16 / 46
2章睡眠の偉大さを知りました
10
しおりを挟む
ネムリンの母親の誘いを無下にするわけもなくルーベルトは了承したし、ようやく解放されると思っていたネムリンは信じられない気持ちでマートモを見た。
そんな娘にマートモはただ微笑むのみで………まるで最初からそのつもりでしたとばかりにお茶会の場は設けられていた。
「ラヴィン公爵様、改めまして娘を婚約者と認めていただきありがとうございます。ラヴィン公爵様が娘を婚約者に選んでくださったお陰で娘を厄介な嫁ぎ先へ行かせずに済みました」
「厄介な嫁ぎ先?」
「娘は地味ですが男性にも匹敵する有り余る力があるために、それを好むへんた………殿方が、娘を妻にとうるさかったのです。それも夫と同じ年頃の男性ばかりでさすがに親として断ってきましたが、最近侯爵家の子息のひとりが娘と年が近いからと何度もしつこかったのです。あちらが身分としては上なため下手な対応もできず………」
「地味だなんて………ネムリンは可愛く、綺麗ですよ、どこの誰よりも。にしてもそれは捨て置けないですね」
やれやれとばかりに話すマートモの内容にルーベルトは内心穏やかではなくなっている。何せネムリンに関したことなのだからルーベルトからすれば当たり前だ。ちゃっかりネムリンが地味ではないと否定する辺り、ルーベルトが見るネムリンの姿は女神フィルターがかかっているのがわかる。
そんな女神フィルターで見るネムリンはルーベルトからすればどこの令嬢にも劣らないどころか大きな差をつけて可愛くもあり、綺麗でもある存在だ。
女神フィルターに恋は盲目も加わり、色々酷くなっているかもしれない。ネムリンは決して不細工ではないが、一般的に周囲や身内から見ても地味さが拭えない。
きらびやかな衣装を身に付ければ服の方が明らかに主役となるだろうことを誰もが想像できるくらいには地味だ。
なので、人間見た目から入る人がほとんどとして地味なネムリンはどちらかと言えば身分なしにモテないタイプだ。
しかし、世の中にへんた………変わった性癖を持つ人物はいるわけで、ネムリンはネムリンの怪力を知った変わった性癖持ちの人物には好かれるタイプだった。
「あらあらベタ惚れなんですね。なら、タイ侯爵家の御方がネムリンへ接触しないようなんとかできますでしょうか?タイ侯爵夫人はまともな方なので、できればタイ侯爵の当主様と子息のドーヘン・タイ様をなんとかしていただければありがたいのですけど」
「お母様、私たちの問題でラヴィン公爵様に頼るのは………」
直球で公爵を頼り始めたマートモにネムリンはさすがにと止めに入るが……
「まかせてください。妻を不安にさせる輩を野放しにはできませんから」
「まあまあ!これで安心ね、ネムリン」
「そ、そうですけど、まだ妻じゃ………」
ルーベルトの妻発言にマートモは嬉しそうに、ネムリンは戸惑う様子を見せる。ちなみにルーベルトの妻発言は結婚することは決めているという意思を明確にするためにわざと言ったに過ぎない。
「あ、そうそう!ネムリンが城に出向く前に作ったお菓子があるのですけど食べられますか?」
「お、お母様!?あれはっ」
「是非!」
急なマートモの提案に、ネムリンが止めに入ろうとするがルーベルトはその言葉にテンションがあがり、思わず立ち上がりそうになりながらも食い気味に食べたい意思を伝えた。
もう既に想像がついたかもしれないが、これがルーベルトを眠りにもたらすものになるとは誰も思わなかった………。
「おおお奥様、お、お、お持ちしました!」
「スベル、落ち着きなさい。すみません、ラヴィン公爵様。この子はまだ新人でして一人仕事が見つからずとぼとぼ歩いては平坦な道でさえすべり転ける姿が放っておけずに雇ったのです」
「構いません。それよりも生傷が耐えない新人ですね」
「靴を代えても、すべりにくい絨毯を引いてもすべり転ける子なんです。最近、ようやくすべらず固形物を運べるようになったんですよ?お茶はまだ危ないので他にやらせてますが」
「そう、ですか」
マートモの言葉にまるで子供教育みたいだと思ったルーベルト。それを聞けばトワーニ家に雇われるまで仕事がなかったのも頷けた。
「うぎゃっ」
「「スベル!」」
そんな思考をルーベルトがしている最中原因その3となるスベルがすべり転けて原因その2と4となる宙へ舞うネムリン手作りの大量のクッキーがルーベルトの頭に降り注いだ。
「ぐ………うっ」
「「ラヴィン公爵様ー!」」
クッキーは鈍器のように固く、それも大量となればルーベルトでもなく眠らせることが可能だっただろう。寧ろ血を流していたかもしれない。
それで眠ったルーベルトは幸せな夢を見ている間に慌てたトワーニ伯爵家によって城へ送り届けられ、トワーニ伯爵家でなく城の一室にいたわけである。
「君を気絶させるクッキーって毒でも入っていたの?」
「いや、食べてはないが毒なんてネムリンが入れるわけないだろう」
「でもトワーニ家の使用人はクッキーに当たって倒れてしまったと」
「それは間違いじゃない」
「クッキーの毒に当たったとしても、君が倒れるほどの毒が存在するならと危惧したんだけれど………食中毒ごときじゃ君は倒れないだろうし」
「だから食べてない」
「クッキーに当たったんだよね?」
「ああ、少しの間だがクッキーが当たってくれたおかげでよく眠れた」
「どうしよう、意味がわからない」
正にクッキーが頭に当たり気絶したなんて思わないルドルクは意味を理解できていない。果たして鈍器となるクッキーは食べられるものだったのか。怪しいところだが、ネムリンの手作りとなればルーベルトは何が何でも食べる日が来るだろう。
ルーベルトは(ネムリンが編み出す)睡眠(の方法)の偉大さを知りました。が、決してネムリンはルーベルトにクッキーをぶつけて眠らせようとしたわけではありません。
またひとつ偉大なクッキー(物理)効果により、ネムリンに惚れ直したルーベルトであった。
そんな娘にマートモはただ微笑むのみで………まるで最初からそのつもりでしたとばかりにお茶会の場は設けられていた。
「ラヴィン公爵様、改めまして娘を婚約者と認めていただきありがとうございます。ラヴィン公爵様が娘を婚約者に選んでくださったお陰で娘を厄介な嫁ぎ先へ行かせずに済みました」
「厄介な嫁ぎ先?」
「娘は地味ですが男性にも匹敵する有り余る力があるために、それを好むへんた………殿方が、娘を妻にとうるさかったのです。それも夫と同じ年頃の男性ばかりでさすがに親として断ってきましたが、最近侯爵家の子息のひとりが娘と年が近いからと何度もしつこかったのです。あちらが身分としては上なため下手な対応もできず………」
「地味だなんて………ネムリンは可愛く、綺麗ですよ、どこの誰よりも。にしてもそれは捨て置けないですね」
やれやれとばかりに話すマートモの内容にルーベルトは内心穏やかではなくなっている。何せネムリンに関したことなのだからルーベルトからすれば当たり前だ。ちゃっかりネムリンが地味ではないと否定する辺り、ルーベルトが見るネムリンの姿は女神フィルターがかかっているのがわかる。
そんな女神フィルターで見るネムリンはルーベルトからすればどこの令嬢にも劣らないどころか大きな差をつけて可愛くもあり、綺麗でもある存在だ。
女神フィルターに恋は盲目も加わり、色々酷くなっているかもしれない。ネムリンは決して不細工ではないが、一般的に周囲や身内から見ても地味さが拭えない。
きらびやかな衣装を身に付ければ服の方が明らかに主役となるだろうことを誰もが想像できるくらいには地味だ。
なので、人間見た目から入る人がほとんどとして地味なネムリンはどちらかと言えば身分なしにモテないタイプだ。
しかし、世の中にへんた………変わった性癖を持つ人物はいるわけで、ネムリンはネムリンの怪力を知った変わった性癖持ちの人物には好かれるタイプだった。
「あらあらベタ惚れなんですね。なら、タイ侯爵家の御方がネムリンへ接触しないようなんとかできますでしょうか?タイ侯爵夫人はまともな方なので、できればタイ侯爵の当主様と子息のドーヘン・タイ様をなんとかしていただければありがたいのですけど」
「お母様、私たちの問題でラヴィン公爵様に頼るのは………」
直球で公爵を頼り始めたマートモにネムリンはさすがにと止めに入るが……
「まかせてください。妻を不安にさせる輩を野放しにはできませんから」
「まあまあ!これで安心ね、ネムリン」
「そ、そうですけど、まだ妻じゃ………」
ルーベルトの妻発言にマートモは嬉しそうに、ネムリンは戸惑う様子を見せる。ちなみにルーベルトの妻発言は結婚することは決めているという意思を明確にするためにわざと言ったに過ぎない。
「あ、そうそう!ネムリンが城に出向く前に作ったお菓子があるのですけど食べられますか?」
「お、お母様!?あれはっ」
「是非!」
急なマートモの提案に、ネムリンが止めに入ろうとするがルーベルトはその言葉にテンションがあがり、思わず立ち上がりそうになりながらも食い気味に食べたい意思を伝えた。
もう既に想像がついたかもしれないが、これがルーベルトを眠りにもたらすものになるとは誰も思わなかった………。
「おおお奥様、お、お、お持ちしました!」
「スベル、落ち着きなさい。すみません、ラヴィン公爵様。この子はまだ新人でして一人仕事が見つからずとぼとぼ歩いては平坦な道でさえすべり転ける姿が放っておけずに雇ったのです」
「構いません。それよりも生傷が耐えない新人ですね」
「靴を代えても、すべりにくい絨毯を引いてもすべり転ける子なんです。最近、ようやくすべらず固形物を運べるようになったんですよ?お茶はまだ危ないので他にやらせてますが」
「そう、ですか」
マートモの言葉にまるで子供教育みたいだと思ったルーベルト。それを聞けばトワーニ家に雇われるまで仕事がなかったのも頷けた。
「うぎゃっ」
「「スベル!」」
そんな思考をルーベルトがしている最中原因その3となるスベルがすべり転けて原因その2と4となる宙へ舞うネムリン手作りの大量のクッキーがルーベルトの頭に降り注いだ。
「ぐ………うっ」
「「ラヴィン公爵様ー!」」
