼び寄せました』
「魂を呼ぶ……?ならここは死後の世界とは違うのか」
現実味のない話に、現実味のないうさぎの神様とただただ真っ白な空間といった異様なことに巻き込まれているのを理解はしているのに、普通にうさぎと会話をして、不思議と落ち着いている自分がいることに疑問が浮かぶ。
だって、ただ死を受け入れたにしては、それだけでここまで冷静でいられるだろうか?とそう思うから。ここにいればいるほど、だんだんと冷静でいることが当たり前な気さえするのだから不思議に思うのは仕方ないだろう?
『ここは死後の世界とは別物です。それと説明が抜けましたが、この空間は魂を浄化する作用がありますので、常に落ち着いた気持ちでいられる場所なのです』
「なるほど……」
まるで心を読まれたように疑問を解消された……とうさぎを見れば、にこりと微笑んだように見えた。多分そういうことなんだろう。
見た目はうさぎでも神様……だし………?うさぎを神様と簡単に受け入れてしまうのもこの空間のせいだろうか。ある意味恐ろしいな……。
『ちなみに死後と言われましたが、既に貴方は地獄で悪事を働いた分の罪を償っているので、貴方が死んでから100年近くは経ってます』
「え?」
確かに死んだら地獄でもおかしくはない。でも、既に償っていたなんて………ついさっき死んだ感覚すらあるのに……。
『頼みたいことがあれど、魂が廃人になっていては話しも通じないので、この空間で浄化を続けて20年くらいは待ちました』
「廃人……?」
『しかし、この空間の浄化力は些か人の魂にはきつかったのか、薬でいう副作用のようなもので一番辛い記憶が喪失したようですね』
兄に殺された記憶があるということはそれ以上に地獄は辛い日々………だったんだろうか。でも、兄に会えないのがわかっていたからこその辛さだったのかもしれない。
は……っ本当………死後まで未練がましい自分が嫌になる。
「罪人を廃人から救ってまで愛の神様が頼みたいことってなんなの?愛に無縁な僕なんかにさ」
愛を追いかけたことはあっても、それが何かわからなくなるばかりか、愛されたことすら覚えがない僕に愛の神様からの頼み事なんて意味がわからない。
『愛は見えないものだからこそ誤解を招き、時には後悔を生み、破壊を招きます』
「急に何を……」
『信じられないかもしれませんが、貴方の兄シリウス・クピドは貴方の死後、世界を滅ぼしました』
「え?兄上が?」
うさぎに言われた通りこればかりはこの落ち着く空間にいても動揺してしまうくらいには信じられなかった。
兄は皇太子と生まれ、誰よりも完璧で、皇帝となった日には誰もが喜び、それに答えるように悪事を働く貴族や犯罪者を一掃し、第二の犯罪が起きないよう対策しては治安を次々とよくして、国の英雄王と称えられていたのだから。
そんな人が国どころか世界を滅ぼすなんて何があったのかと驚くのも仕方ないだろう。兄が愛した女性があの後亡くなった……とか?でも、僕自身殺そうとしただけで結局大きな傷すらつけなかったし、病気だったという話は聞いてない。
僕以外の人物が暗殺した、もしくは事故………があるなら亡くなった可能性もあるけど、それでも兄がそんなことをするとは思えない。普段から人にも動物にもなんでも冷たい態度をとるわりには、正義とも言える行動を迷わず進み、それを譲歩したり、意見も行動も道を曲げるようなことがなかった人だから。
それが僕の死ぬ間際に兄から聞いた最後の言葉だった。
僕は兄に殺された。僕は抵抗などしなかった。もう疲れてしまっていたから。兄に執着することに疲れてしまったのだ。
家族の愛を求めて、誰よりも尊敬して、純粋だったあの頃の自分。だけど、いつだって兄の目は冷たくて、それを認めたくなくていつしか憎しみに変わってここまで来てしまった。
羨ましかった。兄に笑みを浮かべさせたあの女が。だから殺そうとしたけどそれで終わり。結局兄を唯一笑顔にできた女性を殺すことに躊躇いが生まれたから。
どんな悪事も躊躇わず行ってきた僕は、結局兄を憎むことすら中途半端だったのだろう。そしてその過程で僕は気づいた。僕はただあの女性と同じように兄を笑顔にさせてみたかった………それだけだったんだと。
兄を不幸にしたかったわけじゃなかった。
それでも僕がしてきたことは悪人に分類されるようなことばかり。兄がそんな僕に対して失望できるほどに期待していた何かがあったのかと思うけれど、もうそれを知るための気力すら湧かない。
僕はどうすればよかったんだろう?何故あんなにも兄に執着したんだろう。半分しか血が繋がってない兄なのに。母でも、父でもなくなんで…………。
「しあ、わ、せ………になって」
