18 / 24
3章婚約者9歳、王子12歳
14
しおりを挟む
「師匠、何故ここに?」
最初に沈黙した空気に口を出したのはスフィアだった。俺を含めた三人の視線がスフィアを見る。
「時間がないから手伝いに来たんだよ、意味はわかるね?」
時間がない?手伝い?こいつは何を言っている?もうひとりの平民少女もわからないのか首を傾げている。
「……まだ9歳ですよ?」
「まだ9歳でもだよ。原因を君は知っているし、もうこの時が来てしまった今、君は………」
「師匠!それ以上は」
「ああ、そうだね」
スフィアに関連することなのがわかりはするが、何を話しているのかはさっぱりだ。俺か、もしくはそこの平民少女に聞かれたくないのかスフィアが声をあげて遮った言葉の先はなんだったのか。
二人が秘密にすることを考えて、胸の辺りがもやもやする。この師匠とやらはスフィアをよく知る人物みたいだ。まあ師匠なら知っていてもおかしくはないんだろう。俺と同じ年だろうに、師匠ということはスフィアより強くて頼りがいが……せめて想像通りもっと年上なら……。
そこまで考えてやめた。まるで俺が師匠とやらに嫉妬しているみたいじゃないかと。何にしてもスフィアが婚約者の俺には話さず、師匠には何でも話しているのかなんて考えずとも当たり前のことなのだから。何故もなにも、婚約者と言ってもこれは父が無理矢理した婚約で俺は女嫌い故に大して歩み寄ったつもりもない。………全く考えるだけでも馬鹿馬鹿しい。
とはいえ、最近はスフィアの男装や紙袋のせいで女として見えにくいだけに、俺自身が無意識に友人的な意味で見ている可能性はある。だから友人が取られたようで……いやいや、俺はガキか。いや、まだ成人もしてない子供ではあるがそうじゃない。
変な思考に陥っていて気がつけば師匠というやつと、スフィアがいなくなっており、俺と平民少女だけが教室に残っていた。
「スフィアは」
「さっきの方たちは二人で話してくると出ていきましたが」
聞いていなかったのかと平民少女が首を傾げている。俺にスフィアから離れるなと言っておきながら初日から離れるとはそんなにあいつと二人で密談でもしたいのかと思い頭を振った。
さっきからどうも思考がおかしな方向へいっている気がする。まず考えるべきは目の前の女だ。教室の扉が開いているとはいえ、男女二人っきりはよくない。これはスフィアたちにも言えることだが。
しかし、この平民少女に何があるのか気になるのも事実。見る限りは平民にしては見目がいいと言われるだろう容姿以外わかることはない。
ああ、女を久々に近くで見たせいか鳥肌が立った。全校集会じゃ紙袋の被ってない女子生徒は離れていたし、女子生徒が近くにいてもそれは紙袋を被った学生ばかりで最近女を気にすることがなかったなと改めて思う。俺に近づく女は全て紙袋を被れば女嫌いもマシにはなるか?と考えてしまう俺は疲れているのかもしれない。
でもそう考えてしまうのは女という存在よりも紙袋が気になるためか、大して抵抗感を感じなかったせいだ。改めて思えばある意味平和な学園生活だなと思う反面、紙袋のせいで前以上に女への耐性がなくなっている気がしたのは危機感を持つべきかもしれない。これじゃあ下手すれば社交界に自分主催で赴いたとき、数分すら我慢ならず自分を囲む令嬢とろくに話すらできなくなりそうだ。
無理矢理紙袋を被せないと耐えられる気がしない。どう考えてもいい解決策とは言えないだろう。
ただでさえああいった貴族の催しで俺に近づく者は、高貴な身分が多いだけに下手に接してばかりもいられないから面倒でしかない。女嫌いと知りながら来る者もいるのだから、高貴の身分の無駄に女として自信がある者ほど殴りたい時がある。その自信をへし折るために。
だが、そんな衝動もある程度話していい加減にしてほしいと遠回しに苛立ち加減に言えばすぐ引く者が多いだけに我慢できてきた部分もある。もちろんしつこいものがいなかったわけではないが……空気を読める者たちによりなんとかやってきた。
