37 / 46
5章恋を成就させるのはどっちですか?食べられるクッキーvs食べられないクッキー
2.5
しおりを挟む
ルドルクがショックを受けている頃、まだフビン国で同盟を結んでいない国、レター国はフビン国に潜ませていた密偵から報告を聞いていた。
「フビン国では今、新たな武器が作成されております」
「ほう?同盟をいくらか受けたと若造が調子に乗っておるのかのぅ」
「それでその武器に使われている材料と武器の一部を手に入れて参りました」
「よくやった。して、まずは」
「口を挟みすみません。先に材料なんですが、小麦粉と卵と………」
「待て待て待て」
レター国の王は頭を押さえた。自分は武器について聞いているはずだと。
「なんでしょうか?」
「口を挟んで言い出したことはともかく武器の材料をわしは聞きたいんだが?」
「ですから小麦粉と卵と」
「お前は冗談が苦手だったはずだが」
「そうですが」
「先に武器を見せろ」
「はい。こちらです」
密偵が懐から出したのは袋、そしてその袋から出したのはナイフの形と大きさをそのままにしたクッキーである。
「どう見てもクッキーじゃろ」
「はい、クッキーです」
「わしは武器を見せてほしいんだが」
「? 武器です」
「クッキーを武器と言い張る冗談はもうよい」
王は呆れ、密偵は首を傾げる。この二人の違いはクッキーを食べるものと理解しているかしていないかの考え方。
密偵は少しばかりフビン国に毒されているのがよくわるというもの。
「冗談じゃないです。フビン国の兵は全員クッキーの剣は当たり前ですよ」
「はっはっはっそんな国あったら頭おかしいと笑われるじゃろうて」
「陛下、クッキーをバカにする者はクッキーに泣くという言葉があります」
「知らん。わし、そんなものはないと断言できるぞ」
「フビン国の兵の訓練前の号令です」
「知るわけないわな。そんなものを号令にしとるのか」
「最近はクッキーで戦う令嬢も兵の訓練に混ざって」
「れ、令嬢?女を兵にするほどに切羽詰まっているのか?」
「いえ、令嬢はクッキーとその身体を使って兵をなぎ倒してます。私もひそかに参加しましたが気がついた時には地面に転がってました」
「な………っ」
さすがの王も固まる。王が信じる密偵は戦闘力もあり、兵以上に優戦力となるものなだけに気がつけば地面に転がるという言葉に信じられない気持ちだった。しかも令嬢相手に。令嬢というのだから貴族の女性であり、まだ庶民の女性の方なら明らかに令嬢よりもたくましいのでまだ納得できたというもの。
それでも信じられなかっただろうが。
「陛下、このクッキー食べてみます?」
「やはりクッキーではないか」
「毒味は………」
「お主なら信頼しておる」
「いや、このクッキーは毒味できません。舐めるのが精一杯です」
「………そうか」
密偵は真面目である。それは王もわかっているが、さすがに冗談だと思ってしまう。舐めるだけで精一杯のクッキーなんて意味がわからないと。
そして献上された武器クッキーは……………。
「んぐっ!?」
食べられるはずもなかった。食べられたらフビン国の兵から称えられるほどに今だに一口すら味わってもらえないクッキーなのだから。
制作者は言わずともわかるだろうネムリン・トワーニである。
「大丈夫ですか?」
「い、いひゃい」
「陛下!」
「毒、ではない」
ダラッと陛下の口から血が流れる。見ていた騎士が慌てたように駆け寄るが、陛下の手によって止められる。
「刃の部分を口に入れるからですよ」
「切れ味よすぎじゃ!寧ろひとかけらも割れる気配もないこのクッキーはなんじゃ!」
「クッキーはクッキーです。盾にすれば剣は折れ、剣にすれば壁さえも斬れる普通のクッキーですね」
この密偵、フビン国で何を見てきたのか。クッキーのあるべき姿として当然だろうとばかりに言っている。冗談など彼は言っている気はない。最初から本気だ。
王も引いたし、衛兵も引いた。
「誰か本当のクッキーを持ってきてやれ」
誰もが引いて静かな空間でひきつった表情を見せる王の声が響く。
そして少しの時間が流れ持ってこられたクッキーはナイフの形はしていない丸い小さなクッキーである。
「食べるがよい」
「クッキーは食べ物じゃありませんよ、陛下」
密偵が何を言っていると首を傾げる辺りフビン国に毒されすぎである。クッキーを武器として材料持参で持ってきたならこの国にクッキーを武器にするものはいないと理解できるだろうに。
