上 下
6 / 24
3章婚約者9歳、王子12歳

2

しおりを挟む
スアンは有名だ。最年少にして副団長。騎士たちも少年相手でもその強さと手腕を知るがために逆らうものはいない。団長にこそ負けるはものの、包帯で隠された顔は何を考えているかわからず、剣だけでなく生まれ持つ怪力に誰もが怯える存在。

そう、誰もが彼女を少年だと思っている。それが女子の制服を着て歩けばそれだけで誰もが騒ぐだろう。つまりは周囲が絶対混乱する。

俺と同じく男子生徒の服を着るにしても女とバレた時、校則違反として王族の婚約者の仕出かしたこととはいえ、王族の、しかも次期王と言われる俺が校則違反を許すとは何事だとなるわけだ。校則すら守れないのが将来の王とはとそれだけで評価が落ちるのはいただけない。

ならば女らしく女の制服を……と改めてスアンを見るが、似合わない。女なのに、今回行く学園の制服を思い浮かべて見たが、似合わない。男の制服の方が寧ろしっくり来る。

女装癖でもあるのかとスアンは疑われそうだ。いや、女なのだから女装にはならない。ならないのだが、どうしたものかと頭が痛くなる。

「つきましては、スカートを履く許可を頂けますか」

「は?」

「スカートは女の着るものかと思いまして、殿下はお嫌かと」

気にするところはそこなのかと思わずスアンを凝視する。義務なのだから仕方ないと言えばそれまでだ。わざわざ許可をとることもないそれに許可をとることに対して律儀と言うべきか。

俺が許可しなければどうするつもりだったのかと思うが、もう考えても仕方ないと諦めることにした。

「勝手にしろ……」

「それと、守護騎士として行くのはもちろんなのですが婚約者としての姿をするべきですか?」

「それは……」

恐らく、確実に探りは入る。女子の制服の時点でスアンに探りは入るだろう。簡単に探られるようなタマではないが。

要はいっそのこと自分が守護騎士であり、婚約者であることを広めてしまうかということだ。そうなると婚約発表も早まることにはなるだろう。スアンが王妃の力量があまりに不足しているとなれば発表するまでもなく、婚約破棄になるが、正直スアンならばそんなことにはならないと今なら思える。色々と規格外なのはともかく。

だが、よくよく考えるとそれでもいい気がした。どうせ、スアンをどうこうできるやつがいるとは思えないからだ。男としてどうかと思われようが、スアンは未知の生物。どうせ似合わない格好で女姿を晒し笑われるくらいなら、婚約者として少しでも見目に気遣った方が利が大きい気がした。

わざわざ笑われる見目になる必要もない。スアンを笑う勇気があるものがいるとは思えないとはいえ。まあ、何にしろ、バレないならそれはそれで隠すつもりだが。

「婚約者として、頼む」

「かしこまりました」

正直今の見目のまま、どう女を取り戻す気かと思う。まさか包帯が外されたりするのだろうか?包帯を巻いて顔を隠すがために余計に少年らしく見える。

もし、包帯の下がどう隠そうと少女の器たる顔ならそれだけで大分と変わることだろう。その時俺は嫌悪を抱くのだろうか?と思いつつも、二年もの月日が経ちながら未だ見たことがない婚約者の顔に興味がないと言えば嘘になる。

一度父に聞いては見たが、家族以外知らないらしいと聞いて驚いたものだ。彼女は3歳の頃から顔を隠すようになったのだと。それを聞いててっきり俺が女嫌いであるから以外にも実は顔に傷でもあるのかと思ったが、そうではないらしい。さらには令嬢ではありえないほどに強さを身に付けようとし、スアンの師を知る者はいないと言う。それは家族すらも。

一体3歳の頃に何があったのかと思うほどにスアンは謎に溢れている。飽きない婚約者だと呆れもあるが、そのおかげで父の目に止まる何かがあり特に嫌悪感のない婚約者を手に入れたと思えばよかったかもしれない。

次期の王として結婚はするべきだ。国に尽くしたいが、わざわざ嫌いな女を国のために嫁に貰わなければならないことだけが嫌だった。女は時に国を傾けると思っているが故に。

それも、スアンが来て変わった。スアンは必要経費以外に手をつけず、守護騎士でありながら思わぬ発想力もあってその中には国の発展に繋がりそうなものもあった。今はまだ準備段階までしか動かせないが、タイミングを見てそれを実行しようとも考えている。

規格外な点はともかく、スアンなら王妃として国を傾けるようなバカな真似はしなさそうだと今の俺は気持ちの観点からしても、スアンを婚約破棄しようなどという思いはもうない。

