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1章選ばれたのは令嬢らしからぬ令嬢でした
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若くして優秀故に早くも公爵家当主となり王家にも厚く信頼され、何をしても完璧な男ルーベルト・ラヴィン公爵。
難点は不眠症故に消えぬクマで眠いのに寝付けないため普段から目付きが悪いこと。顔が整っているからこそ迫力は半端なく、眠れないせいか頭痛のために口数が少ないのも災いし女の影もない。
「今日も機嫌が悪そうだね、ルーベルト」
「………頭が痛いだけだ」
この国アークスの第一王子相手に睨み付け、唸るように返事を一言返したものこそ不眠症に悩まされる以外完璧を言葉にした22歳と若くして公爵家当主に選ばれた人材。
彼は決して不機嫌なわけではなく、眠れないために起こる頭痛に耐えているだけだ。それを理解しながら彼の友人でもある第一王子ルドルク・アークスがそう声をかけたことに、ルーベルトも理解している。
周囲がルーベルトの機嫌が悪いわけではないと言うのをこの会話で教えるためのルドルクなりのやり方ではあるが、周囲がそれに気づくことはない。
それぐらいに目下にクマを常備させながら睨むような目付きは、見る人誰もを怖がらせるくらいの迫力がある。
「そうか。で、会ったついでに頼んでいた資料について聞いても?」
「…………」
「怒らないでよ。わかってる、それでしょ?別にサボりに来たわけじゃない。息抜きに君を迎えに来ただけだ」
俺の手元を見てわからないかとばかりに睨みを利かせるルーベルトにルドルクは茶化すように両手をあげる。仮にも第一王子に対する態度ではないが、これは二人が友人であり、ルーベルト自身が公爵家当主として王家に誰よりも信頼される存在だからこそ許される扱いでもある。
何よりルーベルトは優秀すぎて見放されてしまえば辛いのは王家であるくらいには国の支えでもある。宰相はいるものの宰相も認める宰相顔負けの優秀さであり、騎士ならば既に団長レベルと言われるほどに腕もいい。
さらに商家としてもやっていけるほどに暇あれば誰もが驚く発明をし、世に売り出せば誰もが欲しがるものばかりで今や金銭の持ち金は王家よりも上回る。それでは王家が示しつかないため、あえて敵対心はないと示すつもりでルーベルトは王家に売り上げの一部を献上しているが。
つまりのところルーベルトは王家に反逆する術もあり、反逆せずとも見放すことで王家の懐さえも大打撃を与えることができる立場にある。それでも王家が国の王として顔に泥を塗らずに済むのはルーベルトが王家を立てるための行動をしてくれるからこそである。
そんなわけで王家はルーベルトに気を許しているわけだが、それ故に周囲に誤解を与えてしまうルーベルトが心配でならなかった。
悉くルドルク筆頭に色々考えて行動には移すものの、本人がいつも通りすぎる故に成果は微妙である。
「まあもうひとつ理由はあるけど」
「なんだ?」
片手で頭痛を我慢するように額辺りに手を添えながらこれ以上止まる気はないと廊下を歩き出すルーベルトに、ルドルクは隣を歩きながら理由を口にする。
「明日、婚活パーティーを開催しようかと思う」
「………」
だからなんだとばかりにルドルクにルーベルトの視線がいく。
「婚約者を持たない人物だけを誘うパーティーなら、君の婚約者が見つけられないかなって」
「無駄なことだ」
「そうは言うけど、君を狙う令嬢はそれなりにいるよ?」
「公爵家の妻という身分がほしいだけだろう」
「まあそうだろうけど、身分が欲しくても君の機嫌を損なうのが怖くて近づく人はいない。普段から不機嫌そうに見えるから尚更ね。だから、あえて近づく機会をつくって君の婚約者を見つける機会ができればなって。婚約期間は一年、一年後結婚するかは君次第ってね。それで結婚に至らぬならもう一度婚活パーティーを開催し直し。最初からそう言えば、令嬢は婚約破棄されても傷はつかないだろう。何より普段の君を見ている周囲からすれば、王家に逆らえず仕方ない婚約期間だったと思われるだろうから。まあ婚約破棄せずとも、その婚約者が君の結婚したい人になればそれはそれで万歳だしね」
「………ただでさえ眠れないのに余計なことを」
「僕らも何もさらに眠りにくい状況を作る気はないよ。君が眠たくても寝付けないのが唯一の悩みなのは知っているから。だから君の婚約者になれるのは君を寝かせられた人にしようかと思ってね」
「…………」
今更無理だろうとばかりにため息をつくルーベルト。何より婚活パーティーと婚約者のいないものたちだけといえど、人数は数人ではないのは確実。大勢の人前で寝るなど余計に難しいことだ。ルーベルトはラヴィン家の規則に習い、いついかなるときも王家の毒味もできるよう幼い頃からそういった訓練があった。そのため、毒物耐性があり、薬の効き目も悪く、そうなれば当然睡眠薬も無駄に終わる。
よって、うたた寝すら難しいのである。
「大勢の前で君をうたた寝ひとつでもさせられる令嬢が現れたらそれ以上君に相応しい婚約者はいないだろう?」
「勝手にしろ」
金も身分も力も権力もあるルーベルト。ただないのはクマができないくらいの普通の眠り。誰でもできる眠るということができず、ただでさえ浅い眠りで少しの物音があればそれでまた浅い眠りすらなくなるそんな毎日。
