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4章王様の相談窓口はどこですか?
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ルドルクは見た。
「トロイこれで作戦も完璧よね!」
「いやぁ、さすがお嬢様ぁ………そこそこのできですねぇ」
「どういう意味よ!」
ネムリンがよく懐に入れているクッキーらしきものを掲げる令嬢をルドルクは見た。クッキーに振り回されている気がしてならないルドルクは物陰に隠れて何故かその令嬢を観察することに。
(嫌な予感しかしない)
そう思ってルドルクの思考を過ぎるのはルドルクはクッキーがアンラッキーアイテムであると占いでサギーシに言われていたこと。
「だって見た目は完璧ですけどぉ、言われてた毒入れてないじゃないですかぁ 」
(毒?まさか)
その言葉にまさ食べるどころか調べる前に犯人がわかってしまったことにルドルクは余計に出るに出られなくなる。
「入れても意味ないでしょ!クッキー固くて食べられないもの」
「お嬢様、何のためにクッキー作ったんですかぁ?」
「陛下に危害を加えてネムリン・トワーニを犯人に仕立てるのよね」
おおよそ占い通りだが、ルドルクが気になるのはただひとつ。
(食べられないクッキーをネムリン嬢以外に作る令嬢が?まさか令嬢の中では固くて重いクッキーが流行って…………うん、ないね)
すぐ冷静になった。……………が、不運にもルドルクの懐からそれはそれは重い旧型クッキーが地面に落ち、音を立てた。
「誰!?聞かれたならこれでも食らって…………きゃああぁっ陛下ぁ!?」
「ぐふっ」
「何してるんですかぁ!お嬢様ぁ!」
音に素早く反応したのは令嬢。その名もアクニー。彼女はただ焦った、聞かれたことに。
だから思わず猛スピードで物陰へ走り、相手を確認もせず投げてしまったのだ。ネムリン真似っこクッキーを。それも旧型に近く当たれば痛いだけで済まないそれを、だ。
アクニー・ナレン伯爵令嬢はネムリンのように怪力なわけではないが、令嬢にしては珍しく毎日自ら進んで鍛える変わり者だった。いらぬ筋肉が付きかけて身内に制限をかけられるほどに鍛えたこともある。第二のネムリンとも言えるほどには令嬢にはない強さを持つ。
だから至近距離でぶん殴るに近い投げられたクッキーはルドルクの頭に直撃してルドルクはその衝撃に脳が揺れ、気を失った。
明らかに加害者のアクニーにトロイも焦る。だが、運がいいのか悪いのか二人がいる場所は城から少し離れた時間帯的に人気の少ない庭園である。今日はさらに運よく誰一人いない。
ネムリンからもらった軽量化により余った旧型クッキーが懐から落ちて音を立てたことで聞いていたのがバレる不運と、ネムリンの真似っこクッキーにより焦ったアクニーによりクッキーで気絶させられたルドルクとは全く違う。
とまあルドルクが気絶して目を覚ますまでアクニーは頑張った。成人男性であるルドルクを抱き上げ、城まで運んだ。所謂お姫様抱っこをされるフビン国の王に、衛兵は止めることもできず戸惑いを見せて、侍女は呆然と立ち尽くし、途中すれ違ったルーベルトは何かの見間違えかと自分の目を疑った。
そして行き着く先は………迷子である。つまりはない。
城など早々来ることのないアクニーは右も左もわからずただ城に医務室くらいあるだろうと探し回っていただけ。トロイも置いてきてしまい、アクニーはルドルクを抱き上げたまま周囲の目など気にせず探す。
聞くと言う選択肢が浮かばないほどにアクニーは混乱していたと言ってもいい。女性に抱き上げられる男性ルドルクはアクニーが走り回れば走り回るほどに憐れとなっていく。さすがは………いや、言う必要もないというべきか。
だが、そこに救いの女神がひとり。
「あああの、ど、ど、どうかされましたか?」
さすがにそのままにしておくべきでないと感じたのはネムリンで、勇気を出して声をかけるものの知らない人物に対して人見知りが発動する。最近は衛兵たちと関わりが増えて声を掛けずともよくても、自ら知らぬ人に話しかけられるほどに成長した。
それが今発揮されたというわけだ。落ち着きのない言葉ではあるが。
「ねねねね」
「ねねねね?」
しかし、ネムリン以上に落ち着きをなくしたのはアクニーである。ネムリンに話しかけられてかなり動揺した。抱き上げているルドルクを頭の隅へやってしまうほどに。
それほどにアクニーにとってネムリンは大きい存在なのだ。ネムリンにとっては全くの初対面の相手だとしても。
「ねむねむねむ」
「ねむねむねむ………?眠いんですか?」
「ちちちち」
「大丈夫ですか?」
あまりのアクニーの動揺ぶりに人見知りどころか寧ろ冷静になってきたネムリン。初対面相手にこうも早く冷静になれたのはアクニーの動揺ぶりがそれほどに酷く見えたから他ならない。
人間冷静じゃない人を目の前にすると逆に冷静になるというもの。
「ううう………っ」
「え?あの、ええっ?」
ついには泣き出したアクニーに、ネムリンの冷静さは早くも消えて戸惑う。どこに泣くところが?と訳がわからない状況であるのだから。
国王を姫抱きして泣く令嬢。
誰が見ても意味がわからない。
「うわあぁぁんっ」
「ど、どうしたら……え?」
さらには大泣きである。ネムリンはどうすることもできずオロオロしていたが………城の廊下にある窓の外を見てぽかんとした。
先程まで晴れた一日だった今日という日。だというのに今は嵐が吹き荒れている。大雨に強風と全く気配ひとつなかったものが窓の外から見えていたのだ。
ネムリンたちを眺めていた者たちも驚いた様子で侍女の一部は洗濯物と慌ててその場を離れていった。残りはネムリンと泣くアクニーと抱かれるルドルクとアクニーをどうするべきかわかりかねる集まった衛兵だけである。
「トロイこれで作戦も完璧よね!」
「いやぁ、さすがお嬢様ぁ………そこそこのできですねぇ」
「どういう意味よ!」
ネムリンがよく懐に入れているクッキーらしきものを掲げる令嬢をルドルクは見た。クッキーに振り回されている気がしてならないルドルクは物陰に隠れて何故かその令嬢を観察することに。
(嫌な予感しかしない)
そう思ってルドルクの思考を過ぎるのはルドルクはクッキーがアンラッキーアイテムであると占いでサギーシに言われていたこと。
「だって見た目は完璧ですけどぉ、言われてた毒入れてないじゃないですかぁ 」
(毒?まさか)
その言葉にまさ食べるどころか調べる前に犯人がわかってしまったことにルドルクは余計に出るに出られなくなる。
「入れても意味ないでしょ!クッキー固くて食べられないもの」
「お嬢様、何のためにクッキー作ったんですかぁ?」
「陛下に危害を加えてネムリン・トワーニを犯人に仕立てるのよね」
おおよそ占い通りだが、ルドルクが気になるのはただひとつ。
(食べられないクッキーをネムリン嬢以外に作る令嬢が?まさか令嬢の中では固くて重いクッキーが流行って…………うん、ないね)
すぐ冷静になった。……………が、不運にもルドルクの懐からそれはそれは重い旧型クッキーが地面に落ち、音を立てた。
「誰!?聞かれたならこれでも食らって…………きゃああぁっ陛下ぁ!?」
「ぐふっ」
「何してるんですかぁ!お嬢様ぁ!」
音に素早く反応したのは令嬢。その名もアクニー。彼女はただ焦った、聞かれたことに。
だから思わず猛スピードで物陰へ走り、相手を確認もせず投げてしまったのだ。ネムリン真似っこクッキーを。それも旧型に近く当たれば痛いだけで済まないそれを、だ。
アクニー・ナレン伯爵令嬢はネムリンのように怪力なわけではないが、令嬢にしては珍しく毎日自ら進んで鍛える変わり者だった。いらぬ筋肉が付きかけて身内に制限をかけられるほどに鍛えたこともある。第二のネムリンとも言えるほどには令嬢にはない強さを持つ。
だから至近距離でぶん殴るに近い投げられたクッキーはルドルクの頭に直撃してルドルクはその衝撃に脳が揺れ、気を失った。
明らかに加害者のアクニーにトロイも焦る。だが、運がいいのか悪いのか二人がいる場所は城から少し離れた時間帯的に人気の少ない庭園である。今日はさらに運よく誰一人いない。
ネムリンからもらった軽量化により余った旧型クッキーが懐から落ちて音を立てたことで聞いていたのがバレる不運と、ネムリンの真似っこクッキーにより焦ったアクニーによりクッキーで気絶させられたルドルクとは全く違う。
とまあルドルクが気絶して目を覚ますまでアクニーは頑張った。成人男性であるルドルクを抱き上げ、城まで運んだ。所謂お姫様抱っこをされるフビン国の王に、衛兵は止めることもできず戸惑いを見せて、侍女は呆然と立ち尽くし、途中すれ違ったルーベルトは何かの見間違えかと自分の目を疑った。
そして行き着く先は………迷子である。つまりはない。
城など早々来ることのないアクニーは右も左もわからずただ城に医務室くらいあるだろうと探し回っていただけ。トロイも置いてきてしまい、アクニーはルドルクを抱き上げたまま周囲の目など気にせず探す。
聞くと言う選択肢が浮かばないほどにアクニーは混乱していたと言ってもいい。女性に抱き上げられる男性ルドルクはアクニーが走り回れば走り回るほどに憐れとなっていく。さすがは………いや、言う必要もないというべきか。
だが、そこに救いの女神がひとり。
「あああの、ど、ど、どうかされましたか?」
さすがにそのままにしておくべきでないと感じたのはネムリンで、勇気を出して声をかけるものの知らない人物に対して人見知りが発動する。最近は衛兵たちと関わりが増えて声を掛けずともよくても、自ら知らぬ人に話しかけられるほどに成長した。
それが今発揮されたというわけだ。落ち着きのない言葉ではあるが。
「ねねねね」
「ねねねね?」
しかし、ネムリン以上に落ち着きをなくしたのはアクニーである。ネムリンに話しかけられてかなり動揺した。抱き上げているルドルクを頭の隅へやってしまうほどに。
それほどにアクニーにとってネムリンは大きい存在なのだ。ネムリンにとっては全くの初対面の相手だとしても。
「ねむねむねむ」
「ねむねむねむ………?眠いんですか?」
「ちちちち」
「大丈夫ですか?」
あまりのアクニーの動揺ぶりに人見知りどころか寧ろ冷静になってきたネムリン。初対面相手にこうも早く冷静になれたのはアクニーの動揺ぶりがそれほどに酷く見えたから他ならない。
人間冷静じゃない人を目の前にすると逆に冷静になるというもの。
「ううう………っ」
「え?あの、ええっ?」
ついには泣き出したアクニーに、ネムリンの冷静さは早くも消えて戸惑う。どこに泣くところが?と訳がわからない状況であるのだから。
国王を姫抱きして泣く令嬢。
誰が見ても意味がわからない。
「うわあぁぁんっ」
「ど、どうしたら……え?」
さらには大泣きである。ネムリンはどうすることもできずオロオロしていたが………城の廊下にある窓の外を見てぽかんとした。
先程まで晴れた一日だった今日という日。だというのに今は嵐が吹き荒れている。大雨に強風と全く気配ひとつなかったものが窓の外から見えていたのだ。
ネムリンたちを眺めていた者たちも驚いた様子で侍女の一部は洗濯物と慌ててその場を離れていった。残りはネムリンと泣くアクニーと抱かれるルドルクとアクニーをどうするべきかわかりかねる集まった衛兵だけである。
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