上 下
13 / 55
番外編年齢制限なし

番外編~誕生日(セトア視点)~

しおりを挟む
ようやく、ようやく誕生日だ。この2週間ほど兄上に会えずまた会えなくなったらとそんなはずはないのに不安で押し潰されそうだった。兄上は僕に嘘を吐かないのに。

王宮教師がいる間は学園の授業も免除、休憩は与えられても兄上に会うわけには行かず、辛い日々。それも今日で終わり。今日はちょうど学園も休みなので、兄上が僕の寮部屋へ来ると言うので待つしかない。

待つというのはいつ来てくれるかわからず怖いなとは思ったがそんな不安な間など兄上は知っていたかのように起きた瞬間から目の前ににこにこと僕を見て笑う兄上がいたので驚きを隠せなかった。床に膝をついて、ベットに腕を、その上に自分の顎を乗せ、驚く僕に兄上は楽しそうだ。

「誕生日おめでとう、トア」

「あ、ありがとう、ございます」

一番の祝いの言葉になんとかお礼を告げる。なんで兄上がここに?いつからいた?どうやって入った?と混乱して、普段優秀、天才と言われる頭が使い物にならない。

「待ちきれなくて勝手に入っちゃったよ。ごめんな?」

「あ、えっと、起きてすぐ兄上に会えたのは嬉しいから……その」

立ち上がり、頭を撫でられれば、久々で嬉しいのと照れるのとでうまく話せない。待ちきれなかったのは僕も同じだけど、兄上も同じように思ってくれていたことがくすぐったく感じる。

「朝御飯できてるよ、食べる?」

「え?朝御飯?」

普段食べる場所は食堂。なのにできているとはどういうことだろうか?

「俺が作ったんだ。初料理だから口に合わなかったら食堂へ行こう」

「え、兄上の料理?」

「んー、食べるのやっぱ嫌?」

「た、食べたい!食べたいです!」

王族どころか貴族すら料理を作るのは珍しい。お菓子作りなら令嬢で嗜む人もいるとは聞くけど、男性で、しかも王族が料理なんて初じゃないだろうか。

しかも誕生日に兄上の手作り料理。嬉しくないはずがない。朝から待つことなく兄上に会えて、兄上の料理を食べられるなんて………当日会えない間以上に、不安に感じてしまいそうだった僕がバカみたいだ。

あれ?でも朝食が用意されるくらい前から兄上が来ていたことになる。本当なんで気づかなかったんだろう?それに、寝顔も見られた……?

「トア、顔が赤いな。熱?いや、照れてる?」

「あ、兄上、いつから、いたんですか?まさか朝食作る時以外、僕の寝顔見てたわけじゃ、ないですよね?」

恥ずかしさで言葉が詰まる。質問したことで照れた意味を理解したのだろう兄上は、笑みを浮かべて僕の頬を撫でた。

「今日この日になった瞬間から」

「っ!?」

つまりは深夜0時から。兄上は昨日寝たんだろうか?というよりも、そんなに前からいたなんて気づきもしなかった。人の気配には敏感なはずなんだけど……兄上なら僕を簡単に暗殺できるな。どうせ死ぬ時がくれば兄上の手で殺されたい。うん、死にかけたその時は頼んでみよう。

「魘されてたから心配だったけど、頭撫でたら兄上ぇって幸せそうにするもんだからついつい眺めてしまったよ」

「寝言まで……っ」

もう恥ずかしさで死にそうだ。殺してもらうよう頼もうか?いや、この場合、既に兄上によって殺されるも同然だ。そんな恥ずかしくて手で顔を隠す僕をおかまいなしに抱き上げ食事の席へ座らせる。5歳離れているとはいえ、人を運ぶのは大変だろうに、僕を運ぶだけの力はあるのか、兄上が辛そうにすることなく、僕を席に座らせた後、にこにこと………いや、にやにやと僕を見る。

いつしかにやにや笑う兄上に、からかわないでと言ってみたところ、僕が可愛いと思うとついしてしまう笑いだと先日兄上に言われた。愛でてる証拠だと。

8歳……いや、今日からまだ9歳の僕だけどやはり男なので可愛いと言われても嬉しくはない。でも兄上に言われるのは嫌な気持ちにならないし、かっこいいなぁと兄上が言ってくれることもある。

兄上が言うには可愛い、かっこいいと思うのは僕だけで、それを僕が独占しているとか。可愛いは嫌だと言って他の対象に可愛いの座をとられて、兄上が他の人を可愛がるのは空想の人を八つ裂きにしたいくらいに嫌だ。だから兄上に可愛がってもらえるなら可愛いは必要。

だから僕にはにやにやする兄上に何も言えず、目の前にある朝食に目を向けた。お米のご飯以外どれも見たことがないものばかりだ。

「庶民料理だよ。味噌汁に、焼き魚、卵焼きに、ツナサラダ」

「……美味しい」

兄上の説明とともに、味噌汁と教えられたものを口にすればなんとも温かく、具も汁の味が染み込んでいるのか美味しい。とてもほっとする味だ。

焼き魚、卵焼き、ツナサラダもどれも美味しくてあっという間に完食。今思えばいつも朝はパンだったから、朝からお米というのも新鮮だった。

しかも兄上の手料理。初めてとは思えない出来で、それを一番に僕が食べられるのだから感動ものだ。

「兄上の手料理は僕だけのですよね?」

「当然。トアにしか振る舞う気はない。」

「ふふ……そっか」

可愛い、かっこいい以外に手料理も独占してしまった。何故庶民料理なのかはわからないけど、もしかしたら文化祭のとき初めての庶民料理で兄上と一緒ということもあり、テンションをあげすぎたせいかもしれない。

