女嫌いの王子は婚約者の素顔を知らない(改稿版)

荷居人(にいと)

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1章婚約者7歳、王子10歳

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「フィセード殿下、婚約者様が来ています……?」

「なんだ、その疑問文は」

あれから一ヶ月、そう知らせに来てくれたのは幼い頃から俺に仕えてくれている侍従レオルトだ。俺と二歳差だが、幼い頃からの天才とも言われており、大人顔負けの優秀さと誰もがしない発想には俺でも驚くことがある。

そんな完璧な侍従がなんとも言えないとばかりに告げてきた言葉。俺の婚約者がいくら包帯に巻かれていようとそれくらいじゃ動揺するような男じゃない。

女を捨てろと言ったあの日、またすぐ連絡が来るかと思ったがそうでもなかった。この一ヶ月の結果がどうなったか見物だなと思い、連絡を受けていた時間通りな点を評価しつつ勉学を終えた。向かう先は婚約者が通された応対の間。

ノックをして返事を聞いて開けた瞬間、見覚えのある包帯顔の変わりように目を見開いた。

「お久しぶりです。殿下」

「あ、ああ」

立ち上がって挨拶の礼をとるその姿は決して令嬢ではなく紳士がするものであり、それでも様になっていた。

バッサリと切られた髪、最低限の装飾をつけた青に包まれた紳士たる気品のある服。腰付近には令嬢が持つはずもない剣。装飾用の剣でないことは明らかだ。包帯顔はともかく姿格好立ち姿が完璧すぎて女には見えない。寧ろ顔が見えないからこそ余計に。生まれを間違えたのではとすら思うほどだ。7歳とは思えない気迫さえある気がしてきた。

確かに俺の婚約者と言われればレオルトがああなるのも仕方ない。俺は女嫌いを拗らせてついに婚約者まで男に限定したのかと聞いてこないだけまだよかった方だろう。いくら女嫌いでもその道に走る気はない。

「この一ヶ月、男性としての振るまいを勉強してきました」

普通なら一ヶ月やそこらで身に付くとは思えないが、女にしては覚えがいいのかもしれない。

「みたいだな……。だが、その、髪はいいのか?」

それはそれとして自分で女を捨てろと言ったものの、髪については女の命とも言えることは知っている。平民ですら短いものは見ない。目の前の婚約者の髪は見目に合わせたように整えられた髪でありながら、肩にもつかないくらいには短い。初対面のときの髪の面影と言えば白く染まった色くらいだ。

「殿下がお嫌いな女の髪なのでバッサリと坊主にしようと思ったのですが、家族と侍女、あげくには護衛、料理長から庭師など屋敷全員から止められまして」

「そ、そうか。さすがに坊主は男でも中々しないぞ」

この婚約者、覚悟を決めすぎにもほどがある。本当に女なのか疑うほどに。待機している俺の侍従すら引き気味だ。先日どうせ女は口先だけだと思っていた自分の考えを改めるべきかもしれないとすら思い始めるが、多分この女がおかしいだけだと思い直す。

「ですが、殿下は女がお嫌いでしょう」

「それはそうだが、さすがに嫌いだから坊主にしろなんて言葉は吐いたことはない」

「でも女の髪ですよ?」

「そんな細かいところまでいけば、女の手も足も血もすべて焼き尽くさないといけなくなるだろうが。女は嫌いだが、あくまで嫌いなだけで死ねとまでは言わん!」

「じゃあ、この髪は残しても?」

「それくらい構わない。寧ろ婚約者が坊主の方が目立つ。いや、今でも十分目立つが」

白い髪となにより顔に巻く包帯の存在が。

「そうですか。それで女を捨てるため、殿下にご相談があるのですが」

「なんだ……」

正直今までの令嬢とは違いすぎて女どころか色々捨てている気がするが、この婚約者からすればまだのようだ。こんなにも訳のわからない女は初めてで罵る元気もない。

「私騎士になろうと思うので7歳でも試験を受けられるよう手配は可能でしょうか?家の者たちからは合格をもらってるので」

「お前は何を目指しているんだ?」

今までの婚約者候補と来ていた令嬢たち以上にわからない。女をいくらか泣かせてきた言葉もこいつには効かないと思うのは俺だけではないだろう。包帯のせいで表情もわからず、今まで女にとってきた態度すらとれない。

もう相手にするのも疲れ、勝手にしろと許可をし、どうせ子供の戯れ言だと手配したその日。一週間後の試験で最年少の子供が騎士入団試験を最高成績で修めたと聞くはめになるとは思いもしなかった。
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