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3章(元)アークス国は占いの国
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占いにより、ネムリンの手作りクッキーを袋に入れて持ち歩くようになったネムリンとルーベルト。
「ラヴィン公爵様、クッキーの軽量化に成功いたしました!」
「さすがネムリンだ」
「軽量化以前に食べられるクッキー作ろうよ」
あの日からさらに二人の距離は縮まり、事前に許可をとる形とはなってもネムリン自身がルーベルトに会いに来る日もでき、クッキー事件以来眠れていないルーベルトだが幸せそうである。
ただひとり、二人の仲の進展を喜ばしく思うものの気苦労が増えた人物もいるわけだが………。何せ、ネムリンとルーベルトが城で会う場合は執務室。そこはルーベルトの執務室では決してない。その執務室の主としたその人物は今や王子ではなく若くして国の王となったもの。
その名はルドルク・フビン。
国名変更に伴いフビン国最初の王としてルドルクは選ばれたのである。ルドルクの父であり前王デバンナーシはルドルクこそ王に相応しいと占いで出ており、デバンナーシから見てもルドルクの優秀さは納得がいっていたため、国名変更はデバンナーシにとってちょうどよくもあった。
ちなみに王についても占ったのはサギーシ・ウラナイダーである。
「陛下にもクッキーを………」
「気持ちは嬉しいけど、僕の友人が凄まじい睨みをこちらに向けてくるから遠慮するよ」
事実、ネムリンの後ろで『ネムリンのクッキーは俺のものだ』とばかりに睨みを利かせるルーベルトの姿が。食べられないクッキーはいらないと言わない辺りがルドルクの優しさである。
「ラヴィン公爵様?」
「なんだ?」
「? 陛下、ラヴィン公爵様はいつも通り無表情ですよ?」
「………うん、そうだね」
ネムリンが振り向いてルーベルトを見れば無の表情。ルドルクが思うことはひとつ。
(そろそろ笑顔のひとつくらい見せられるようになりなよ)
ルーベルトといることに慣れるにつれてルドルクにも慣れてきたネムリンだが、ルーベルトは相変わらずネムリンの前では無表情だ。
ネムリンが慣れ始めた辺りからルドルクもネムリンにくだけた様子を見せているというのに、ルーベルトは変わりない。
好きな人を目の前に緊張しているからというのはルドルクも本人から聞いているだけにわかってはいるが、言葉や態度は素直な気持ちが出ているというのに顔だけが何故正直にならないのかとルドルクは心配している。
またクマが濃くなりつつあるが、それでもルーベルトの顔は整っている。笑みひとつでもできるならルーベルトに慣れてきたネムリンがルーベルトに惹かれていくのも時間の問題だろうにと思わなくもないルドルク。
ルドルクはあの時確かに見たのだ。占いをしたあの日、ルーベルトが思わず出した笑みにネムリンが頬を赤く染めて去っていったのを。本人はそれをよくわかっていなかったようだったが。
「ネムリンのクッキーは全て俺がもらう」
「え?でも………」
我慢ならなかったのだろう。ネムリンが来た時から仕事の手が止まっていたルーベルトが立ち上がり、ネムリンの背後からひょいっとクッキーを取り懐へ入れた。
既にルーベルトの服に物が入れられる部分には必ず袋に入った一枚のクッキーが入っている。
ついでに言うならルドルクの執務室にあるルーベルトの机の上にあるお皿には大量の味はするが食べられないクッキーが置かれており、執務室はクッキーの甘い匂いが漂っていた。
つまりはそれだけあってまだほしいのかと言いたいネムリンである。
「ネムリン嬢、好きにさせてあげて。それよりも明日の祭りについてのデートの相談しに来たんじゃないの?」
「で、デート………」
「初デートだ。ネムリンが行きたい場所に連れていってやりたい。ここにどこにどの屋台を置くかなどの配置図がある」
「全部回りたいですが………」
「ならばそうしよう」
「え?デートの相談もう終わり?」
ルドルクが切り出したように、明日はフビン国と国名が変わったのとルドルクという新たな王が決まったことにより、大きな祭りにしなければと平民も貴族も張り切り時間がかなりかかっていたが祭りがある。時間をかける分国の歴史でも一番大きな祭りとなることは確実だ。
ちなみに張り切るというよりもこの祭りは民の優しさとも言える。民の声の一部を聞いていただきたい。
「フビン………国?殿下、何かお辛いことでも?精一杯明るい気持ちになれる祭りにしなければ!」
「最近ラヴィン公爵とその婚約者に振り回されていると聞く………。なるほど、国名がそうなるほどに追い詰められていらっしゃったか。これはただの祭りではだめだな」
ルドルク、これを知った時思わず泣きそうになった。これを気に平民と貴族どちらも協力体制となり、評判の悪い貴族でさえ祭り準備に関しては積極的で身分を持ち出さなかったというのだから。
これだけでも大きな祭りになることは予測されたのに、さらにはフビン国という国名は他国すら同情を買った。
「不憫という自己主張をする国名に変えるなんて正気の沙汰ではないな………。それだけに何かあったのだろう。領土がほしかったがこれでは攻め入るのはさすがに酷か。ふむ、祝いに協力すべきだな」
というように他国からも祭りの参加どころか同盟の持ち出しまでしてきて平和が約束されたフビン国。
そういうわけで他国の協力もあり、王都をはみ出す祭りは長い二週間という期間を得ることとなり、ようやく明日祭りが開催するわけである。