そんなしつこい女が現れる理由は女嫌いでありながら女に慣れようと努力されているといった噂が飛び交うせいだ。そんな噂のせいでそれに協力しましょうとばかりに寄ってくる女がいるから余計に嫌になる。寧ろ悪化すると何度突き放したくなったか。何故俺の嫌う女という生き物でありながら自分なら嫌わないだろうという自信を持てるのか、そういった女以上に鬱陶しいものはない。
女が嫌い、でも紙袋を被れば嫌いとまではいかないとは変な感じだ。俺は女の顔が嫌いなんだろうか?とすら思ってしまう。
そもそも俺はなんで女をここまで嫌いになったのか、ふと思った。女に囲まれるのが嫌だったのはもちろんあるし、着飾って媚の売り、臭い香水に苦手になる要素は考えるだけでもたくさんある。
けど、そんな女ばかりでないのもわかってはいた。寧ろ女という生物の括りで嫌う時点で差別に近く、未来の王としてはふさわしくない。それでも女だから俺は嫌いという考えが消えるわけでは……っと思考していればズキリと頭が痛んだ気がした。
「大丈夫ですか?」
「触るなっ!」
頭を押さえて心配だとばかりに自分に触れようとした平民少女の手を払い除ける。平民少女は驚いたように目を見開けながら困った様子でこちらを見た。
何かがおかしい。平民少女の手に触れたとたん温かい何かを感じ、それでいて平民少女が目に移ると激しい憎悪のようなものが溢れ出るような気分になった。
目の前が揺れる。気のせいか目の前の平民少女が一瞬大人になった気がした。頭の中から何かが流れ込んでくるように映像が浮かぶ。
それと一緒に意識がだんだんと遠くなる。平民少女が悪人ならここで意識を失いあらぬことをされたら面倒だと思いながらも何故か意識が保てそうにない。このまま気を失えば少女によって都合のいいあらぬ疑いでもかけられる可能性がある。わかってはいてももはや限界だった俺は不覚にも少女と二人っきりの教室で気を失うことに。
意識を失う前、最後に頭に浮かんだのは、最初に会った時のスフィアのように長く白い髪で、瞳に緑と赤のオッドアイを持ち、綺麗な顔立ちをした大人の女性が何かを言っている姿だった。
最初に沈黙した空気に口を出したのはスフィアだった。俺を含めた三人の視線がスフィアを見る。
「時間がないから手伝いに来たんだよ、意味はわかるね?」
時間がない?手伝い?こいつは何を言っている?もうひとりの平民少女もわからないのか首を傾げている。
「……まだ9歳ですよ?」
「まだ9歳でもだよ。原因を君は知っているし、もうこの時が来てしまった今、君は………」
「師匠!それ以上は」
「ああ、そうだね」
スフィアに関連することなのがわかりはするが、何を話しているのかはさっぱりだ。俺か、もしくはそこの平民少女に聞かれたくないのかスフィアが声をあげて遮った言葉の先はなんだったのか。
二人が秘密にすることを考えて、胸の辺りがもやもやする。この師匠とやらはスフィアをよく知る人物みたいだ。まあ師匠なら知っていてもおかしくはないんだろう。俺と同じ年だろうに、師匠ということはスフィアより強くて頼りがいが……せめて想像通りもっと年上なら……。
そこまで考えてやめた。まるで俺が師匠とやらに嫉妬しているみたいじゃないかと。何にしてもスフィアが婚約者の俺には話さず、師匠には何でも話しているのかなんて考えずとも当たり前のことなのだから。何故もなにも、婚約者と言ってもこれは父が無理矢理した婚約で俺は女嫌い故に大して歩み寄ったつもりもない。………全く考えるだけでも馬鹿馬鹿しい。
とはいえ、最近はスフィアの男装や紙袋のせいで女として見えにくいだけに、俺自身が無意識に友人的な意味で見ている可能性はある。だから友人が取られたようで……いやいや、俺はガキか。いや、まだ成人もしてない子供ではあるがそうじゃない。
変な思考に陥っていて気がつけば師匠というやつと、スフィアがいなくなっており、俺と平民少女だけが教室に残っていた。
「スフィアは」