レター国でのクッキーは当然食べられるクッキーしか存在しない。寧ろ食べられないのが存在するのはフビン国だけである。
「王命じゃ」
クッキーを食べろなんて王命を出すものはこの先現れないだろう。
王命と言われれば逆らえない密偵は食べた。さくりと音がなり食べられるクッキーを。
「こんなのクッキーでは………!いや、クッキーは本来食べるもの………ううっ」
「すまん、疲れておるのじゃな」
この時王は密偵の混乱する様子に優秀だからとコキ使いすぎたことを心から反省した。
そしてその夜フビン国と戦争する夢を見て考えていたフビン国の戦を取り止めた。夢のフビン国の兵は全身クッキーに包まれた服と武器であり、実現しそうなそれに王はなんとなく、戦いたくないと思ってしまったのだ。
戦を好む国、レター国の王ツーカ・レターもなんだかんだと戦に疲れていたのだろう。後日戦のやる気をなくしたレター国はフビン国と同盟を結ぶこととなった。何が王にそうさせたのかはクッキーを語った密偵だけが知る。
「フビン国では今、新たな武器が作成されております」
「ほう?同盟をいくらか受けたと若造が調子に乗っておるのかのぅ」
「それでその武器に使われている材料と武器の一部を手に入れて参りました」
「よくやった。して、まずは」
「口を挟みすみません。先に材料なんですが、小麦粉と卵と………」
「待て待て待て」
レター国の王は頭を押さえた。自分は武器について聞いているはずだと。
「なんでしょうか?」
「口を挟んで言い出したことはともかく武器の材料をわしは聞きたいんだが?」
「ですから小麦粉と卵と」
「お前は冗談が苦手だったはずだが」
「そうですが」
「先に武器を見せろ」
「はい。こちらです」
密偵が懐から出したのは袋、そしてその袋から出したのはナイフの形と大きさをそのままにしたクッキーである。
「どう見てもクッキーじゃろ」
「はい、クッキーです」
「わしは武器を見せてほしいんだが」
「? 武器です」
「クッキーを武器と言い張る冗談はもうよい」
王は呆れ、密偵は首を傾げる。この二人の違いはクッキーを食べるものと理解しているかしていないかの考え方。
密偵は少しばかりフビン国に毒されているのがよくわるというもの。
「冗談じゃないです。フビン国の兵は全員クッキーの剣は当たり前ですよ」
「はっはっはっそんな国あったら頭おかしいと笑われるじゃろうて」
「陛下、クッキーをバカにする者はクッキーに泣くという言葉があります」
「知らん。わし、そんなものはないと断言できるぞ」
「フビン国の兵の訓練前の号令です」
「知るわけないわな。そんなものを号令にしとるのか」
「最近はクッキーで戦う令嬢も兵の訓練に混ざって」
「れ、令嬢?女を兵にするほどに切羽詰まっているのか?」
「いえ、令嬢はクッキーとその身体を使って兵をなぎ倒してます。私もひそかに参加しましたが気がついた時には地面に転がってました」
「な………っ」
さすがの王も固まる。王が信じる密偵は戦闘力もあり、兵以上に優戦力となるものなだけに気がつけば地面に転がるという言葉に信じられない気持ちだった。しかも令嬢相手に。令嬢というのだから貴族の女性であり、まだ庶民の女性の方なら明らかに令嬢よりもたくましいのでまだ納得できたというもの。
それでも信じられなかっただろうが。
「陛下、このクッキー食べてみます?」
「やはりクッキーではないか」
「毒味は………」
「お主なら信頼しておる」
「いや、このクッキーは毒味できません。舐めるのが精一杯です」
「………そうか」
密偵は真面目である。それは王もわかっているが、さすがに冗談だと思ってしまう。舐めるだけで精一杯のクッキーなんて意味がわからないと。
そして献上された武器クッキーは……………。
「んぐっ!?」
食べられるはずもなかった。食べられたらフビン国の兵から称えられるほどに今だに一口すら味わってもらえないクッキーなのだから。
制作者は言わずともわかるだろうネムリン・トワーニである。
「大丈夫ですか?」
「い、いひゃい」
「陛下!」
「毒、ではない」
ダラッと陛下の口から血が流れる。見ていた騎士が慌てたように駆け寄るが、陛下の手によって止められる。
「刃の部分を口に入れるからですよ」