最大級の祭りを生み出す結果となった不憫な王は、民や他国からも愛された王として歴史に刻まれることだろう。
「ラヴィン公爵様、クッキーの軽量化に成功いたしました!」
「さすがネムリンだ」
「軽量化以前に食べられるクッキー作ろうよ」
あの日からさらに二人の距離は縮まり、事前に許可をとる形とはなってもネムリン自身がルーベルトに会いに来る日もでき、クッキー事件以来眠れていないルーベルトだが幸せそうである。
ただひとり、二人の仲の進展を喜ばしく思うものの気苦労が増えた人物もいるわけだが………。何せ、ネムリンとルーベルトが城で会う場合は執務室。そこはルーベルトの執務室では決してない。その執務室の主としたその人物は今や王子ではなく若くして国の王となったもの。
その名はルドルク・フビン。
国名変更に伴いフビン国最初の王としてルドルクは選ばれたのである。ルドルクの父であり前王デバンナーシはルドルクこそ王に相応しいと占いで出ており、デバンナーシから見てもルドルクの優秀さは納得がいっていたため、国名変更はデバンナーシにとってちょうどよくもあった。
ちなみに王についても占ったのはサギーシ・ウラナイダーである。
「陛下にもクッキーを………」
「気持ちは嬉しいけど、僕の友人が凄まじい睨みをこちらに向けてくるから遠慮するよ」
事実、ネムリンの後ろで『ネムリンのクッキーは俺のものだ』とばかりに睨みを利かせるルーベルトの姿が。食べられないクッキーはいらないと言わない辺りがルドルクの優しさである。
「ラヴィン公爵様?」
「なんだ?」
「? 陛下、ラヴィン公爵様はいつも通り無表情ですよ?」
「………うん、そうだね」
ネムリンが振り向いてルーベルトを見れば無の表情。ルドルクが思うことはひとつ。
(そろそろ笑顔のひとつくらい見せられるようになりなよ)
ルーベルトといることに慣れるにつれてルドルクにも慣れてきたネムリンだが、ルーベルトは相変わらずネムリンの前では無表情だ。
ネムリンが慣れ始めた辺りからルドルクもネムリンにくだけた様子を見せているというのに、ルーベルトは変わりない。
好きな人を目の前に緊張しているからというのはルドルクも本人から聞いているだけにわかってはいるが、言葉や態度は素直な気持ちが出ているというのに顔だけが何故正直にならないのかとルドルクは心配している。
またクマが濃くなりつつあるが、それでもルーベルトの顔は整っている。笑みひとつでもできるならルーベルトに慣れてきたネムリンがルーベルトに惹かれていくのも時間の問題だろうにと思わなくもないルドルク。
ルドルクはあの時確かに見たのだ。占いをしたあの日、ルーベルトが思わず出した笑みにネムリンが頬を赤く染めて去っていったのを。本人はそれをよくわかっていなかったようだったが。
「ネムリンのクッキーは全て俺がもらう」
「え?でも………」
我慢ならなかったのだろう。ネムリンが来た時から仕事の手が止まっていたルーベルトが立ち上がり、ネムリンの背後からひょいっとクッキーを取り懐へ入れた。
既にルーベルトの服に物が入れられる部分には必ず袋に入った一枚のクッキーが入っている。
ついでに言うならルドルクの執務室にあるルーベルトの机の上にあるお皿には大量の味はするが食べられないクッキーが置かれており、執務室はクッキーの甘い匂いが漂っていた。
つまりはそれだけあってまだほしいのかと言いたいネムリンである。
「ネムリン嬢、好きにさせてあげて。それよりも明日の祭りについてのデートの相談しに来たんじゃないの?」
「で、デート………」
「初デートだ。ネムリンが行きたい場所に連れていってやりたい。ここにどこにどの屋台を置くかなどの配置図がある」
「全部回りたいですが………」
「ならばそうしよう」
「え?デートの相談もう終わり?」
ルドルクが切り出したように、明日はフビン国と国名が変わったのとルドルクという新たな王が決まったことにより、大きな祭りにしなければと平民も貴族も張り切り時間がかなりかかっていたが祭りがある。時間をかける分国の歴史でも一番大きな祭りとなることは確実だ。
ちなみに張り切るというよりもこの祭りは民の優しさとも言える。民の声の一部を聞いていただきたい。
「フビン………国?殿下、何かお辛いことでも?精一杯明るい気持ちになれる祭りにしなければ!」
「最近ラヴィン公爵とその婚約者に振り回されていると聞く………。なるほど、国名がそうなるほどに追い詰められていらっしゃったか。これはただの祭りではだめだな」
ルドルク、これを知った時思わず泣きそうになった。これを気に平民と貴族どちらも協力体制となり、評判の悪い貴族でさえ祭り準備に関しては積極的で身分を持ち出さなかったというのだから。
これだけでも大きな祭りになることは予測されたのに、さらにはフビン国という国名は他国すら同情を買った。
「不憫という自己主張をする国名に変えるなんて正気の沙汰ではないな………。それだけに何かあったのだろう。領土がほしかったがこれでは攻め入るのはさすがに酷か。ふむ、祝いに協力すべきだな」
というように他国からも祭りの参加どころか同盟の持ち出しまでしてきて平和が約束されたフビン国。
そういうわけで他国の協力もあり、王都をはみ出す祭りは長い二週間という期間を得ることとなり、ようやく明日祭りが開催するわけである。
最大級の祭りを生み出す結果となった不憫な王は、民や他国からも愛された王として歴史に刻まれることだろう。
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