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「で、話を戻すけど、バンデージ公爵に聞きたいことがあるんだよねえ」
僕への確認が終わったリードは、再び意識を公爵様に戻した。話を戻すと言いながら質問とはリードの様子からあまりいい予感はしない。まあ現時点でいい予感のする人はいないと思うけれど。
「私が答えられることでしたらなんなりと」
なんとなく誰もが緊張した様子でリードの質問内容を待つ。現在リードが話しているのは公爵様だというのに。この緊張感はなんなのだろう?
「バンデージ公爵が結婚してから何年経ったかな?もちろん答えられるよねえ?」
「……約三年となります」
「うんうん、だいせいかーい!……そう、三年も経ってるんだよね」
質問内容は簡単なものだった。その正解の答えにリードがはしゃいだ様子を見せたかと思うと、次の瞬間、リードは笑うのをやめた。元々笑ってない目と表情がようやく一致したような感覚だ。
思わずごくりと唾を飲み込んだのは僕だけではなさそうだ。流石の公爵様も雰囲気の変わりように緊張した様子を見せる。王族としての威厳を見せられているような感覚。すでに空気は先程までとは全然違っていた。
「チャンスって言うのは簡単だよね。でもバンデージ公爵には三年間チャンスがあってその結果が今出てることを理解してないの?シャロンと離婚しなかったとして、バンデージ公爵の言うチャンスが何なのかぼくには理解できないんだよね」
「それは……」
「そのチャンスのためにまたシャロンが似たようなことで傷つくはめになったらどうするの?三年間今回のことに気づかなかったバンデージ公爵をどう信じろと?仕事に関しては信用してるけど、シャロンについては何一つ信用できる部分がないことをわかった上で言ってるならいい加減にしなよ?ぼくはシャロンみたいに優しくはないからさ」
僕は簡単に考えすぎていたようだ。思っていた以上にリードは僕を大切に想ってくれていて、本気で怒ってくれている。手紙にあった鬼になるというのはこういうことだろう。離婚したくないと言うのは本当に僕にとって正解なのか今のリードを見ていると揺らいでしまった。
公爵様への気持ちがなくなったわけではない。ただ、その気持ちだけでこれから公爵様を信じて何があっても立ち向かえるかと言われたら……わからなくなった。だって人の心は簡単に変わることを僕は知っているから。僕はほんの少しの幸せで、冷静にあろうとしながらもやっぱり期待に胸を膨らませすぎたのだろうか。
ここに来るまでに思っていたことがリードの言葉で間違っていたんじゃ……と思う時点で僕は結局……
「おっしゃる通りです。その件に関しては言い訳すらありません。それに私はこうなるまで自分の気持ちを自覚しきれなかった大馬鹿ものでもあります。しかし、自覚した今、何をしてでも妻であるシャロンを手放したくない自分がいるのです。これは私の我儘でしかないでしょう……でも今は、ただ我儘を言う以外私にはできることがないとわかった上で言っています。離婚はしたくありませんし、シャロンを幸せにしたいですし、この上なく愛でたいと」
僕の揺らぐ気持ちと違って、公爵様はリードの圧にも負けずそう言い切った。言い訳一つせず自分の気持ちを真っ直ぐに。その真剣な物言いに思わず見惚れる自分がいる。これが惚れた弱み……だろうか。親友のリードが僕のために鬼になってくれているというのに。簡単に見惚れてしまう自分に罪悪感で少し胸が痛む。
「馬鹿は馬鹿でも見る目はあったようで良かったよ。でも我儘なんて許すわけないよね。それを許せばここにいる罪人を許すようなもんでしょう?」
「リード!……殿下……っそれとこれとでは」
「シャロン、君はぼくの親友だから許すけど発言を許可するまで話してはいけないことわかるよね?」
「……はい」
あまりの言いように思わず声を上げればリードに咎められる。言いたいことはあれど、リードが言うことは最もだ。リードは貴族すらも敬う王族なのだから。不敬罪にされないだけ優しい対応だろう。これ以上は公爵様にも余計な迷惑をかけると判断して僕は黙りこくるしかない。
「まあそういうわけでぼくからチャンスをあげる気はないよ。離婚は決定事項だからね。でも、ぼくは協力する気ないけど再婚するなとは言わないよ。まあ?再婚にも王からの許可いるけどねえ?」
「……シャロンを他に渡す気はありませんので、必ず認めさせる努力をするつもりです」
「それまでにシャロンの気持ちが離れないといいねえ?当たり前だけど、離婚成立後は公爵家にいさせる気はないから。王城で部屋は既に用意させてあるし、これを特別待遇だなんだという馬鹿がいてもバンデージ公爵みたいなヘマはしないから安心するといいよ」
「それは安心ですが、やはり妻のいない生活はもう無理な身体なので、毎日でも王城に通わせていただきますね」
バチバチと二人の睨み合いに、謁見場は今日一番の緊張感に包まれる。にしても離婚は決定……でも再婚は可能だからこれからどうなるのか予想もつかない。公爵様は再婚する気でいるみたいで僕としては嬉しいけど、離婚後簡単に会えるかもわからない状況でその気持ちがいつまで続くかと思うと……。
そうやって公爵様が好きという気持ちだけで信じきれない時点で、僕と公爵様との間には当然だけど夫婦としての絆が出来上がってないことを改めて実感する。ある意味この離婚は互いを見つめ直すのにいいきっかけになるのかもしれない。
僕への確認が終わったリードは、再び意識を公爵様に戻した。話を戻すと言いながら質問とはリードの様子からあまりいい予感はしない。まあ現時点でいい予感のする人はいないと思うけれど。
「私が答えられることでしたらなんなりと」
なんとなく誰もが緊張した様子でリードの質問内容を待つ。現在リードが話しているのは公爵様だというのに。この緊張感はなんなのだろう?
「バンデージ公爵が結婚してから何年経ったかな?もちろん答えられるよねえ?」
「……約三年となります」
「うんうん、だいせいかーい!……そう、三年も経ってるんだよね」
質問内容は簡単なものだった。その正解の答えにリードがはしゃいだ様子を見せたかと思うと、次の瞬間、リードは笑うのをやめた。元々笑ってない目と表情がようやく一致したような感覚だ。
思わずごくりと唾を飲み込んだのは僕だけではなさそうだ。流石の公爵様も雰囲気の変わりように緊張した様子を見せる。王族としての威厳を見せられているような感覚。すでに空気は先程までとは全然違っていた。
「チャンスって言うのは簡単だよね。でもバンデージ公爵には三年間チャンスがあってその結果が今出てることを理解してないの?シャロンと離婚しなかったとして、バンデージ公爵の言うチャンスが何なのかぼくには理解できないんだよね」
「それは……」
「そのチャンスのためにまたシャロンが似たようなことで傷つくはめになったらどうするの?三年間今回のことに気づかなかったバンデージ公爵をどう信じろと?仕事に関しては信用してるけど、シャロンについては何一つ信用できる部分がないことをわかった上で言ってるならいい加減にしなよ?ぼくはシャロンみたいに優しくはないからさ」
僕は簡単に考えすぎていたようだ。思っていた以上にリードは僕を大切に想ってくれていて、本気で怒ってくれている。手紙にあった鬼になるというのはこういうことだろう。離婚したくないと言うのは本当に僕にとって正解なのか今のリードを見ていると揺らいでしまった。
公爵様への気持ちがなくなったわけではない。ただ、その気持ちだけでこれから公爵様を信じて何があっても立ち向かえるかと言われたら……わからなくなった。だって人の心は簡単に変わることを僕は知っているから。僕はほんの少しの幸せで、冷静にあろうとしながらもやっぱり期待に胸を膨らませすぎたのだろうか。
ここに来るまでに思っていたことがリードの言葉で間違っていたんじゃ……と思う時点で僕は結局……
「おっしゃる通りです。その件に関しては言い訳すらありません。それに私はこうなるまで自分の気持ちを自覚しきれなかった大馬鹿ものでもあります。しかし、自覚した今、何をしてでも妻であるシャロンを手放したくない自分がいるのです。これは私の我儘でしかないでしょう……でも今は、ただ我儘を言う以外私にはできることがないとわかった上で言っています。離婚はしたくありませんし、シャロンを幸せにしたいですし、この上なく愛でたいと」
僕の揺らぐ気持ちと違って、公爵様はリードの圧にも負けずそう言い切った。言い訳一つせず自分の気持ちを真っ直ぐに。その真剣な物言いに思わず見惚れる自分がいる。これが惚れた弱み……だろうか。親友のリードが僕のために鬼になってくれているというのに。簡単に見惚れてしまう自分に罪悪感で少し胸が痛む。
「馬鹿は馬鹿でも見る目はあったようで良かったよ。でも我儘なんて許すわけないよね。それを許せばここにいる罪人を許すようなもんでしょう?」
「リード!……殿下……っそれとこれとでは」
「シャロン、君はぼくの親友だから許すけど発言を許可するまで話してはいけないことわかるよね?」
「……はい」
あまりの言いように思わず声を上げればリードに咎められる。言いたいことはあれど、リードが言うことは最もだ。リードは貴族すらも敬う王族なのだから。不敬罪にされないだけ優しい対応だろう。これ以上は公爵様にも余計な迷惑をかけると判断して僕は黙りこくるしかない。
「まあそういうわけでぼくからチャンスをあげる気はないよ。離婚は決定事項だからね。でも、ぼくは協力する気ないけど再婚するなとは言わないよ。まあ?再婚にも王からの許可いるけどねえ?」
「……シャロンを他に渡す気はありませんので、必ず認めさせる努力をするつもりです」
「それまでにシャロンの気持ちが離れないといいねえ?当たり前だけど、離婚成立後は公爵家にいさせる気はないから。王城で部屋は既に用意させてあるし、これを特別待遇だなんだという馬鹿がいてもバンデージ公爵みたいなヘマはしないから安心するといいよ」
「それは安心ですが、やはり妻のいない生活はもう無理な身体なので、毎日でも王城に通わせていただきますね」
バチバチと二人の睨み合いに、謁見場は今日一番の緊張感に包まれる。にしても離婚は決定……でも再婚は可能だからこれからどうなるのか予想もつかない。公爵様は再婚する気でいるみたいで僕としては嬉しいけど、離婚後簡単に会えるかもわからない状況でその気持ちがいつまで続くかと思うと……。
そうやって公爵様が好きという気持ちだけで信じきれない時点で、僕と公爵様との間には当然だけど夫婦としての絆が出来上がってないことを改めて実感する。ある意味この離婚は互いを見つめ直すのにいいきっかけになるのかもしれない。
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