「切れ味よすぎじゃ!寧ろひとかけらも割れる気配もないこのクッキーはなんじゃ!」
「クッキーはクッキーです。盾にすれば剣は折れ、剣にすれば壁さえも斬れる普通のクッキーですね」
この密偵、フビン国で何を見てきたのか。クッキーのあるべき姿として当然だろうとばかりに言っている。冗談など彼は言っている気はない。最初から本気だ。
王も引いたし、衛兵も引いた。
「誰か本当のクッキーを持ってきてやれ」
誰もが引いて静かな空間でひきつった表情を見せる王の声が響く。
そして少しの時間が流れ持ってこられたクッキーはナイフの形はしていない丸い小さなクッキーである。
「食べるがよい」
「クッキーは食べ物じゃありませんよ、陛下」
密偵が何を言っていると首を傾げる辺りフビン国に毒されすぎである。クッキーを武器として材料持参で持ってきたならこの国にクッキーを武器にするものはいないと理解できるだろうに。
レター国でのクッキーは当然食べられるクッキーしか存在しない。寧ろ食べられないのが存在するのはフビン国だけである。
「王命じゃ」
クッキーを食べろなんて王命を出すものはこの先現れないだろう。
王命と言われれば逆らえない密偵は食べた。さくりと音がなり食べられるクッキーを。
「こんなのクッキーでは………!いや、クッキーは本来食べるもの………ううっ」
「すまん、疲れておるのじゃな」
この時王は密偵の混乱する様子に優秀だからとコキ使いすぎたことを心から反省した。
そしてその夜フビン国と戦争する夢を見て考えていたフビン国の戦を取り止めた。夢のフビン国の兵は全身クッキーに包まれた服と武器であり、実現しそうなそれに王はなんとなく、戦いたくないと思ってしまったのだ。
戦を好む国、レター国の王ツーカ・レターもなんだかんだと戦に疲れていたのだろう。後日戦のやる気をなくしたレター国はフビン国と同盟を結ぶこととなった。何が王にそうさせたのかはクッキーを語った密偵だけが知る。
10
お気に入りに追加
4,396
あなたにおすすめの小説
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
交換された花嫁
秘密 (秘翠ミツキ)
恋愛
「お姉さんなんだから我慢なさい」
お姉さんなんだから…お姉さんなんだから…
我儘で自由奔放な妹の所為で昔からそればかり言われ続けてきた。ずっと我慢してきたが。公爵令嬢のヒロインは16歳になり婚約者が妹と共に出来きたが…まさかの展開が。
「お姉様の婚約者頂戴」
妹がヒロインの婚約者を寝取ってしまい、終いには頂戴と言う始末。両親に話すが…。
「お姉さんなのだから、交換して上げなさい」
流石に婚約者を交換するのは…不味いのでは…。
結局ヒロインは妹の要求通りに婚約者を交換した。
そしてヒロインは仕方無しに嫁いで行くが、夫である第2王子にはどうやら想い人がいるらしく…。
貴方誰ですか?〜婚約者が10年ぶりに帰ってきました〜
なーさ
恋愛
侯爵令嬢のアーニャ。だが彼女ももう23歳。結婚適齢期も過ぎた彼女だが婚約者がいた。その名も伯爵令息のナトリ。彼が16歳、アーニャが13歳のあの日。戦争に行ってから10年。戦争に行ったまま帰ってこない。毎月送ると言っていた手紙も旅立ってから送られてくることはないし相手の家からも、もう忘れていいと言われている。もう潮時だろうと婚約破棄し、各家族円満の婚約解消。そして王宮で働き出したアーニャ。一年後ナトリは英雄となり帰ってくる。しかしアーニャはナトリのことを忘れてしまっている…!
王宮に薬を届けに行ったなら
佐倉ミズキ
恋愛
王宮で薬師をしているラナは、上司の言いつけに従い王子殿下のカザヤに薬を届けに行った。
カザヤは生まれつき体が弱く、臥せっていることが多い。
この日もいつも通り、カザヤに薬を届けに行ったラナだが仕事終わりに届け忘れがあったことに気が付いた。
慌ててカザヤの部屋へ行くと、そこで目にしたものは……。
弱々しく臥せっているカザヤがベッドから起き上がり、元気に動き回っていたのだ。
「俺の秘密を知ったのだから部屋から出すわけにはいかない」
驚くラナに、カザヤは不敵な笑みを浮かべた。
「今日、国王が崩御する。だからお前を部屋から出すわけにはいかない」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる