不眠症公爵様を気絶(寝か)させたら婚約者に選ばれました

荷居人(にいと)

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5章恋を成就させるのはどっちですか?食べられるクッキーvs食べられないクッキー

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平民たちは空気が読める。しかし、貴族たちもそうかと言えばそうでもない。特に欲が深い貴族こそ邪魔をしたがるわけである。

特にルドルクは王でありながらも、ルーベルトを狙うよりか断然難易度が低い。ネムリンの傍では若干ルドルクが勝つかもしれないが。

どちらにしろ地位はルドルクの方が上であり、国一番である。その座の隣につきたいプライドの高い貴族の女バカはいるわけで…………。

「陛下、こんなところで奇遇ですわね!」

お忍びのつもりはないとばかりにドレスで着飾りいかにも貴族ですと、まあ貴族なのだがそんななりの女性がひとりルドルクの前に立つ。

自分のルックスに自信があるのだろう。実際美人ではあるし、貴族平民関係なく見惚れる男性がいてもおかしくはない。

だが、誰もが温かく見守りお忍びだとあからさまなのにそれをバラす行為をしてせっかくのお忍びデートを邪魔するバカには見惚れるどころか怒りが湧く始末である。

実際、同じくお忍びで来ていてその女性を知る貴族もいたが百年の恋も冷めるほどに空気の読めない顔だけのバカと冷めた目で見ていることに令嬢は気づいていない。

きっとこのことは他に広がる噂話になるだろう。しかし、そんなこと令嬢は気がつかないし思いもしない。だってバカだから。

ルドルクが嫌そうな表情を見せても照れてるのねと解釈してしまうバカである。王に対して不敬だと言うにも一応お忍び、こんなところで咎められない。だが、王と知って紹介もなしに話しかけてくる辺り非常識な人間なのは誰もがわかること。

ルドルクがちらりとアクニーを見ればアクニーの不安そうな表情。さらに後ろから感じる殺気はルーベルトだろうことがルドルクにはわかる。

殺気を向けられているだろう令嬢はそれこそバカなようなので気づいていない。

殺気を出す人物がルドルクで隠れているせいかもしれないが、勘弁してほしいとルドルクは思う。デートの邪魔をされて機嫌が急降下したのは何もルーベルトだけではない。

そんな機嫌を降下させるのがうまい令嬢バカをどう対処するか、昔から令嬢に囲まれてきたルドルクの考えは早かった。

「ニーナ、少しお腹が空いた。あそこで食事をしようか」

「え?あ、はい」

無視である。知ってるものからの紹介をされた覚えもなければあくまでお忍びを貫くためルドルクは令嬢を気づかないフリをした。目の前にいたとしても。

アクニーは戸惑うし、二人を応援するネムリンは意外にもうんうんとルドルクの対応に喜んでいる様子。ルーベルトはいい気味だとばかりに殺気が半減した。

見ていた周囲もくすくすと笑ってさすがは陛下と心の中でルドルクの行動を称えた。

そして無視されるとは思いもしなかった令嬢は固まった。その間にルドルクたちはその令嬢を避けて食事をすべくルドルクが指定したその店へと入っていく。

店へルドルクたちが消えてようやく令嬢は無視されたのだと遅くも理解した。

「わ、私を無視するだなんて!平民ごときが笑わないでくださいます!?不敬よ!」

さらに笑われていることにも気づいて顔を真っ赤にさせて怒る。明らかに八つ当たりなのもあるだろう。貴族は貴族なため笑いを堪える平民たちだが、あまりの惨めなそれに我慢できないとばかりに笑みが溢れる。

「お父様に言って貴方たちなんか…………!」

「自分の失態で笑われる己が悪いと言うのに民に当たるとは同じ貴族として情けないですね」

「だ、誰よ!」

怒りを露にして民たちに罰を与えてやるとばかりに癇癪を起こす令嬢に立ち向かうのはひとりの青年。見た目は明らかに平民だが、あまりに小綺麗すぎるそれにと言う言葉に真実を感じた令嬢が狼狽える。

「こんな格好で失礼。私はタイ侯爵家長男ドーヘン・タイと申します」

「こ、侯爵………」

「貴女はツボ侯爵のクーラ嬢ですね」

「そ、そうよ!」

同じ貴族位ならばどうしたものかと自ら名乗りもせずクーラは喚く。その態度にぴくりと一瞬不機嫌そうにドーヘンが眉を動かすもクーラは気づかない。

「陛下が見逃してくれなければ貴女不敬罪だったのをわかっていますか?同じ侯爵家のものとして恥ずかしいものです。今のはどう見ても民に笑われる貴女が悪いでしょう。貴女の父が民に酷い目に合わすと言うならタイ家が黙っていません。きっと陛下たちも力を貸してくださるでしょう。まあ貴女程度、私と父で十分ですが」

「ば、バカにして………っ」

「バカをバカにして何が悪いのでしょうか?」

「貴方こそ不敬だわ!」

「いやはや、私は耳が悪いのかな?どう見てもタイ家のご子息が不敬とは感じないが」

「誰よ!貴方!」

「これは、カギリ公爵様。貴方様がいらしたとは」

「こ、公爵………!?」

「全く、わしのお忍びも台無しじゃ。それに侯爵ごとき令嬢がわしの顔も知らんとは………口の聞き方にしてもそれこそ不敬では?」

「あ………あ………」

真っ青になっていくクーラ。バカでも意味はわかったようだ。民たちはすごい貴族の集まりだといく末を眺める。

「おや」

そして限界を越えたとばかりに倒れたクーラ。

「ちゃんと公爵家を覚えていればこうはならなかったでしょうに。ねぇ、父上?」

「そうだな。イチド・カギリ公爵だからな。そんな公爵存在せぬ。だが………公爵の名を名乗ったのには罰があるかもしれんなあ」

「誰にも言いません!」

「ありがとうございます!」

ここぞとばかりの民たちの言葉にタイ親子はにんまりと笑う。

「なら心配はないな」

「口止め代わりに何かあればご相談ください」

この日よりタイ家はよい貴族であると民の中で広がった。クーラ・ツボ令嬢に関しては悪い噂ばかり広がり、ついには一日で都合の悪いことを忘れるバカ故にルドルクへの不敬を重ね、没落する未来があることを今気を失うクーラは知らない。
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