弟のために悪役になる!~ヒロインに会うまで可愛がった結果~

荷居人(にいと)

文字の大きさ
上 下
17 / 55
番外編年齢制限なし

番外編~前編・サプライズはもう考えない~

しおりを挟む
「兄上、何故黙って王宮を出たんですか?」

肩を捕まれ振り返れば、フードを被ったお忍び姿のトア。他人に見せる冷めた表情をして俺を見ている。しかし、他と違うのは、不安と怒りと恐怖と執着心で複雑に絡まる感情を宿した目。だが、トア、兄上はひとつ言いたいことがある。

それを言う前に、トアに見つかるまでの話をしよう。

トアに見つかったのは抜け出した早朝からかなり時間が経ち、気がつけば昼過ぎの時刻のこと。俺は近いトアの誕生日に、サプライズでプレゼントをするため、隣に眠るトアを置いて朝早くから王宮を抜け出した。

王命を破ることになるが、破ったところでトアが俺を処刑はしないのもわかっているし、成人してから俺に対して、依存と言う名の執着心が増しつつあるトアに、そんなことできるはずもないと思ってさえいた。

王になるまでは離れることはあったし、寧ろ離れて何年と会わなかった日々すらあった。側近に心を開きつつあるのは見てわかるから、側近に伝言を頼めば、多少は大丈夫だろうと思ったわけだ。

側近に凄く止められたが、気にしすぎだと振り切って、王の溺愛する兄と騒ぎにならないよう、トアとお揃いのフードつきマントを羽織って来たのは王都の市場。

誕生日プレゼントはお金より心のこもった物を。以前トアとお忍びで眺めに来ていた時見つけた場所だった。値段こそ平民でも払ってできるアクセサリー作り。手間をかけるのは自分だからと、手間賃がない分、どこかで下手にアクセサリーを買うよりも安くなると評判らしい。

しかし、仮にも王族、民の税もあるとはいえ、普通なら出来上がった上質なものを買うだろう。だが、愛するトアだからこそ、安物でもなんでも、手作りを渡したかった。

何時間とかけてようやく納得いくものを作ると、気がつけば人だかり。あまりに熱心に、女性に混じりアクセサリーを作る男性に興味が湧いた結果らしい。

『恋人に送るのか?こうケチると出来はいいみたいだが、よくはないんじゃないか?女は装飾品の価値にうるさいからな』

『お金がないなら少しでも出すわよ?あれだけ熱心なんだもの。余程大事な人でしょう?それでは逃げられてしまうわよ』

『なら俺も出そう。なんか応援したくなるんだよな、お前』

『兄ちゃん、これでも俺ぁ儲かってんだ!こんぐらいの金くらい持ってけや、ドロボー!』

凄い勘違いをされ、お金を差し出そうとする人たち。店主、お前が出したら俺はこのアクセサリー代の材料、誰に払えばいいかわからないだろ!

『お、俺は、できあがった誰でも持つような物より、最初から俺の愛情込めて作った、世界で唯一ひとつの物を渡したいんです!』

しーんとして、なんかスベったか?本心なんだがと、微妙に恥ずかしくなってきた瞬間、何故か拍手が沸き上がる。もう意味がわからない。

『感動した!』

『言うじゃねぇか!』

『世界でひとつだけなんて素敵だわ!』

『お金より愛、大事なものを忘れていたわね』

『く……っ兄ちゃん、その言葉はきっと世界を変えるぜ。持ってけ、ドロボー!』

なんだこれ状態。店主は俺に泥棒をしてほしくて仕方ないようだ。トアにプレゼントするアクセサリーだから普通に払いたい。絶対あんたらより俺の方がお金あるに決まっているのに、正体に気づかれたらわかるはずなのに、ここまでの人だかりでバレないし、フード被って隠れるお忍びの意味!俺が恥ずかしいだろ!?

なんてここまでの話で、どこでトアが登場するか、ここである。

忍ぶほど有名じゃねぇよと言われている気分の俺の肩を叩いたのがトアだった。それで冒頭に戻るわけだ。言いたいことはひとつ。なあ、こんな人だかりでそんな言葉言う?

「黒人たちに伝言を………」

「言葉を間違えましたね。何故、僕に、黙って、ここに、ひとりで?」

盛り上がっていた周囲がようやく気がつき始めたようだ。え?え?王様?ってな感じで。うん、トアにはすぐ気づくんだな。王様だもんな。拗ねてなどないったらない。

「今は言えないかなー……」

アクセサリーをそっとポケットに入れる。

「今、聞きたいんですが……ちょうどいい、王命を破ったんです。兄上にもたまには余裕をなくしてもらいましょう」

「えっちょっ!店主、お代!」

「いらねぇよ!」

トアに腕を捕まれ、引っ張られ、どこかに連れていかれそうになれば、投げるようにお金を店主に渡すと投げ返された。落ちるお金を拾うことも出来ず、俺らのも持ってけと投げられるお金たち。

持ってくも何も地面に落ちるお金拾う余裕ないし、お金大事にしようよ。

この国の国民大丈夫かと見ている間も、ズルズルとトアに引きずられ、それが見えなくなった俺は知らない。

この金投げ騒動が、貴族、平民、貧民と、身分を気にしないきっかけとなり、今日この日に『貧相な人にお金を投げつける』なんて言う行事ができることで、貧民はその日同情の分だけ痛い目をみるが、落ちたお金はもらえるため、生活に余裕ができ、貧民による飢え死にが減り、経済の動きがよりよくなることを。

金より愛と令嬢に囁かれ、王都の物作りが盛んになり、『世界にひとつの愛の手作り選手権』なんてものが開催されるようになることで、後に王都から他の街や村に広がり、お金でなく愛を込める手作りを客がすることで、国民にあらゆる分野が鍛えられ、自立心の強い国となり、各国から『愛の国』と呼ばれるようになることを。

気がつけば路地裏に連れて、弟に壁ドンされ、ひび割れるレンガの壁に、思った以上に怒っているトアに気づいて真っ青になる俺は知らないのだ。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

当て馬的ライバル役がメインヒーローに喰われる話

屑籠
BL
 サルヴァラ王国の公爵家に生まれたギルバート・ロードウィーグ。  彼は、物語のそう、悪役というか、小悪党のような性格をしている。  そんな彼と、彼を溺愛する、物語のヒーローみたいにキラキラ輝いている平民、アルベルト・グラーツのお話。  さらっと読めるようなそんな感じの短編です。

弟が兄離れしようとしないのですがどうすればいいですか?~本編~

荷居人(にいと)
BL
俺の家族は至って普通だと思う。ただ普通じゃないのは弟というべきか。正しくは普通じゃなくなっていったというべきか。小さい頃はそれはそれは可愛くて俺も可愛がった。実際俺は自覚あるブラコンなわけだが、それがいけなかったのだろう。弟までブラコンになってしまった。 これでは弟の将来が暗く閉ざされてしまう!と危機を感じた俺は覚悟を持って…… 「龍、そろそろ兄離れの時だ」 「………は?」 その日初めて弟が怖いと思いました。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

何も知らない人間兄は、竜弟の執愛に気付かない

てんつぶ
BL
 連峰の最も高い山の上、竜人ばかりの住む村。  その村の長である家で長男として育てられたノアだったが、肌の色や顔立ちも、体つきまで周囲とはまるで違い、華奢で儚げだ。自分はひょっとして拾われた子なのではないかと悩んでいたが、それを口に出すことすら躊躇っていた。  弟のコネハはノアを村の長にするべく奮闘しているが、ノアは竜体にもなれないし、人を癒す力しかもっていない。ひ弱な自分はその器ではないというのに、日々プレッシャーだけが重くのしかかる。  むしろ身体も大きく力も強く、雄々しく美しい弟ならば何の問題もなく長になれる。長男である自分さえいなければ……そんな感情が膨らみながらも、村から出たことのないノアは今日も一人山の麓を眺めていた。  だがある日、両親の会話を聞き、ノアは竜人ですらなく人間だった事を知ってしまう。人間の自分が長になれる訳もなく、またなって良いはずもない。周囲の竜人に人間だとバレてしまっては、家族の立場が悪くなる――そう自分に言い訳をして、ノアは村をこっそり飛び出して、人間の国へと旅立った。探さないでください、そう書置きをした、はずなのに。  人間嫌いの弟が、まさか自分を追って人間の国へ来てしまい――

ヒロイン不在の異世界ハーレム

藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。 神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。 飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。 ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

処理中です...