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3章(元)アークス国は占いの国
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ルーベルトとネムリンはさておき、窃盗犯の観客の中に二人の正体に気づいた令嬢がひとりいた。
その名もアクニー・ナレン伯爵令嬢。
「ネムリン・トワーニ………っ!まさか、あのルーベルト・ラヴィン公爵を落としたというの?それともラヴィン公爵様による噂は嘘で実は女性に優しい方………?」
「す、すみませんお嬢様ぁ~!追い付けませんでしたぁ」
「まあ、役立たずね!確証を得たかったのに!」
何やら思考するアクニーの思考を途絶えさせたのはアクニーの従者トロイ。トロイはアクニーに言われてルーベルトたちの後をつけようとしたが足の早さが断然に違う時点で走っていった二人に着いていくなど無理な話だった。
「確証を得られるとも限らないと思うんですけどぉ」
「お黙り!女の勘からして、あのネムリン・トワーニはわからないけどラヴィン公爵はネムリン・トワーニに惚れているわ………気のせいか行き過ぎな惚れ方な気がしてならないけど」
中々鋭いアクニー・ナレン。
「お嬢様ぁ、なんでそんなにネムリン・トワーニ伯爵令嬢を目の敵にするんですかぁ?」
「なんでってそれは………」
「お嬢様はそこそこ美人で~、そこそこダンスもうまくて~、そこそこ運動もできて~、そこそこ」
「そこそこそこそこうるさいわよ!喧嘩売ってるの!?」
「え、褒めてますよぉ?」
「どこがよ!」
窃盗犯やら祭りで賑やかなためこの主従漫才が目立つことはない。全ては外の雑音に消える。ただ近くにいる数人の護衛はやれやれとした顔つきで見ているが。
この主従こういうことが毎回ある。アクニーは我が儘でプライドが高く、素直じゃない上にきつい目付きなせいで親しいものがいない。とはいえ、身内には愛されし姫でなんだかんだ身分を気にせずからかってしまう者もいる。
怒りながらも解雇とまで言わない辺り、構ってもらえるのが嬉しいアクニーの心を身内は使用人たちも含めてよくわかっていた。護衛たちももちろん含められている。
しかし、それは何も最初からわかっていたわけではない。アクニー構い隊筆頭のトロイが始まりだ。
まだアクニーがただの我が儘娘でしかなく、下手をすれば解雇のきっかけになるかもしれないとナレン家に雇われていた人たち。
そんな中に現れたのがトロイである。そして毎日のようにトロイは何かを仕出かし、被害者は大抵アクニー。ナレン家の当主に仕える形の者たちばかりの中、トロイは唯一アクニーを主人とする従者だ。
最初こそひやひやしていたナレン家に仕える周囲も、怒りながらも当主に訴えず翌日いつも通りなアクニーを見て想像と違うと、貴族の娘だからと考えすぎていたんじゃないかと思い始めた頃、アクニーを構い隊がひそかにナレン家で結成されるある事件があった。
トロイがついに当主にやらかした。
当主は激怒。娘の従者に相応しくないと怒った。これはさすがに解雇かと思われたその時。
「おとうさま、ちがうの!これはわたしがめいれいしたとろいのしれんよ!おとうさまにめいれいどおりいたずらできたんだから、わたしにそれほどのかくごをもってつかえてくれてるということよね!びっくりした?おとうさま」
トロイはそんな命令を受けてはいないことを当主以外は知っていた。我が儘を言うアクニーではあったが決して無茶な要求をしない子だと、どんなトロイをも許すアクニーを見ることでナレン家に仕える者たちはよくわかっていた。
結果、当主はそれならそうと早く言えと納得したようでいたずらは大概になさいとアクニーが注意される程度に済んだ。もちろんこれで構い隊結成になったわけではない。当主に注意を受け、当主が去った後にアクニーが呟いたのだ。
「ちゅういだけ………もっとおはなししたいのに」
それは素直じゃないアクニーが思わず呟いた親に構ってもらえず寂しいという本音。それを見た人たちは悟った。我が儘はただ構ってほしいから言うのではないかと。
そこからだ構い隊が結成したのは。アクニーに庇われたことにより、トロイの忠誠心はこれでも誰よりあるつもりであり、アクニーに迷惑ばかりかけられないとやらかすことがなくなるくらいに今は成長している。
それでも行動が遅いのは難点だが、その分何事も丁寧にこなす。
結局アクニーの我が儘は直らないままだが、それを言うことでしかうまく会話ができないならとナレン家の遣いの者たちは微笑ましく見ているわけである。しかし、同時に友人ひとり作れないアクニーを構い隊は心配していた。
今日の祭りもアクニーは誘う友人すらおらず、トロイと護衛たちのみ。それはそれで内心楽しんでいるアクニーだったが。
それもルーベルトとネムリンに気づいてからはそれを気にして楽しみは終わっていた。そしてアクニーの前に美しき笑みを浮かべる令嬢がひとり。
「貴女がアクニー・ナレン伯爵令嬢かしら?」
