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序章・執着と重い恋の始まりーヒーロー視点ー
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お嬢様の首が身体から離れたその時、私は秘めていた恋を自覚した。それは遅すぎる恋故に、元々大切な人だと認識していた彼女の死を止められなかった後悔と恨みと憎しみをより強くするだけの厄介なもの。
本来なら宝物となっていただろう恋心は、自覚したその時に真っ黒に塗りつぶされた。
「許さない……許さない……許さない……!」
恋の自覚した分、溢れ出す抑えられないその憎悪。お嬢様が何をした?お嬢様はただ生きたい、死にたくないと願っていただけ。それをあいつらは自分の都合だけでお嬢様を………。
いや、あいつらだけではないと理解はしている。私は自分ですらその憎悪の対象なのだ。やめろと叫ぶだけでどうしようもできなかった自分すら許せない。たくさんの幸せを与えてもらってきたというのに。
そんな日々は今でも思い出せる。
始まりはお嬢様が奴隷の私を買ってくれた日。過去の記憶を失い気がつけば奴隷となっていた私は無気力に生きていた。
「あれをくださいな」
そんな私の何を見出だしたのか、何故まだ幼い彼女がこんな場所に来ていたのか疑問を抱きながらも買われることに抵抗することなどできるはずもする気もなく、その日お嬢様の奴隷となった私。
「みんな、席を外して」
そして屋敷に行くなり、奴隷の私を風呂に入れ、ご飯を食べさせて使用人たちにそう命令して私と二人になったお嬢様。最初からの良すぎる待遇だろうと私は疑問は抱くも、ただ無気力に流れのまま身を任せるようにしていたと思う。
「ようやくお会いになれたわ……ルシス様」
「………ルシス?」
私は突然呼ばれた名前に首を傾げた。まるで自分が呼ばれたような不思議な馴染み感を覚えながら。
「貴方の名前よ。記憶がないのも知っているわ……それが戻る方法も。だけど、私はそれをさせてあげられないの」
あまりに悲しそうに、それでも決意したとばかりに見せる瞳に変な令嬢だと思うばかり。奴隷の私が主人に逆らえるはずもないのだから。
でもなんだか放っておけなくて頬に触れた。奴隷の手なんて払われるとわかっていながら。
「ルシス様……貴方は優しいのね」
「!」
奴隷に様をつけるなんておかしい。そんなことよりもお嬢様の頬に触れた手を払うどころか、包み込むようにお嬢様の手が上に添えられ私は驚きで目を見開いた。
「私は貴方を本来の幸せから遠ざける存在です。だけど、その代わり私にできる幸せを与えると誓います。本当にごめんなさい」
「いいよ……」
あまりに泣きそうにするお嬢様に私は無意識にそう呟いていた。今思えばこの時から私はお嬢様に惹かれていたのだろう。
それからというもの、お嬢様は有言実行とばかりに私が過ごしやすいように、私に無体を働く使用人はクビにと私のためならばなんでもしてくれた。
申し訳ないほどに。
けれど、お嬢様に大丈夫よと守られている実感が癖付き、気がつけば甘えるようになってしまったのは今になっては恥ずかしく愚かだったと思う。
本来なら宝物となっていただろう恋心は、自覚したその時に真っ黒に塗りつぶされた。
「許さない……許さない……許さない……!」
恋の自覚した分、溢れ出す抑えられないその憎悪。お嬢様が何をした?お嬢様はただ生きたい、死にたくないと願っていただけ。それをあいつらは自分の都合だけでお嬢様を………。
いや、あいつらだけではないと理解はしている。私は自分ですらその憎悪の対象なのだ。やめろと叫ぶだけでどうしようもできなかった自分すら許せない。たくさんの幸せを与えてもらってきたというのに。
そんな日々は今でも思い出せる。
始まりはお嬢様が奴隷の私を買ってくれた日。過去の記憶を失い気がつけば奴隷となっていた私は無気力に生きていた。
「あれをくださいな」
そんな私の何を見出だしたのか、何故まだ幼い彼女がこんな場所に来ていたのか疑問を抱きながらも買われることに抵抗することなどできるはずもする気もなく、その日お嬢様の奴隷となった私。
「みんな、席を外して」
そして屋敷に行くなり、奴隷の私を風呂に入れ、ご飯を食べさせて使用人たちにそう命令して私と二人になったお嬢様。最初からの良すぎる待遇だろうと私は疑問は抱くも、ただ無気力に流れのまま身を任せるようにしていたと思う。
「ようやくお会いになれたわ……ルシス様」
「………ルシス?」
私は突然呼ばれた名前に首を傾げた。まるで自分が呼ばれたような不思議な馴染み感を覚えながら。
「貴方の名前よ。記憶がないのも知っているわ……それが戻る方法も。だけど、私はそれをさせてあげられないの」
あまりに悲しそうに、それでも決意したとばかりに見せる瞳に変な令嬢だと思うばかり。奴隷の私が主人に逆らえるはずもないのだから。
でもなんだか放っておけなくて頬に触れた。奴隷の手なんて払われるとわかっていながら。
「ルシス様……貴方は優しいのね」
「!」
奴隷に様をつけるなんておかしい。そんなことよりもお嬢様の頬に触れた手を払うどころか、包み込むようにお嬢様の手が上に添えられ私は驚きで目を見開いた。
「私は貴方を本来の幸せから遠ざける存在です。だけど、その代わり私にできる幸せを与えると誓います。本当にごめんなさい」
「いいよ……」
あまりに泣きそうにするお嬢様に私は無意識にそう呟いていた。今思えばこの時から私はお嬢様に惹かれていたのだろう。
それからというもの、お嬢様は有言実行とばかりに私が過ごしやすいように、私に無体を働く使用人はクビにと私のためならばなんでもしてくれた。
申し訳ないほどに。
けれど、お嬢様に大丈夫よと守られている実感が癖付き、気がつけば甘えるようになってしまったのは今になっては恥ずかしく愚かだったと思う。
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