ああ、今更わかるものでもない。もう考えるのも疲れた。だからだろうか。考える力もなくなった僕は、最後の最後、純粋に弟として兄を慕っていたときを思い出してそんな言葉を兄に投げ掛けた。
そんな僕に兄は怒りを滲ませた苦痛な表情から、驚きの表情に変えてくれたのだから、最後は自分が兄に変化を与えられたことがなんとなく嬉しくて、僕は口角が少しあがるのを自覚しながら心置きなく死ねた……………はずだった。
「ここ、どこ?」
気がつけば真っ白な空間にいた。地獄ならば死んだと実感できただろうが、あまりに何もない白いだけの空間に死んだのか生きているのか今一つ実感がしづらい。
まあ、あの状況で生き残れてるとは思えないから死んだはずだけど。
『ええ、貴方は死にました。フィーネ・クピド』
辺りを見渡していれば突然現れたのはうさぎ。白いワンピースを着たうさぎ。喋る……うさぎ。もふもふそうなうさぎ。どう見てもうさぎだ。
『うさぎではありません、私は愛を司る人間でいう神です』
うさぎって神様だったのか……神様って随分かわいいんだなあ。
『だからうさぎでは……まあ、いいでしょう。まずは何故ここにいるのかを先に話しましょう。貴方に頼みたいことがあり、貴方の魂をここに呼び寄せました』
「魂を呼ぶ……?ならここは死後の世界とは違うのか」
現実味のない話に、現実味のないうさぎの神様とただただ真っ白な空間といった異様なことに巻き込まれているのを理解はしているのに、普通にうさぎと会話をして、不思議と落ち着いている自分がいることに疑問が浮かぶ。
だって、ただ死を受け入れたにしては、それだけでここまで冷静でいられるだろうか?とそう思うから。ここにいればいるほど、だんだんと冷静でいることが当たり前な気さえするのだから不思議に思うのは仕方ないだろう?
『ここは死後の世界とは別物です。それと説明が抜けましたが、この空間は魂を浄化する作用がありますので、常に落ち着いた気持ちでいられる場所なのです』
「なるほど……」
まるで心を読まれたように疑問を解消された……とうさぎを見れば、にこりと微笑んだように見えた。多分そういうことなんだろう。
見た目はうさぎでも神様……だし………?うさぎを神様と簡単に受け入れてしまうのもこの空間のせいだろうか。ある意味恐ろしいな……。
『ちなみに死後と言われましたが、既に貴方は地獄で悪事を働いた分の罪を償っているので、貴方が死んでから100年近くは経ってます』
「え?」
確かに死んだら地獄でもおかしくはない。でも、既に償っていたなんて………ついさっき死んだ感覚すらあるのに……。
『頼みたいことがあれど、魂が廃人になっていては話しも通じないので、この空間で浄化を続けて20年くらいは待ちました』
「廃人……?」
『しかし、この空間の浄化力は些か人の魂にはきつかったのか、薬でいう副作用のようなもので一番辛い記憶が喪失したようですね』
兄に殺された記憶があるということはそれ以上に地獄は辛い日々………だったんだろうか。でも、兄に会えないのがわかっていたからこその辛さだったのかもしれない。
は……っ本当………死後まで未練がましい自分が嫌になる。
「罪人を廃人から救ってまで愛の神様が頼みたいことってなんなの?愛に無縁な僕なんかにさ」
愛を追いかけたことはあっても、それが何かわからなくなるばかりか、愛されたことすら覚えがない僕に愛の神様からの頼み事なんて意味がわからない。
『愛は見えないものだからこそ誤解を招き、時には後悔を生み、破壊を招きます』
「急に何を……」
『信じられないかもしれませんが、貴方の兄シリウス・クピドは貴方の死後、世界を滅ぼしました』
「え?兄上が?」
うさぎに言われた通りこればかりはこの落ち着く空間にいても動揺してしまうくらいには信じられなかった。
兄は皇太子と生まれ、誰よりも完璧で、皇帝となった日には誰もが喜び、それに答えるように悪事を働く貴族や犯罪者を一掃し、第二の犯罪が起きないよう対策しては治安を次々とよくして、国の英雄王と称えられていたのだから。
そんな人が国どころか世界を滅ぼすなんて何があったのかと驚くのも仕方ないだろう。兄が愛した女性があの後亡くなった……とか?でも、僕自身殺そうとしただけで結局大きな傷すらつけなかったし、病気だったという話は聞いてない。
僕以外の人物が暗殺した、もしくは事故………があるなら亡くなった可能性もあるけど、それでも兄がそんなことをするとは思えない。普段から人にも動物にもなんでも冷たい態度をとるわりには、正義とも言える行動を迷わず進み、それを譲歩したり、意見も行動も道を曲げるようなことがなかった人だから。
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