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バーン伯爵が去ってすぐ公爵様の雰囲気に恐れを感じた。怒っているとかではなく、どこか切迫詰まるような……そんな風に感じたものの、一瞬で公爵様は表情を変える。無理に貼り付けた作りもののような笑顔を。

「食事の予約もしてあるんだ。他も寄る予定だったが、先にそちらに向かおう。近くだから歩きでもすぐだ」

「は、はい」

公爵様の口は笑っていても瞳はどこか暗く、こちらを見つめて離さない強い視線がとても痛い。そのせいか大した距離ではない食事処だったというのに、距離がとても長く感じられたのはその視線に身動きがとりにくい何かを感じ取っていたせいだろう。

視線だけで人に支配される感覚とはこういうことかもしれない。それもあって普段行かない高級レストランに入る時もそこに入る緊張よりも何度も僕を見る公爵様の視線ばかりが気になって仕方なかった。

席に着けば、向かい合うため余計に公爵様が僕を見つめる視線が強くなって居た堪れない。まるで獲物を逃さないと見張られている気さえする。バーン伯爵に会うまではこんなことなかったのに。

あ、そう言えば公爵様は好意を持ったのはどんな感情であれ僕が初めてだと言っていた。なら弟のバーン伯爵にも家族としての好意はないってことなはず。なのに僕がそのことを考えず話し込んでしまったから腹を立てたのかもしれない。

「シャロン」

「は、はい」

考えをぐるぐると整理することで視線を逃げようとしていたものの、公爵様に呼びかけられることでそれは邪魔をされる。再び見つめた瞳はさっきよりもほの暗くなっているのは気のせい……だろうか?

「好きになったのが勘違いでも、私はもうシャロンを手放せない」

「え」

ああ、僕はとんでもないことに気づいてなかった。バーン伯爵との話は公爵様の目の前でしていたのだから、公爵様が勘付くような話は避けるべきだったのに……つい口が……。

バーン伯爵だって僕の言いたいことを察してくれたんだから公爵様が察しない理由はない。

公爵様は気づいてしまっている。僕が公爵様に伝えてきた好意がバーン伯爵のものだったことを。その上で逃さないと言ってくれているのだ。

「シャロンを不幸にばかりして申し訳ないし、情けないとも思う。でも恨まれようが憎まれようがもうシャロンなしでは私はおかしくなりそうなんだ」

「公爵様……」

「……食事前にこんな話をしても困るだろうに悪い。ちょっと冷静になれないみたいだ。料理も来たようだし一旦食事をしようか」

「あ……はい」

予めコース料理を頼まれていたのだろう。頼まないうちから料理が運ばれてきて会話は中断された。その時僕は料理に目が行き気づかなかった。料理と僕を見て公爵様が暗い瞳のまま一瞬怪しく微笑んでいたことに。
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