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2章睡眠の偉大さを知りました
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「俺のせいで死ぬ………?ネムリン!」
「ひゃいぃっ!」
きょとんと理解が追い付いていないネムリンを知らずにして、ルドルクの言葉を真に受けたルーベルトがそれを許すはずもない。
ぐるんっとまたルーベルトが視線をネムリンに移せば、びくーっと背筋を伸ばして返事をするネムリン。ルーベルトは緊張が吹き飛ぶほどにある思考に支配されていた。
(俺のせいで女神が死のうとしている。俺のせいで女神が死のうとしている。俺のせいで)
今のルーベルトは絶望にも等しい気持ちでいっぱいだ。自分のせいでネムリンが死ねばそれこそルーベルトは自分がどうなるかなど想像もつかない。
「ネムリン!」
「ひゃいっ!」
ルドルクから離れ、まともに返事もできないネムリンに少し駆け足で近づけば両手の手を包むようにして握るルーベルト。ネムリンはあまりの勢いに恐縮するも、婚活パーティーのような失態はない。
手を封じられたところでネムリンなら振り払うこともそれで拳を出すことも可能だ。それでも大人しく両手を握られることを受け入れている辺り、ネムリンは覚悟を決めている。
(怖い怖い怖い!けど、絶対に手は出さない!私が悪いんだから何でも甘んじて受け入る覚悟はしてきたんですから!婚約者を正式にしたのは間違いなのもわかっているはずです!本当なんで私はあんなことをっ!)
覚悟はあってもネムリンの内心が落ち着く気配はない。
「死なないでくれ!」
何を言われるのか、何をされるのかと不安で仕方ないネムリンにルーベルトが言った言葉は直球過ぎた。
「え?」
よくて罵倒、悪くて手を握りつぶされる。ネムリンの手を握りつぶせるかはさておき、そんな言葉にネムリンはきょとんとして思う。
(殿下の言葉を真に受けていたりするのでしょうか……?)
一瞬で冷静になるくらいには予想外の言葉だった。ネムリンが冷静になってよくよく見ればルーベルトの瞳は真剣そのものなのがわかる。本当に自分に死んでほしくないという気持ちが。
「俺は、いや、私はただネムリンに会えて緊張してしまっただけで、貴女を気に病ませようだなんて思ってはいなかった」
「私に緊張、ですか?」
さらに続く思わぬ言葉にネムリンは信じられない気持ちだ。
(本国に置いて強大な権力を保持するだけでなく、最高位である王家とすら対等に渡り歩いてしまえる御方が、地味で可愛げもなく、とても女性らしいとは言い難い私に緊張するなんて………)
ネムリンは自分に自信もなければ、周囲が自分にする評価を正しく理解しているつもりだ。とはいえ、若干周囲以上に自分を低く見るネムリンではあるがそれ故にルーベルトの言葉は受け入れづらい。
何より気絶して起きた日からまた多少クマが濃くなったとはいえルーベルトの睨むような目付きは、ネムリンを前に和らいでいる。よって元々顔が整っているルーベルトは美形の部類であり、頭痛に耐える睨む目付きさえなければモテていてもおかしくないほどの清潔そうなクールなイケメンにしか見えない。
実際のルーベルトはルドルクから見ればクールからかけ離れているが。
とまあ、言いたいのはこのように容姿にも恵まれていればいくら怖い噂があろうと、令嬢にことかかないだろうルーベルトが今更ネムリンのような者に緊張はないだろうと疑っているわけだ。
「貴女は私が望んだ婚約者だ。緊張もするし、死ぬと言われれば何が何でも………監禁してでも止める」
(監禁はだめだろう)
そう心の中で突っ込みを入れるのはルドルク。せっかく会話もでき、自らの婚約者に触れられているルーベルトとようやく落ち着いた様子のネムリンとの婚約者同士の二人を邪魔をする気など更々ない。
王子でもあるルドルクは空気に徹した。王子を空気扱いできるのもこの先この二人だけだろう。そういう意味でもお似合いじゃないかというのはルドルクの意見である。
「か、監禁………もしかして、ラヴィン公爵様は私が婚約者であることを本当に望まれているのですか?」
まさか監禁という言葉まで出されるとは思わず、まさかまさかと恐る恐る訪ねるネムリン。直筆の手紙は読んだが、それでもやはりルーベルトの婚約者になることを望まれているとネムリンは思えなかった。
本気で何かの間違いだと思っていたのだ。
「手紙に書いたはずだが………足りなかったか?」
(足りない?)
