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まとめ買いは店を買収することではない

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「本が一杯・・・迷うなぁ」

本屋に着けば目を輝かせて本を見るはじめの姿。さっきのことよりも本に興味がいったんだろう。

やっぱりはじめは笑っている顔がいい。報告にもあったけど、親から離れ、親戚の家で暮らし始めたはじめは、一日3食食べられるようになっただけよかったらしく、ほしいものをねだるようなこともしなかったようだ。

実際、親戚の家は趣味に本を少しずつ増やしていくのが贅沢なくらいで、はじめはその本を読む時間が一番穏やかな時間であるように思えたと聞いている。

これだけで精一杯な親戚の家庭がなぜ、はじめの一人暮らしをさせ、それを援助できているのか。親戚は虐待をしていたはじめの両親から、はじめの養育費をもぎ取り、いつかはじめの自立のために望む資金として残しておいたお金で賄っていこうとしたらしい。

まあ今は僕のお金ではあるんだけど。随分人のいいはじめの親戚にも、はじめがお世話になった意味で感謝の印にお金を与えようとしたけど、拒否されたと聞く。実際、はじめの一人暮らしの援助すら私たちが今の親としてしてあげたいと説得は大変だったとか。

本当の親より親らしい親戚の人がいたからこそ、はじめは今までの学校の現状も耐えられたのかもしれない。これからは耐えさせるなんてこともさせないけどね。

結局その資金は高校、大学の資金にしてはどうかという話で説得できた。まさか高校に行くのに親戚の家からは遠く、一人暮らしをするように進めることになるとは予想にしなかったらしく、大学に行かせる余裕は一人暮らしをはじめることで難しくなったと悩んでいたようだから、はじめのためになるならと渋々に説得に納得していただいた。

まあそれでせめてもの親心としての入学祝いの本なのだろう。はじめが自分の本を持つのは初めてらしいし、見るだけで楽しそうだ。

気になる本がたくさんあるのも初めて自分で選ぶ本ならば仕方ない。

「入学祝いは一冊だけ?」

「あ、うん。あまり多くは頼めないし、一冊でも俺にはすごく嬉しい」

本心だろう。手にとる本は多くても、そこから一冊なだけに目は真剣だ。あの親戚の人たちならば入学祝いの本くらいもう少し無理してでも出してくれそうだけれど、迷惑はかけたくないとはじめは言いそうだ。

本一冊、入学祝いにと言われ、はじめは最初こそいらないと拒否していてもおかしくはない。今日帰ればその辺りの報告を聞いてみてもいいかな。

にしても、はじめは本ならなんでも興味深いのか、漫画から小説から、雑誌から絵本まで手に取っている。現在は子供ピアノつきの絵本の音を鳴らして興味津々だ。

今までゆっくりと本屋を眺めることがなかったようだから、本であれば、はじめにとって全てが魅力的なんだろう。

「こんな小さいピアノあるんだな。本というか楽譜かな?」

「子供にでもわかるよう書かれているね」

「俺でも弾けるよ」

「それにするの?」

「少し楽しいけど、さすがに俺みたいな高校生成り立てが買うものじゃないのはわかる」

少し恥ずかしそうに頬を掻くはじめ。ああ、なんだろう、これは。こう、そう・・・可愛いだ。寧ろ僕が買って、はじめが毎日楽しそうに子供ピアノ弾く姿が見たい。うん、後で買ってプレゼントしよう。

あちらこちら見る度に買ってあげようとなってしまう僕は今だ本を眺めるはじめの横に立っていれば、二人の大人の会話が聞こえた。

「え、まとめ買いすんの?」

「だって読めば絶対続き気になるし」

まとめ買い。なるほど、巻数のある本もはじめは手に取っている。なら、もしそれを買えば、読むことで続きが気になって読みたくなることだろう。

それに気になるものがあれだけ多いとなると、僕もまとめ買いしても持ち帰るのが大変だし、まだ書庫用の家も見つけてない。どうせまとめ買いするなら本屋を買い取る方が早いかな?本屋を買えばまとめ買いだよね。家を探す必要もないし。

「はじめ」

「あ、ごめん、さすがに暇になってきた?」

「そんなことはないよ。ただ、はじめはどの本も読みたいようだから本屋を買い取ってこようかと」

「え?」

「責任者探すからついてきてくれる?」

「え?え?」

戸惑う様子のはじめを引き連れ、責任者に意味がわからないと驚かれ、話をつけるも学生相手がふざけるなと失敗。

はじめは無茶だよと言い、今日は時間がもう遅いからまた明日入学祝いの本を探すと言われ、結局帰ることに。

はじめを監視しながら電話口であるところに電話し、翌日本屋の建物から本に、備品まで僕のものになった。働いていた従業員には別の仕事先を与え、本屋は潰れて念願の書庫に。

その日の放課後、何の前触れなく、閉店しましたと書かれた紙に、はじめは唖然としていて、気にせず中に案内する僕に、混乱した様子だった。でも何度か説明すれば信じられないと驚いた表情と共に、なんとか納得した様子。

「えっと、お金はぜろに渡せばいいの?」

「いらないけど、入学祝いの本代は受けとるべきかな?今後はここの本好きに持っていっていいよ」

「え、でも・・・」

「ここはもう本屋じゃなく、僕の書庫だから。ああ、でもこの書庫は、僕からの入学祝いとして受け取ってほしいな。はじめの書庫として。お金は気にしなくていいから」

「し、書庫なんてもらえないよ!同い年なのに俺だけ入学祝いもらうのもおかしいし!というか本屋の買い取り本気だったの!?」

「まとめ買いするならてっとり早いかなって」

「まとめ買いとか大人買いとかのレベルじゃない・・・!」

「本だけまとめ買いしたら持って帰るのも大変だからね。本屋を買い取れば書庫用の家もいらないし面倒が減るから」

「書庫用の家も聞かないよ・・・ぜろってやっぱりすごい人なの?昨日の今日で・・・」

「聞きたいなら話すよ?」

「い、今は心の準備がまだ・・・」

「まあ書庫をもらうのが重荷なら好きに本がもらえて読める場所だと思ってくれればいいよ」

「せめて借りる方向性で」

「返されても困らないし、はじめがしたいようにすればいいよ」

まあはじめが好きに使って喜んでもらえるならそれでいい。今は戸惑いや混乱が多いみたいだけど、あれだけ本に興味があって好きなら、その内慣れて昨日みたいに楽しそうにするはじめが見られるだろう。

その日がなんとも楽しみだ。でも今はいいのかな?とまだ戸惑いがとれてない様子で本を手に取りはじめるはじめが可愛いし、しばらくはこれでもいいかもしれない。

そう思った翌日には、はじめがここでも読めるよう座り心地のいい椅子やそれに合わせた机が用意されており、放課後僕と二人で元本屋の書庫で本を読むことが日課になったのは言うまでもない。
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