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さて、それよりもまずは二人が来るまでにリードから聞いたことを整理しないと。全然覚えてないんだけど、僕は高熱で意識不明の重体だったん……だよね?その間ずっと王城にお世話になったんだろうけど、そういえばあの謁見の日から何日くらい経ったのか聞くのを忘れた。

その日分身体も洗えてないし臭いとかはないよね?多分気持ち悪い感じはないから、身体を拭いて着替えもしてくれていたんだろう。髪も何かしてくれていたのかそこまで不快感はない。

寝る前からあんな醜態を晒したのに迷惑かけてばかりだなとは思うけど、リードが言うには国王陛下と王太子殿下は謁見の日のことも怒ってないみたいだし、そこは安心していいだろう。お二人が優しい人たちで本当よかった。

で、兄が見舞いに来たってことは事情を聞いているだろうし、心配かけたこととお見舞いのお礼を伝えるだけでいいかな?両親が今回のことで王城に入れず兄に八つ当たりしてないかくらいは確認しよう。長男である兄にはずっと優しい態度だったけど、僕のことがあると思うと心配だ。

それと……うん、事情諸々抜きにして、久々にお兄様に会えるのは単純に嬉しい。僕にとって唯一同性を好きな僕を拒否しないで、知る前と変えない態度を貫いてくれた家族だから。

「そういえば結婚はまだしてないのかな?」

手紙を処分され続けたこの三年間、もしかしたら兄から結婚報告の手紙も混ざっていた可能性もある。だからこればかりは直接聞かないとわからない。もし結婚してたら全く祝いの言葉もない最低な弟である。事情を知った兄なら怒ることはないってわかってるけど、申し訳なさは残りそうだ。

だいたい兄に対して話すことはこんな感じかな?実際会ったら全然違うことを話しちゃうかもだけど。でも今回は公爵様がいる。一緒に来ることはなくても鉢合わせる場合もありそうだ。リードに一人ずつの面会をお願いすればよかったな。

でももし三人になったその時はもう流れに身を任すしかなさそうだ。まずは公爵様にも言わないといけないこととか最低限のことは頭の中だけでもまとめておく必要がある。

言うなれば色々考えて冷静になる時間が僕にはいるんだ。謁見でのことに、覚えてない期間の寝ていると思っていた間にも色々ありすぎて結構混乱してる。寝てるんじゃなく意識不明までいってたなんて思いもしなかったし……知らず知らずの内に三途の川を渡りかけていたんだろうか、僕は。

「ちょ……ま」

「しゃ……ん!」

なんて考えていると急に扉の向こう側が騒がしくなった。何を言っているのかはわからないが、王城で声を上げて叫ぶなんてよっぽどのことでも起きたんだろうか?

でも気のせいだろうか?だんだん聞き覚えのある声が僕の部屋に近づいているような……

「シャロン!」

「公爵様!?」

「はぁ……はぁ……はや、すぎ……話……はぁ……聞け、よ……クソ、公爵……っ」

と思ったら扉をバンっと豪快に開けた公爵様が僕の名前を叫びながら現れた。その後ろには走ったのか疲れ切ったリードが公爵様に暴言を吐いている。リードは運動が苦手だから無理をすると本性が出がちだ。

「シャロン……本当に、起きて……」

「こ、公爵様?」

なんてリードに向けた視線から何やら呟くように言う公爵様に、急なことでドキドキとする胸を無視して視線を向け直すと公爵様が立ち尽くすようにそれ以上動かないままに涙を流し始めてぎょっとする。

「よかった……本当に、よかった……!」

「ふぅ……全く……。見舞いの時間を変更するようにした理由を言った途端、仕事を放り投げてシャロンの名前叫びながら走り出すんだから参ったよ」

リードの言い方的にちょうど公爵様は王城のどこかで仕事をしていたようだ。だからリードに伝言を頼んでからそこまで経ってないのに、公爵様がすぐに現れることが可能だったんだろう。まだ心の準備が何一つできてない状態な上、公爵様が泣いているし、どうしたらいいのか全然わからない。

救いはリードも同席してくれていることかな。

にしても、この様子じゃ公爵様にも随分心配をかけたようだ。そう感じるからか急なことでドキドキする以上に嬉しさでむずむずする自分がいた。だって泣くほど心配してくれていたってことは、それだけ僕を想ってくれていたんだなと実感できるから。







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