ルーベルトの言葉に二人を見守っていたルドルクが言葉の意味がわからず、ん?とひとり首を傾げる。
「いえ、婚約者を正式に認める文にしては綴られる文が多すぎて、内容も、ね、熱烈、と言いますか、その、嫌がらせかと………」
そのルドルクがわからぬ意味をネムリンが理解している様子にルドルクは見守る姿勢は短くも終わった。
「ごめん、口を挟む気はなかったんだけどルーベルト、お前正式に婚約者と認める手紙以外に何か書いたのか」
ルドルク自身ルーベルトが自ら正式に婚約者と認めるための手紙を送ったことは聞いているし知っている。だが、それ以外に書いたことは知らなかったし、手紙自体を目にする前に送ったと言われ気にも止めていなかった。
ルドルクはルーベルトが使いのものに代筆を任せず自ら書いて送ると言った時点で確かめておくべきだったのだ。何故、婚約者と正式に認めるだけの手紙を直筆するつもりになったのか。
それがわかっていればルドルクが止めることでネムリンもそこまで婚約者と正式に認めるのはルーベルトによる嫌がらせで、この場で間違いだったと言われるなんてことを思うこともなかっただろう。
「ひゃいぃっ!」
きょとんと理解が追い付いていないネムリンを知らずにして、ルドルクの言葉を真に受けたルーベルトがそれを許すはずもない。
ぐるんっとまたルーベルトが視線をネムリンに移せば、びくーっと背筋を伸ばして返事をするネムリン。ルーベルトは緊張が吹き飛ぶほどにある思考に支配されていた。
(俺のせいで女神が死のうとしている。俺のせいで女神が死のうとしている。俺のせいで)
今のルーベルトは絶望にも等しい気持ちでいっぱいだ。自分のせいでネムリンが死ねばそれこそルーベルトは自分がどうなるかなど想像もつかない。
「ネムリン!」
「ひゃいっ!」
ルドルクから離れ、まともに返事もできないネムリンに少し駆け足で近づけば両手の手を包むようにして握るルーベルト。ネムリンはあまりの勢いに恐縮するも、婚活パーティーのような失態はない。
手を封じられたところでネムリンなら振り払うこともそれで拳を出すことも可能だ。それでも大人しく両手を握られることを受け入れている辺り、ネムリンは覚悟を決めている。
(怖い怖い怖い!けど、絶対に手は出さない!私が悪いんだから何でも甘んじて受け入る覚悟はしてきたんですから!婚約者を正式にしたのは間違いなのもわかっているはずです!本当なんで私はあんなことをっ!)
覚悟はあってもネムリンの内心が落ち着く気配はない。
「死なないでくれ!」
何を言われるのか、何をされるのかと不安で仕方ないネムリンにルーベルトが言った言葉は直球過ぎた。
「え?」
よくて罵倒、悪くて手を握りつぶされる。ネムリンの手を握りつぶせるかはさておき、そんな言葉にネムリンはきょとんとして思う。
(殿下の言葉を真に受けていたりするのでしょうか……?)
一瞬で冷静になるくらいには予想外の言葉だった。ネムリンが冷静になってよくよく見ればルーベルトの瞳は真剣そのものなのがわかる。本当に自分に死んでほしくないという気持ちが。
「俺は、いや、私はただネムリンに会えて緊張してしまっただけで、貴女を気に病ませようだなんて思ってはいなかった」
「私に緊張、ですか?」
さらに続く思わぬ言葉にネムリンは信じられない気持ちだ。
(本国に置いて強大な権力を保持するだけでなく、最高位である王家とすら対等に渡り歩いてしまえる御方が、地味で可愛げもなく、とても女性らしいとは言い難い私に緊張するなんて………)
ネムリンは自分に自信もなければ、周囲が自分にする評価を正しく理解しているつもりだ。とはいえ、若干周囲以上に自分を低く見るネムリンではあるがそれ故にルーベルトの言葉は受け入れづらい。
何より気絶して起きた日からまた多少クマが濃くなったとはいえルーベルトの睨むような目付きは、ネムリンを前に和らいでいる。よって元々顔が整っているルーベルトは美形の部類であり、頭痛に耐える睨む目付きさえなければモテていてもおかしくないほどの清潔そうなクールなイケメンにしか見えない。
実際のルーベルトはルドルクから見ればクールからかけ離れているが。
とまあ、言いたいのはこのように容姿にも恵まれていればいくら怖い噂があろうと、令嬢にことかかないだろうルーベルトが今更ネムリンのような者に緊張はないだろうと疑っているわけだ。
「貴女は私が望んだ婚約者だ。緊張もするし、死ぬと言われれば何が何でも………監禁してでも止める」
(監禁はだめだろう)
そう心の中で突っ込みを入れるのはルドルク。せっかく会話もでき、自らの婚約者に触れられているルーベルトとようやく落ち着いた様子のネムリンとの婚約者同士の二人を邪魔をする気など更々ない。
王子でもあるルドルクは空気に徹した。王子を空気扱いできるのもこの先この二人だけだろう。そういう意味でもお似合いじゃないかというのはルドルクの意見である。
「か、監禁………もしかして、ラヴィン公爵様は私が婚約者であることを本当に望まれているのですか?」
まさか監禁という言葉まで出されるとは思わず、まさかまさかと恐る恐る訪ねるネムリン。直筆の手紙は読んだが、それでもやはりルーベルトの婚約者になることを望まれているとネムリンは思えなかった。
本気で何かの間違いだと思っていたのだ。
「手紙に書いたはずだが………足りなかったか?」
(足りない?)
ルーベルトの言葉に二人を見守っていたルドルクが言葉の意味がわからず、ん?とひとり首を傾げる。
「いえ、婚約者を正式に認める文にしては綴られる文が多すぎて、内容も、ね、熱烈、と言いますか、その、嫌がらせかと………」
そのルドルクがわからぬ意味をネムリンが理解している様子にルドルクは見守る姿勢は短くも終わった。
「ごめん、口を挟む気はなかったんだけどルーベルト、お前正式に婚約者と認める手紙以外に何か書いたのか」
ルドルク自身ルーベルトが自ら正式に婚約者と認めるための手紙を送ったことは聞いているし知っている。だが、それ以外に書いたことは知らなかったし、手紙自体を目にする前に送ったと言われ気にも止めていなかった。
ルドルクはルーベルトが使いのものに代筆を任せず自ら書いて送ると言った時点で確かめておくべきだったのだ。何故、婚約者と正式に認めるだけの手紙を直筆するつもりになったのか。
それがわかっていればルドルクが止めることでネムリンもそこまで婚約者と正式に認めるのはルーベルトによる嫌がらせで、この場で間違いだったと言われるなんてことを思うこともなかっただろう。
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