君という光を主と決めた~伝説の殺し屋の息子は表世界で自重しない~

荷居人(にいと)

文字の大きさ
上 下
3 / 9

友達と不安

しおりを挟む
入学式は確かに終わりを告げた。唯一無事な校長の言葉により。入学式を終えたことによりとりあえず教室に向かうことになり、はじめ様の隣を歩くが、無言。今だにはじめ様の震えは止まっていない。

それが何の震えかなんて僕が一番わかっている。『恐怖』だ。幼い頃から伝説を越える今まで数えきれないくらい恐怖に呑まれる人たちを見てきた。なのに、それがはじめ様というだけで胸が痛むのを感じる。

大人しく捕まった方がよかったのだろうか、嫌わないでほしい。無言は余計恐怖を掻き立てるとなんとか重い口を開いた。

「は、はじめ様、僕の名前、清水ぜろって言うんです」

「ぜろ・・・?」

よかった返してくれた。これが安堵というそれだろう。怯える目を見せながら、僕のここでの名を呟く。本当の名などありはしないが自分が呼ばれているとわかるそれは込み上げる何かがある。

「覚えてないかもしれませんが、幼い頃はじめ様に一緒に遊んでと頼まれて、誓いもしました。はじめ様には怖がらせることは何もいたしません。だから、どうか・・・っ!?」

なんだ、これは・・・僕が震えている?

「覚えてる、ぜろ。初めて一緒に遊んでくれた子だったから。でもあれっきり会えなくて嫌な思いさせちゃったかなって」

「そんなことは!僕は父によりこの表世界に来られなくなっただけで・・・」

「表世界?よくわからないけど、嫌われてないならよかった・・・ふふっ安心したよ。ぜろ強いんだね。変なの、ぜろだってわかったら怖くなくなったよ」

「はじ、め様」

「俺に従うなら友達になって」

「友達、ですか?」

「そう。様はやめて、敬語もやめよう?同い年なんだから」

「はじめ様・・・」

「いや、かな?」

「いえ!いやなど!友達になります!」

「ぜーろ?」

「う・・・っわかったよ。はじめ」

「うん!」

ああ、眩しい光。こんなにも簡単に笑顔を頂いていいんだろうか。闇で、裏で汚れた僕がはじめの友達として相応しいんだろうか。

でもそれを、はじめが望むというなら僕ははじめの望みを叶えたい。教室ではじめ様は僕の後ろの席。姿は見えずとも気配は感じる。現れるかもわからない教師を待つ間、つんつんと背中をつつくのははじめで、自然と笑みを浮かべて振り向く。周囲がざわりとした気がした。

「どうしたの、はじめ」

「なんでもないんだけど、なんか嬉しくて」

「そう・・・はじめが楽しいならいいよ」

「うーん、楽しいとは違うような・・・」

「なら楽しいことをするために今日は一緒に帰ろうか」

「い、いいの?」

「僕が誘ったんだよ」

まるであのときのはじめそのもの。

「そ、そうだよな!一緒に帰ろう!俺、友達と帰るの初めてだ・・・っ」

「毎日一緒に帰って慣れればいいよ。したいことあるなら付き合うし」

「うん!」

素で話している自覚があるせいか、友達であろうとする心のせいか、敬語が抜けてからどうも落ち着いている自分がいる。寧ろさっきまで浮かれすぎていたのかもしれない。

はじめに嫌われるかもと怯えてテンションをあげようとしていたのかもしれない。はじめは友達になろうとすることで僕をそれから解放してくれたのかもしれない。

僕をいつも通りにしてくれたはじめが嬉しそうに笑うから自分まで嬉しくなった気がした。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

俺達の関係

すずかけあおい
BL
自分本位な攻め×攻めとの関係に悩む受けです。 〔攻め〕紘一(こういち) 〔受け〕郁也(いくや)

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

【BL】どうやら精霊術師として召喚されたようですが5分でクビになりましたので、最高級クラスの精霊獣と駆け落ちしようと思います。

riy
BL
風呂でまったりしている時に突如異世界へ召喚された千颯(ちはや)。 召喚されたのはいいが、本物の聖女が現れたからもう必要ないと5分も経たない内にお役御免になってしまう。 しかも元の世界へも帰れず、あろう事か風呂のお湯で流されてしまった魔法陣を描ける人物を探して直せと無茶振りされる始末。 別邸へと通されたのはいいが、いかにも出そうな趣のありすぎる館であまりの待遇の悪さに愕然とする。 そんな時に一匹のホワイトタイガーが現れ? 最高級クラスの精霊獣(人型にもなれる)×精霊術師(本人は凡人だと思ってる) ※コメディよりのラブコメ。時にシリアス。

捨て猫はエリート騎士に溺愛される

135
BL
絶賛反抗期中のヤンキーが異世界でエリート騎士に甘やかされて、飼い猫になる話。 目つきの悪い野良猫が飼い猫になって目きゅるんきゅるんの愛される存在になる感じで読んでください。 お話をうまく書けるようになったら続きを書いてみたいなって。 京也は総受け。

優しい恋に酔いながら

すずかけあおい
BL
一途な攻め×浅はかでいたい受けです。 「誰でもいいから抱かれてみたい」 達哉の言葉に、藤亜は怒って――。 〔攻め〕藤亜(とうあ)20歳 〔受け〕達哉(たつや)20歳 藤の花言葉:「優しさ」「歓迎」「決して離れない」「恋に酔う」「忠実な」

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...