「さっきの方たちは二人で話してくると出ていきましたが」
聞いていなかったのかと平民少女が首を傾げている。俺にスフィアから離れるなと言っておきながら初日から離れるとはそんなにあいつと二人で密談でもしたいのかと思い頭を振った。
さっきからどうも思考がおかしな方向へいっている気がする。まず考えるべきは目の前の女だ。教室の扉が開いているとはいえ、男女二人っきりはよくない。これはスフィアたちにも言えることだが。
しかし、この平民少女に何があるのか気になるのも事実。見る限りは平民にしては見目がいいと言われるだろう容姿以外わかることはない。
ああ、女を久々に近くで見たせいか鳥肌が立った。全校集会じゃ紙袋の被ってない女子生徒は離れていたし、女子生徒が近くにいてもそれは紙袋を被った学生ばかりで最近女を気にすることがなかったなと改めて思う。俺に近づく女は全て紙袋を被れば女嫌いもマシにはなるか?と考えてしまう俺は疲れているのかもしれない。
でもそう考えてしまうのは女という存在よりも紙袋が気になるためか、大して抵抗感を感じなかったせいだ。改めて思えばある意味平和な学園生活だなと思う反面、紙袋のせいで前以上に女への耐性がなくなっている気がしたのは危機感を持つべきかもしれない。これじゃあ下手すれば社交界に自分主催で赴いたとき、数分すら我慢ならず自分を囲む令嬢とろくに話すらできなくなりそうだ。
無理矢理紙袋を被せないと耐えられる気がしない。どう考えてもいい解決策とは言えないだろう。
ただでさえああいった貴族の催しで俺に近づく者は、高貴な身分が多いだけに下手に接してばかりもいられないから面倒でしかない。女嫌いと知りながら来る者もいるのだから、高貴の身分の無駄に女として自信がある者ほど殴りたい時がある。その自信をへし折るために。
だが、そんな衝動もある程度話していい加減にしてほしいと遠回しに苛立ち加減に言えばすぐ引く者が多いだけに我慢できてきた部分もある。もちろんしつこいものがいなかったわけではないが……空気を読める者たちによりなんとかやってきた。
そんなしつこい女が現れる理由は女嫌いでありながら女に慣れようと努力されているといった噂が飛び交うせいだ。そんな噂のせいでそれに協力しましょうとばかりに寄ってくる女がいるから余計に嫌になる。寧ろ悪化すると何度突き放したくなったか。何故俺の嫌う女という生き物でありながら自分なら嫌わないだろうという自信を持てるのか、そういった女以上に鬱陶しいものはない。
女が嫌い、でも紙袋を被れば嫌いとまではいかないとは変な感じだ。俺は女の顔が嫌いなんだろうか?とすら思ってしまう。
そもそも俺はなんで女をここまで嫌いになったのか、ふと思った。女に囲まれるのが嫌だったのはもちろんあるし、着飾って媚の売り、臭い香水に苦手になる要素は考えるだけでもたくさんある。
けど、そんな女ばかりでないのもわかってはいた。寧ろ女という生物の括りで嫌う時点で差別に近く、未来の王としてはふさわしくない。それでも女だから俺は嫌いという考えが消えるわけでは……っと思考していればズキリと頭が痛んだ気がした。
「大丈夫ですか?」
「触るなっ!」
頭を押さえて心配だとばかりに自分に触れようとした平民少女の手を払い除ける。平民少女は驚いたように目を見開けながら困った様子でこちらを見た。
何かがおかしい。平民少女の手に触れたとたん温かい何かを感じ、それでいて平民少女が目に移ると激しい憎悪のようなものが溢れ出るような気分になった。
目の前が揺れる。気のせいか目の前の平民少女が一瞬大人になった気がした。頭の中から何かが流れ込んでくるように映像が浮かぶ。
それと一緒に意識がだんだんと遠くなる。平民少女が悪人ならここで意識を失いあらぬことをされたら面倒だと思いながらも何故か意識が保てそうにない。このまま気を失えば少女によって都合のいいあらぬ疑いでもかけられる可能性がある。わかってはいてももはや限界だった俺は不覚にも少女と二人っきりの教室で気を失うことに。