クッキーは鈍器のように固く、それも大量となればルーベルトでもなく眠らせることが可能だっただろう。寧ろ血を流していたかもしれない。
それで眠ったルーベルトは幸せな夢を見ている間に慌てたトワーニ伯爵家によって城へ送り届けられ、トワーニ伯爵家でなく城の一室にいたわけである。
「君を気絶させるクッキーって毒でも入っていたの?」
「いや、食べてはないが毒なんてネムリンが入れるわけないだろう」
「でもトワーニ家の使用人はクッキーに当たって倒れてしまったと」
「それは間違いじゃない」
「クッキーの毒に当たったとしても、君が倒れるほどの毒が存在するならと危惧したんだけれど………食中毒ごときじゃ君は倒れないだろうし」
「だから食べてない」
「クッキーに当たったんだよね?」
「ああ、少しの間だがクッキーが当たってくれたおかげでよく眠れた」
「どうしよう、意味がわからない」
正にクッキーが頭に当たり気絶したなんて思わないルドルクは意味を理解できていない。果たして鈍器となるクッキーは食べられるものだったのか。怪しいところだが、ネムリンの手作りとなればルーベルトは何が何でも食べる日が来るだろう。
ルーベルトは(ネムリンが編み出す)睡眠(の方法)の偉大さを知りました。が、決してネムリンはルーベルトにクッキーをぶつけて眠らせようとしたわけではありません。
またひとつ偉大なクッキー(物理)効果により、ネムリンに惚れ直したルーベルトであった。
21
お気に入りに追加
4,396
あなたにおすすめの小説
絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので
ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。
しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。
異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。
異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。
公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。
『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。
更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。
だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。
ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。
モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて――
奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。
異世界、魔法のある世界です。
色々ゆるゆるです。
殿下が恋をしたいと言うのでさせてみる事にしました。婚約者候補からは外れますね
さこの
恋愛
恋がしたい。
ウィルフレッド殿下が言った…
それではどうぞ、美しい恋をしてください。
婚約者候補から外れるようにと同じく婚約者候補のマドレーヌ様が話をつけてくださりました!
話の視点が回毎に変わることがあります。
緩い設定です。二十話程です。
本編+番外編の別視点
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。
【完結】大好きな幼馴染には愛している人がいるようです。だからわたしは頑張って仕事に生きようと思います。
たろ
恋愛
幼馴染のロード。
学校を卒業してロードは村から街へ。
街の警備隊の騎士になり、気がつけば人気者に。
ダリアは大好きなロードの近くにいたくて街に出て子爵家のメイドとして働き出した。
なかなか会うことはなくても同じ街にいるだけでも幸せだと思っていた。いつかは終わらせないといけない片思い。
ロードが恋人を作るまで、夢を見ていようと思っていたのに……何故か自分がロードの恋人になってしまった。
それも女避けのための(仮)の恋人に。
そしてとうとうロードには愛する女性が現れた。
ダリアは、静かに身を引く決意をして………
★ 短編から長編に変更させていただきます。
すみません。いつものように話が長くなってしまいました。
好きな人の好きな人
ぽぽ
恋愛
"私には10年以上思い続ける初恋相手がいる。"
初恋相手に対しての執着と愛の重さは日々増していくばかりで、彼の1番近くにいれるの自分が当たり前だった。
恋人関係がなくても、隣にいれるだけで幸せ……。
そう思っていたのに、初恋相手に恋人兼婚約者がいたなんて聞いてません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる