上 下
7 / 20

7

しおりを挟む
「エリス様に惚れてから毎日毎日エリス様、エリス様とエリス様の話しかしないんですよ?」

「あの、えっと……」

わ、私は何をヒロインに……いや、ルルー様に聞かされているの?

「エリス様が今日も可愛らしかったとか。可愛いだけでなく美しくもあるだとか……は毎日言わないといけない病にでもかかったぐらいに聞かされましたね」

「な……っえ……」

はぁ……と呆れたようにため息を吐くルルー様。その隣でうんうん頷くルーン様。私は身体中が熱くなるような感覚で言葉が紡げない。しかし、そんな私を余所にルルー様は続けざまに愚痴を吐くかのようにまだまだ語る。

「日に日にそれは悪化してエリス様の髪からいい匂いがした。今日は髪飾りが変わってより可愛くなったせいで他に言い寄られないか心配だ。勉強を教えてくれるとき今日は1センチほどいつもより近かったって……だんだんやばくなってるのはわかってました」

ん?なんだか、雲行きが怪しいような……?だんだんとルルー様の表情が暗くなっていくような……。

「いつからだったでしょうね。エリス様の髪を拾ったから大切に保管しないとだとか、エリス様の香りをビンに閉じ込めただとか……さすがにエリス様の捨てたゴミは捨てるように言いましたが……」

「あれは苦渋の決断だったよ」

「しかも本人はこの通りで……」

私の知らないところでルルー様にはたくさんの苦労を背負っていたようだ。とはいえ、元は自分が相談したせいだと思って言うに言えずになっていたのかもしれない。

まあ、それ以上にミニ殿下たちに耐えきれなかったのだろうけど……。でもおかげで熱くなった身体は一気に冷めた気がする。ルーン様のしたことはストー………んんっ!いや、でも私を庇ってくれたわけだし決めつけるのも……でも、髪とゴミって……。

「おかしいと思ったです……ふあぁ」

混乱しきった私の代わりに口を出したのは今までぼーっとしていた一度紹介はした魔術師長官の息子キョーモ・ネタイ。立ちながらでも寝れると言うほどに寝るのが好きな攻略対象のひとり。

そんなキョーモ様は大きなあくびをしながら語り出した。

「ときどきエリス嬢を見る目がおかしいなって……エリス様の声付き目覚ましがほしいって魔術で作れないかとか変なこと頼むときあったし……」

「お兄様!私に入れ替わってそんなことを!?」

まあ自分の姿で私の声付き目覚ましだなんて頼まれたら変な子扱いされるだろうし……怒るのは仕方ないよね。というかそんなこと頼んでたの……?もうルーン様がわからない……。

「エリス様の声で目覚めたいと考えて何が悪い?」

「気持ちはわかります!だからこそずるい!私だってほしいです!」

うう……ルルー様もわからない……。私はつくづくヒロインと関わるものと相性が悪い気がしています。私の声で目覚めたいって何……?もはや居たたまれない気持ちでいっぱいになった私だった。

「もういっぱい喋ったから寝に帰るです。トンチン、殿下のことよろしくねぇ」

そんな私を気にもかけず言うだけ言って寝るために去ろうとするキョーモ様のなんと薄情なことか。

「帰るな!バカ!」

そんなキョーモ様の首元を掴んで捕まえたのはミニ殿下を任されそうになったトンチン様。どうやらショックから立ち直ったご様子。一番メンタルが強そうではある。

「ぐぇっバカにバカって言われるのは心外です……ぐー」

「寝るなぁあぁぁっ!」

一瞬苦しそうにしたキョーモ様はバカ扱いされ不愉快そうにしたかと思えば、首を引っ張られたまますぐに寝てしまう。それにトンチン様が叫ぶがキョーモ様の鼻からは提灯が。ぐっすりである。

トンキョー騎士×魔術師もありですわね……」

「!」

一瞬周囲からボソリと呟かれた言葉にえ?と思うが、きっと気のせいだったのだろう。後日非常にトンチン様とキョーモ様に似た絵で、名前まで同じという不思議な薄い本を見かけることになる私だが、その時ボソリと呟いた令嬢が描いたものだとついぞ知ることはなかった。
しおりを挟む
感想 65

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢とヒロインと王子の婚約破棄騒動茶番劇

かのん
恋愛
 婚約破棄。それは普通ならば終わりを告げるもの。  けれども今回の婚約破棄は、ただの三人による茶番劇である。  三話完結。ちょっとした暇つぶしにお読みください。

乙女ゲームの正しい進め方

みおな
恋愛
 乙女ゲームの世界に転生しました。 目の前には、ヒロインや攻略対象たちがいます。  私はこの乙女ゲームが大好きでした。 心優しいヒロイン。そのヒロインが出会う王子様たち攻略対象。  だから、彼らが今流行りのザマァされるラノベ展開にならないように、キッチリと指導してあげるつもりです。  彼らには幸せになってもらいたいですから。

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました! でもそこはすでに断罪後の世界でした

ひなクラゲ
恋愛
 突然ですが私は転生者…  ここは乙女ゲームの世界  そして私は悪役令嬢でした…  出来ればこんな時に思い出したくなかった  だってここは全てが終わった世界…  悪役令嬢が断罪された後の世界なんですもの……

こうして悪役令嬢はバッドエンドを回避した。

真冬のラズビ
恋愛
 ローズは義妹であるリリーに泥水をかけていた時に、ふと自分が生きている世界が前世のゲームの世界であることを思い出してしまった。そしてバッドエンド回避のために奮闘した。これはバッドエンド回避のために努力するローズの物語。  リリーは白百合のように可憐でありその出自からヒロイン、ローズは薔薇のように華麗でリリーとの関係性から悪役令嬢と呼ばれそれぞれ人気があった。それなのに何故身分を失うようなことをしてしまったのだろうか。 とある悪役令嬢ローズのお話。 ★ 世界観を作るために書きました。 コツコツ書き溜めて後々長編にしたいです。 特に山なし谷なし。 こちらだけでも悪役令嬢の思考的なものは楽しめると思いますが、『こうしてヒロインは追放された。』(4000字未満)を読むとさらに楽しめると思います。

役立たずの私はいなくなります。どうぞお幸せに

Na20
恋愛
夫にも息子にも義母にも役立たずと言われる私。 それなら私はいなくなってもいいですよね? どうぞみなさんお幸せに。

【完結】もしかして悪役令嬢とはわたくしのことでしょうか?

桃田みかん
恋愛
ナルトリア公爵の長女イザベルには五歳のフローラという可愛い妹がいる。 天使のように可愛らしいフローラはちょっぴりわがままな小悪魔でもあった。 そんなフローラが階段から落ちて怪我をしてから、少し性格が変わった。 「お姉様を悪役令嬢になんてさせません!」 イザベルにこう高らかに宣言したフローラに、戸惑うばかり。 フローラは天使なのか小悪魔なのか…

虐げられた令嬢、王妃になる???~一度婚約破棄されたくらいではめげません!!!~

tartan321
恋愛
タイトル通りです。明日完結します。

処理中です...