意識を失う前、最後に頭に浮かんだのは、最初に会った時のスフィアのように長く白い髪で、瞳に緑と赤のオッドアイを持ち、綺麗な顔立ちをした大人の女性が何かを言っている姿だった。
0
お気に入りに追加
879
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
結婚式の日取りに変更はありません。
ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。
私の専属侍女、リース。
2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。
色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。
2023/03/13 番外編追加
帰らなければ良かった
jun
恋愛
ファルコン騎士団のシシリー・フォードが帰宅すると、婚約者で同じファルコン騎士団の副隊長のブライアン・ハワードが、ベッドで寝ていた…女と裸で。
傷付いたシシリーと傷付けたブライアン…
何故ブライアンは溺愛していたシシリーを裏切ったのか。
*性被害、レイプなどの言葉が出てきます。
気になる方はお避け下さい。
・8/1 長編に変更しました。
・8/16 本編完結しました。
どうせならおっさんよりイケメンがよかった
このはなさくや
恋愛
のんびりした田舎町モルデンに住む冒険者のセリは、ちょっと訳ありの男の子。
ある日魔物に襲われ毒に犯されたセリを助けたのは、ギルドで出会った怪しい風体のおっさんで────!?
突然異世界にトリップしてしまった女子大生と、外見は怪しいけど実は高スペックのおっさん(!?)の織りなす恋愛ファンタジーです。
幼妻は、白い結婚を解消して国王陛下に溺愛される。
秋月乃衣
恋愛
旧題:幼妻の白い結婚
13歳のエリーゼは、侯爵家嫡男のアランの元へ嫁ぐが、幼いエリーゼに夫は見向きもせずに初夜すら愛人と過ごす。
歩み寄りは一切なく月日が流れ、夫婦仲は冷え切ったまま、相変わらず夫は愛人に夢中だった。
そしてエリーゼは大人へと成長していく。
※近いうちに婚約期間の様子や、結婚後の事も書く予定です。
小説家になろう様にも掲載しています。
あなたなんて大嫌い
みおな
恋愛
私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。
そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。
そうですか。
私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。
私はあなたのお財布ではありません。
あなたなんて大嫌い。
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
〖完結〗私が死ねばいいのですね。
藍川みいな
恋愛
侯爵令嬢に生まれた、クレア・コール。
両親が亡くなり、叔父の養子になった。叔父のカーターは、クレアを使用人のように使い、気に入らないと殴りつける。
それでも懸命に生きていたが、ある日濡れ衣を着せられ連行される。
冤罪で地下牢に入れられたクレアを、この国を影で牛耳るデリード公爵が訪ねて来て愛人になれと言って来た。
クレアは愛するホルス王子をずっと待っていた。彼以外のものになる気はない。愛人にはならないと断ったが、デリード公爵は諦めるつもりはなかった。処刑される前日にまた来ると言い残し、デリード公爵は去って行く。
そのことを知ったカーターは、クレアに毒を渡し、死んでくれと頼んで来た。
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
全21話で完結になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる