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5章恋を成就させるのはどっちですか?食べられるクッキーvs食べられないクッキー

2.5

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ルドルクがショックを受けている頃、まだフビン国で同盟を結んでいない国、レター国はフビン国に潜ませていた密偵から報告を聞いていた。

「フビン国では今、新たな武器が作成されております」

「ほう?同盟をいくらか受けたと若造が調子に乗っておるのかのぅ」

「それでその武器に使われている材料と武器の一部を手に入れて参りました」

「よくやった。して、まずは」

「口を挟みすみません。先に材料なんですが、小麦粉と卵と………」

「待て待て待て」

レター国の王は頭を押さえた。自分は武器について聞いているはずだと。

「なんでしょうか?」

「口を挟んで言い出したことはともかく武器の材料をわしは聞きたいんだが?」

「ですから小麦粉と卵と」

「お前は冗談が苦手だったはずだが」

「そうですが」

「先に武器を見せろ」

「はい。こちらです」

密偵が懐から出したのは袋、そしてその袋から出したのはナイフの形と大きさをそのままにしたである。

「どう見てもクッキーじゃろ」

「はい、クッキーです」

「わしは武器を見せてほしいんだが」

「? 武器です」

「クッキーを武器と言い張る冗談はもうよい」

王は呆れ、密偵は首を傾げる。この二人の違いはクッキーを食べるものと理解しているかしていないかの考え方。

密偵は少しばかりフビン国に毒されているのがよくわるというもの。

「冗談じゃないです。フビン国の兵は全員クッキーの剣は当たり前ですよ」

「はっはっはっそんな国あったら頭おかしいと笑われるじゃろうて」

「陛下、クッキーをバカにする者はクッキーに泣くという言葉があります」

「知らん。わし、そんなものはないと断言できるぞ」

「フビン国の兵の訓練前の号令です」

「知るわけないわな。そんなものを号令にしとるのか」

「最近はクッキーで戦う令嬢も兵の訓練に混ざって」

「れ、令嬢?女を兵にするほどに切羽詰まっているのか?」

「いえ、令嬢はクッキーとその身体を使って兵をなぎ倒してます。私もひそかに参加しましたが気がついた時には地面に転がってました」

「な………っ」

さすがの王も固まる。王が信じる密偵は戦闘力もあり、兵以上に優戦力となるものなだけに気がつけば地面に転がるという言葉に信じられない気持ちだった。しかも令嬢相手に。令嬢というのだから貴族の女性であり、まだ庶民の女性の方なら明らかに令嬢よりもたくましいので納得できたというもの。

それでも信じられなかっただろうが。

「陛下、このクッキー食べてみます?」

「やはりクッキーではないか」

「毒味は………」

「お主なら信頼しておる」

「いや、このクッキーは毒味できません。舐めるのが精一杯です」

「………そうか」

密偵は真面目である。それは王もわかっているが、さすがに冗談だと思ってしまう。舐めるだけで精一杯のクッキーなんて意味がわからないと。

そして献上された武器クッキーは……………。

「んぐっ!?」

食べられるはずもなかった。食べられたらフビン国の兵から称えられるほどに今だに一口すら味わってもらえないクッキーなのだから。

制作者は言わずともわかるだろうネムリン・トワーニである。

「大丈夫ですか?」

「い、いひゃい」

「陛下!」

「毒、ではない」

ダラッと陛下の口から血が流れる。見ていた騎士が慌てたように駆け寄るが、陛下の手によって止められる。

「刃の部分を口に入れるからですよ」

「切れ味よすぎじゃ!寧ろひとかけらも割れる気配もないこのクッキーはなんじゃ!」

「クッキーはクッキーです。盾にすれば剣は折れ、剣にすれば壁さえも斬れるクッキーですね」

この密偵、フビン国で何を見てきたのか。クッキーのあるべき姿として当然だろうとばかりに言っている。冗談など彼は言っている気はない。最初から本気だ。

王も引いたし、衛兵も引いた。

「誰かクッキーを持ってきてやれ」

誰もが引いて静かな空間でひきつった表情を見せる王の声が響く。

そして少しの時間が流れ持ってこられたクッキーはナイフの形はしていない丸い小さなクッキーである。

「食べるがよい」

「クッキーは食べ物じゃありませんよ、陛下」

密偵が何を言っていると首を傾げる辺りフビン国に毒されすぎである。クッキーを武器として材料持参で持ってきたならこの国にクッキーを武器にするものはいないと理解できるだろうに。

レター国でのクッキーは当然食べられるクッキーしか存在しない。寧ろ食べられないのが存在するのはフビン国だけである。

「王命じゃ」

クッキーを食べろなんて王命を出すものはこの先現れないだろう。

王命と言われれば逆らえない密偵は食べた。さくりと音がなりクッキーを。

「こんなのクッキーでは………!いや、クッキーは本来食べるもの………ううっ」

「すまん、疲れておるのじゃな」

この時王は密偵の混乱する様子に優秀だからとコキ使いすぎたことを心から反省した。

そしてその夜フビン国と戦争する夢を見て考えていたフビン国の戦を取り止めた。夢のフビン国の兵は全身クッキーに包まれた服と武器であり、実現しそうなそれに王はなんとなく、戦いたくないと思ってしまったのだ。

戦を好む国、レター国の王ツーカ・レターもなんだかんだと戦に疲れていたのだろう。後日戦のやる気をなくしたレター国はフビン国と同盟を結ぶこととなった。何が王にそうさせたのかはクッキーを語った密偵だけが知る。
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