とはいえ、さすがに国民を傷つけるわけにはいかないという姿勢はいいが、調子づかないよう脅すだけのために、城にもろい部分があるからと壁や床を壊す真似だけは自重してほしいと思う。

修繕するのは城なだけに、高額。婚約者ができてしまえば着飾るのが好きな女は宝石やドレスで無駄金を使う日々だろうと考えていた日が懐かしい。まさか壁や床の修繕費に成り代わるとは全く考えていなかった。考えるはずもない。

とはいえ、それで国のお金が使われている様子もなかったため次第に疑問が募る。

確かにスアンは守護騎士としての給与もあるようだが、城の修繕費は一部といえど守護騎士としてもらってる分では賄えないものだった故に。だから本人に聞いてみれば、さすがと言うべきか、何をしてるんだと咎めるべきか、騎士とは別にまたしても偽名を使って冒険者としての依頼も受けているのだとか。

『仮面のフィン』とこれまた最近有名の二つ名だった。かつらを被り、仮面で顔を隠して早朝に依頼をこなしては一時間もせず依頼を達成と既にBランクなのだとか。なろうと思えばAランクにも行けるが、指名依頼が増えるらしく、守護騎士として早朝しか動けないのと護衛依頼を受けたことがないためなれないのだとか。

ちなみに冒険者は親に見捨てられた子供救済措置で年齢制限はない。子供は薬草採取で小遣いを稼ぎはするものの、間違っても魔物討伐で名をあげることはまずないと聞く。貴族が教育を受けて冒険者になり、子供ながらにそこそこ倒せても最弱の魔物ばかり。

結局は9歳でBランクにいけるスアンがどこまでも規格外なだけ。まあ騎士の副団長としては低いかもしれないが……。まあ、それはそれとして、そうなると早朝に依頼、夜はギリギリまで俺の守護騎士として共にいるのがスアンの日課になる。ちゃんと寝れているのか?とは思うがスアンなら多少寝なくとも大丈夫な気がするのは俺だけだろうか。

そう思考している内に、婚約者としてどのような格好で来るのか、ちらりと立って座ろうとしないいつものスアンにだんだん不安になる俺は、それを振り切るように仕事に没頭した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

旦那様に愛されなかった滑稽な妻です。

アズやっこ
恋愛
私は旦那様を愛していました。 今日は三年目の結婚記念日。帰らない旦那様をそれでも待ち続けました。 私は旦那様を愛していました。それでも旦那様は私を愛してくれないのですね。 これはお別れではありません。役目が終わったので交代するだけです。役立たずの妻で申し訳ありませんでした。

結婚式の日取りに変更はありません。

ひづき
恋愛
私の婚約者、ダニエル様。 私の専属侍女、リース。 2人が深い口付けをかわす姿を目撃した。 色々思うことはあるが、結婚式の日取りに変更はない。 2023/03/13 番外編追加

あなたなんて大嫌い

みおな
恋愛
 私の婚約者の侯爵子息は、義妹のことばかり優先して、私はいつも我慢ばかり強いられていました。  そんなある日、彼が幼馴染だと言い張る伯爵令嬢を抱きしめて愛を囁いているのを聞いてしまいます。  そうですか。 私の婚約者は、私以外の人ばかりが大切なのですね。  私はあなたのお財布ではありません。 あなたなんて大嫌い。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです

こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。 まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。 幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。 「子供が欲しいの」 「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」 それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

【完結】亡き冷遇妃がのこしたもの〜王の後悔〜

なか
恋愛
「セレリナ妃が、自死されました」  静寂をかき消す、衛兵の報告。  瞬間、周囲の視線がたった一人に注がれる。  コリウス王国の国王––レオン・コリウス。  彼は正妃セレリナの死を告げる報告に、ただ一言呟く。 「構わん」……と。  周囲から突き刺さるような睨みを受けても、彼は気にしない。  これは……彼が望んだ結末であるからだ。  しかし彼は知らない。  この日を境にセレリナが残したものを知り、後悔に苛まれていくことを。  王妃セレリナ。  彼女に消えて欲しかったのは……  いったい誰か?    ◇◇◇  序盤はシリアスです。  楽しんでいただけるとうれしいです。    

業腹

ごろごろみかん。
恋愛
夫に蔑ろにされていた妻、テレスティアはある日夜会で突然の爆発事故に巻き込まれる。唯一頼れるはずの夫はそんな時でさえテレスティアを置いて、自分の大切な主君の元に向かってしまった。 置いていかれたテレスティアはそのまま階段から落ちてしまい、頭をうってしまう。テレスティアはそのまま意識を失いーーー 気がつくと自室のベッドの上だった。 先程のことは夢ではない。実際あったことだと感じたテレスティアはそうそうに夫への見切りをつけた

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

処理中です...