人間嫌いの公爵様との契約期間が終了したので離婚手続きをしたら夫の執着と溺愛がとんでもないことになりました

荷居人(にいと)

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なんとかもぎとった公爵様に持ちかけた契約とは、白い結婚が三年間続けば離婚する代わりに、どうしても外せない仕事以外の日は朝昼晩どれでもいいので食事を一緒にする時間が欲しいという単純なもの。

公爵様からすれば僕が媚びを売る時間がほしいみたいに思えるかもしれないが、こちらは死活問題だし、誰とも関わりたくない公爵様にとっては互いに揉めずの離婚は悲しくも魅力的な提案だったようで渋々といった感じで契約は成立した。

本当は使用人の態度をどうにかしてほしいとか他にやりようはあったと思うけど、証拠もない状態で他所から来たばかりの僕が言っても信用がないばかりか、状況が悪化する可能性もあったから、確実に食事が提供される時間を勝ち取れただけいい契約だと思う。

何より三年間好きな人と確実に過ごせる時間を得られたのだから、それだけでも幸せだ。

そうそれだけでも十分幸せだったのに、一緒に食事をする時間が増えるごとに公爵様との間に変化がで始めたのだ。それも僕にとって嬉しい変化が。

「お前はいつも何がそんなに楽しいんだ?」

「え!楽しそうに見えますか?」

「いつも食事のとき笑っているだろう」

「うーん……と、公爵様と美味しいご飯食べられるのが嬉しくて無意識に笑っちゃうのかもです」

「そんなことの何が……」

「公爵様は不快に思うかもですが、僕は公爵様が好きなので単純なことが嬉しいんです」

「……変な奴だ」

些細なことだけど、少しだけ公爵様と会話ができるようになったのだ。そのおかげで僕は自分の気持ちを伝える機会ができたことが嬉しかった。三年後には離婚なのだから、せめて後悔のないように嘘偽りのない気持ちを伝えたいと思っていたから。

好きな人に何度だって好きと伝えられることは幸せなことだと思う。例えそれが片思いだとしても。伝える度に公爵様は理解できないという表情だけど、それをただ聞き入れてくれるだけで僕は満足なのだ。

それが周りからしたら公爵様に媚びを売っているように見えてしまい使用人からの嫌がらせなどが悪化したとしても、三年という期限と公爵様との些細な時間は僕を無敵にさせた。

それに悪い使用人ばかりでもなかったから割とそこまで苦しくなかったとも言える。

「執事長にお伝えしたいんですが、仕事のできる方で唯一公爵様の信用のある方なのもあって、中々タイミングが合わず申し訳ありません」

「大丈夫ですよ!僕慣れてるんで!」

「このようなこと慣れるべきでは……!!私がメイド長としてしっかりできていれば……」

僕の現状に気づいて優しくしてくれたのはメイド長だった。なんとかしようとしてくれたものの、メイド長は執事長と違って長く勤めただけで公爵様が適当に決めた名ばかりの役職で、貴族の使用人をまとめるのに毎日翻弄されているらしい。正直僕以上に大変そうなのに優しすぎるくらいだ。目にクマができていて僕のことはいいから少しでも休んでほしいと思う。

まあメイド長の様子から執事長は信頼に置ける人なんだろうけど、公爵様の人嫌いの性質によって時間が取れずどうにもならない様子。

正直僕はそこまで参ってなかったので本当に気にしなくてよかったのだけどそれがいけなかったんだろう。契約期間残り1か月のときについに嫌がらせでは済まない事態となった。

「ここまでしてもわからないなんてこれだから身分の低いバカは!」

「……っ……」

「平凡なその顔は傷ついてもつかなくても一緒だから無傷にしてあげるよ!」

まさかの暴力行為である。しかもご丁寧に見えない場所に。しかもこれをし始めたのが使用人からではなく礼儀作法などを教えてくれるはずの家庭教師なのだから手に負えない。

あれもこれもできないのかとバカにされ続けるだけだったから油断してしまったようだ。何より最近は公爵様との関わる時間が増えてきていたので、若干浮かれていたのが顔に出ていて気に食わなかったのかもしれない。

残り期間が1か月だったのは救いだった。さすがに暴力行為まで出てしまっては、いくら公爵様との関係が緩和した今でも1年と持つ気力はなかっただろうから。

緩和と言ってもたまに一緒にできる食事時間が増えたくらいだしね。その分会話のできる時間が増えてもいるけど、それだけと言われたらそこまでだ。

僕だって人間だ。慣れていても傷つかないわけじゃない。小さな幸せで誤魔化すのも終わりがあるからできること。

「せっかくリードがチャンスをくれたのになあ」

リードとはこの国に同性婚を作るきっかけになった第二王子、僕の親友だ。身分差こそあれどその友情に嘘はないと思っている。だからこそ応援してくれる親友の気持ちに応えたかった。この三年頑張れた理由は色々あるけどそれも一つの大きな理由だ。

でもこの三年間小さな変化はあれど大きな変化はなかった。結局どれだけ好きと伝えても同性同士の恋愛はうまくいかないのだろう。公爵様を好きになったことに後悔こそしないけど、離婚が成立した日には思いっきり泣こうと決める。

この痛む身体と心の痛みどちらが大きいだろうか。そんなことを考えながら僕は離婚手続きを早めにする決心をした。これはもういい加減諦めろという神様からの啓示なのかもしれないと自分に言い聞かせて。

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