そんな彼はまだ知らない。不可能だと思われる方法でルーベルトのクマを無くす令嬢が現れ、婚約者として溺愛し過保護になる未来を。人生が一気に変わるその日を。
難点は不眠症故に消えぬクマで眠いのに寝付けないため普段から目付きが悪いこと。顔が整っているからこそ迫力は半端なく、眠れないせいか頭痛のために口数が少ないのも災いし女の影もない。
「今日も機嫌が悪そうだね、ルーベルト」
「………頭が痛いだけだ」
この国アークスの第一王子相手に睨み付け、唸るように返事を一言返したものこそ不眠症に悩まされる以外完璧を言葉にした22歳と若くして公爵家当主に選ばれた人材。
彼は決して不機嫌なわけではなく、眠れないために起こる頭痛に耐えているだけだ。それを理解しながら彼の友人でもある第一王子ルドルク・アークスがそう声をかけたことに、ルーベルトも理解している。
周囲がルーベルトの機嫌が悪いわけではないと言うのをこの会話で教えるためのルドルクなりのやり方ではあるが、周囲がそれに気づくことはない。
それぐらいに目下にクマを常備させながら睨むような目付きは、見る人誰もを怖がらせるくらいの迫力がある。
「そうか。で、会ったついでに頼んでいた資料について聞いても?」
「…………」
「怒らないでよ。わかってる、それでしょ?別にサボりに来たわけじゃない。息抜きに君を迎えに来ただけだ」
俺の手元を見てわからないかとばかりに睨みを利かせるルーベルトにルドルクは茶化すように両手をあげる。仮にも第一王子に対する態度ではないが、これは二人が友人であり、ルーベルト自身が公爵家当主として王家に誰よりも信頼される存在だからこそ許される扱いでもある。
何よりルーベルトは優秀すぎて見放されてしまえば辛いのは王家であるくらいには国の支えでもある。宰相はいるものの宰相も認める宰相顔負けの優秀さであり、騎士ならば既に団長レベルと言われるほどに腕もいい。
さらに商家としてもやっていけるほどに暇あれば誰もが驚く発明をし、世に売り出せば誰もが欲しがるものばかりで今や金銭の持ち金は王家よりも上回る。それでは王家が示しつかないため、あえて敵対心はないと示すつもりでルーベルトは王家に売り上げの一部を献上しているが。
つまりのところルーベルトは王家に反逆する術もあり、反逆せずとも見放すことで王家の懐さえも大打撃を与えることができる立場にある。それでも王家が国の王として顔に泥を塗らずに済むのはルーベルトが王家を立てるための行動をしてくれるからこそである。
そんなわけで王家はルーベルトに気を許しているわけだが、それ故に周囲に誤解を与えてしまうルーベルトが心配でならなかった。
悉くルドルク筆頭に色々考えて行動には移すものの、本人がいつも通りすぎる故に成果は微妙である。
「まあもうひとつ理由はあるけど」
「なんだ?」
片手で頭痛を我慢するように額辺りに手を添えながらこれ以上止まる気はないと廊下を歩き出すルーベルトに、ルドルクは隣を歩きながら理由を口にする。
「明日、婚活パーティーを開催しようかと思う」
「………」
だからなんだとばかりにルドルクにルーベルトの視線がいく。
「婚約者を持たない人物だけを誘うパーティーなら、君の婚約者が見つけられないかなって」
「無駄なことだ」
「そうは言うけど、君を狙う令嬢はそれなりにいるよ?」
「公爵家の妻という身分がほしいだけだろう」
「まあそうだろうけど、身分が欲しくても君の機嫌を損なうのが怖くて近づく人はいない。普段から不機嫌そうに見えるから尚更ね。だから、あえて近づく機会をつくって君の婚約者を見つける機会ができればなって。婚約期間は一年、一年後結婚するかは君次第ってね。それで結婚に至らぬならもう一度婚活パーティーを開催し直し。最初からそう言えば、令嬢は婚約破棄されても傷はつかないだろう。何より普段の君を見ている周囲からすれば、王家に逆らえず仕方ない婚約期間だったと思われるだろうから。まあ婚約破棄せずとも、その婚約者が君の結婚したい人になればそれはそれで万歳だしね」
「………ただでさえ眠れないのに余計なことを」
「僕らも何もさらに眠りにくい状況を作る気はないよ。君が眠たくても寝付けないのが唯一の悩みなのは知っているから。だから君の婚約者になれるのは君を寝かせられた人にしようかと思ってね」
「…………」
今更無理だろうとばかりにため息をつくルーベルト。何より婚活パーティーと婚約者のいないものたちだけといえど、人数は数人ではないのは確実。大勢の人前で寝るなど余計に難しいことだ。ルーベルトはラヴィン家の規則に習い、いついかなるときも王家の毒味もできるよう幼い頃からそういった訓練があった。そのため、毒物耐性があり、薬の効き目も悪く、そうなれば当然睡眠薬も無駄に終わる。
よって、うたた寝すら難しいのである。
「大勢の前で君をうたた寝ひとつでもさせられる令嬢が現れたらそれ以上君に相応しい婚約者はいないだろう?」
「勝手にしろ」
金も身分も力も権力もあるルーベルト。ただないのはクマができないくらいの普通の眠り。誰でもできる眠るということができず、ただでさえ浅い眠りで少しの物音があればそれでまた浅い眠りすらなくなるそんな毎日。
そんな彼はまだ知らない。不可能だと思われる方法でルーベルトのクマを無くす令嬢が現れ、婚約者として溺愛し過保護になる未来を。人生が一気に変わるその日を。
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