「………!は、はい。アクニー・ナレンと申します!」
この二人の出会いによりこれから巻き起こる本当の嵐は果たしてルーベルトとネムリンに何をもたらすのか…………。
その名もアクニー・ナレン伯爵令嬢。
「ネムリン・トワーニ………っ!まさか、あのルーベルト・ラヴィン公爵を落としたというの?それともラヴィン公爵様による噂は嘘で実は女性に優しい方………?」
「す、すみませんお嬢様ぁ~!追い付けませんでしたぁ」
「まあ、役立たずね!確証を得たかったのに!」
何やら思考するアクニーの思考を途絶えさせたのはアクニーの従者トロイ。トロイはアクニーに言われてルーベルトたちの後をつけようとしたが足の早さが断然に違う時点で走っていった二人に着いていくなど無理な話だった。
「確証を得られるとも限らないと思うんですけどぉ」
「お黙り!女の勘からして、あのネムリン・トワーニはわからないけどラヴィン公爵はネムリン・トワーニに惚れているわ………気のせいか行き過ぎな惚れ方な気がしてならないけど」
中々鋭いアクニー・ナレン。
「お嬢様ぁ、なんでそんなにネムリン・トワーニ伯爵令嬢を目の敵にするんですかぁ?」
「なんでってそれは………」
「お嬢様はそこそこ美人で~、そこそこダンスもうまくて~、そこそこ運動もできて~、そこそこ」
「そこそこそこそこうるさいわよ!喧嘩売ってるの!?」
「え、褒めてますよぉ?」
「どこがよ!」
窃盗犯やら祭りで賑やかなためこの主従漫才が目立つことはない。全ては外の雑音に消える。ただ近くにいる数人の護衛はやれやれとした顔つきで見ているが。
この主従こういうことが毎回ある。アクニーは我が儘でプライドが高く、素直じゃない上にきつい目付きなせいで親しいものがいない。とはいえ、身内には愛されし姫でなんだかんだ身分を気にせずからかってしまう者もいる。
怒りながらも解雇とまで言わない辺り、構ってもらえるのが嬉しいアクニーの心を身内は使用人たちも含めてよくわかっていた。護衛たちももちろん含められている。
しかし、それは何も最初からわかっていたわけではない。アクニー構い隊筆頭のトロイが始まりだ。
まだアクニーがただの我が儘娘でしかなく、下手をすれば解雇のきっかけになるかもしれないとナレン家に雇われていた人たち。
そんな中に現れたのがトロイである。そして毎日のようにトロイは何かを仕出かし、被害者は大抵アクニー。ナレン家の当主に仕える形の者たちばかりの中、トロイは唯一アクニーを主人とする従者だ。
最初こそひやひやしていたナレン家に仕える周囲も、怒りながらも当主に訴えず翌日いつも通りなアクニーを見て想像と違うと、貴族の娘だからと考えすぎていたんじゃないかと思い始めた頃、アクニーを構い隊がひそかにナレン家で結成されるある事件があった。
トロイがついに当主にやらかした。
当主は激怒。娘の従者に相応しくないと怒った。これはさすがに解雇かと思われたその時。
「おとうさま、ちがうの!これはわたしがめいれいしたとろいのしれんよ!おとうさまにめいれいどおりいたずらできたんだから、わたしにそれほどのかくごをもってつかえてくれてるということよね!びっくりした?おとうさま」
トロイはそんな命令を受けてはいないことを当主以外は知っていた。我が儘を言うアクニーではあったが決して無茶な要求をしない子だと、どんなトロイをも許すアクニーを見ることでナレン家に仕える者たちはよくわかっていた。
結果、当主はそれならそうと早く言えと納得したようでいたずらは大概になさいとアクニーが注意される程度に済んだ。もちろんこれで構い隊結成になったわけではない。当主に注意を受け、当主が去った後にアクニーが呟いたのだ。
「ちゅういだけ………もっとおはなししたいのに」
それは素直じゃないアクニーが思わず呟いた親に構ってもらえず寂しいという本音。それを見た人たちは悟った。我が儘はただ構ってほしいから言うのではないかと。
そこからだ構い隊が結成したのは。アクニーに庇われたことにより、トロイの忠誠心はこれでも誰よりあるつもりであり、アクニーに迷惑ばかりかけられないとやらかすことがなくなるくらいに今は成長している。
それでも行動が遅いのは難点だが、その分何事も丁寧にこなす。
結局アクニーの我が儘は直らないままだが、それを言うことでしかうまく会話ができないならとナレン家の遣いの者たちは微笑ましく見ているわけである。しかし、同時に友人ひとり作れないアクニーを構い隊は心配していた。
今日の祭りもアクニーは誘う友人すらおらず、トロイと護衛たちのみ。それはそれで内心楽しんでいるアクニーだったが。
それもルーベルトとネムリンに気づいてからはそれを気にして楽しみは終わっていた。そしてアクニーの前に美しき笑みを浮かべる令嬢がひとり。
「貴女がアクニー・ナレン伯爵令嬢かしら?」
「………!は、はい。アクニー・ナレンと申します!」
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