「で、プレゼントひとつ目。恥ずかしいんだけど、俺の絵」

「兄上の………わあぁっ」

ひとつ目という言葉にいくつかあるのかと首を傾げるも、兄上が椅子から退けば、いつの間にか棚の上に飾られた兄上の描かれた絵。兄上そっくりである。

思わずはしゃいでしまった。ひとつ目でこれって二つ目以降これ以上に喜べるだろうか?とすら思ってしまった。

兄上の絵にはしゃいで眺めている内に、兄上は食器を片付けたようで二つ目以降のプレゼントは兄上の部屋にあるらしいので着替えようかと思ったが、そのままでと言われ、寮内とはいえ、部屋の外で寝巻きはいかがなものかと思ったが、兄上が言うので従った。

兄上の部屋に入ったとたんは苦笑いしかできない。前来た時と違いたくさんの衣装が部屋を覆い尽くしているのだから。サイズが兄上より小さいので僕のプレゼントなのだろう。包装を空ける手間を減らすため、あえて広げて置いてあるようだ。床で衣装を汚さないよう、前来た時とは違う絨毯が上にひかれているようで徹底しているようだ。

そんな兄上が二つ目に渡してきたのは衣装で隠れていたテディベア、目は蒼く、撫で心地のいい毛は兄上の髪の色に似ている。さっきから兄上ばかりもらっている気分だ。テディベアは嬉しいし、兄上からの衣装も嬉しい、でも兄上の絵以上にはしゃぐほどでもなかった。

はしゃぐことはなかったんだけど………。

「テディベアはまだ完成品じゃない。三つ目はご覧の通りこの衣装全部。正直トアに着てもらって愛でたいだけ。着てくれたらなんと兄上が暇さえあればトアを離さず、甘やかします」

「………っ」

兄上の離さず甘やかすはとても魅力的だけど、まるでどこかの恋人よりも甘い雰囲気のある甘やかし方もあり、かなりの羞恥心は覚悟しなきゃいけない。でも着なければ兄上は落ち込むだろうし、開き直って着回すにも兄上に甘やかしてほしいと言う無言の訴えをしまくっていることになる。

自分から甘えるのはいいけど、兄上に用意された甘える行為はこう、なんというか、とても気恥ずかしい。兄上もわかっててしてるに違いない。でも着ない選択はない。兄上はなんだかんだ気まぐれに甘やかしてくるので、普段は僕から甘える方が格段に多いのだから、意図して甘やかしてくれるなら衣装が禁断の宝に見えて仕方ない。

本当、兄上は僕を照れさせるのも喜ばせるのもうまい。ならば、このテディベアは完成品じゃないと言うのだからさらに羞恥心を刺激するか、喜ばせる品物に早変わりするのだろう。

「着てくれるのを楽しみにしている。四つ目は香水だ」

「香水?」

香水は男女問わず貴族が嗜む人も多い。けど10も越えぬ内から使う人はあまり見ない。おしゃれに貪欲な令嬢なら幼い頃から親に頼んで使う子もいるようだけど。

「これ、俺が普段使ってる香水」

「兄上の香水………」

さすが兄上、僕が興味をそそるのをよくわかっている。とはいえ、今まで何度か聞いたことはあったが、何の香水かはわかってもどこで買ったのかまでは教えてくれなかったのだ。

何故店にこだわるかって?香水はそれぞれ店でオリジナリティを出すために似た匂いでも店によって若干違う。途中までは同じ作りでも料理で言う隠し味が店によって違うのだ。

だから、兄上の香水はどこで売っているのか知りたくて仕方なかった。僕は使わなくても常に兄上と同じ物を持ちたいから。

「さ、テディベアを完成させよう」

「え?」

シュッとテディベアに香水が振りかけられる。いつもの兄上の香水がテディベアから香る。安心する匂いだ。なるほど、匂いまで再現して完成のテディベア。これなら兄上に会えない日も多少なら我慢できそうだ。

ほしかった香水も手に入り、店もわかったので大満足だ。もう既にかなり満足なのに、兄上が何やら棚からまた小さな箱を持ち出した。これ以上何が。兄上のやることは僕を喜ばせ過ぎて心臓が持ちそうにない。

兄上からのプレゼントというだけで嬉しいのに。

「これが五つ目。左手出して」

「は、はい」

パカリと開けた箱の中には金に光り、蒼い宝石が埋め込まれた指輪があり、スッと僕の出した左手の薬指に嵌められる。あまりにもピッタリでいつ測ったんだろという疑問と共に左手の薬指にはめる意味にだんだん顔が熱くなるのを感じた。

「ちゃんと、指輪の裏側に文字も刻んである。これ、俺とお揃いだから、俺にもはめて?」

「う、うん」

輝きのある黒の中に赤い宝石が埋め込まれた指輪を渡され、兄上の左手の薬指にはめてやれば、蕩けないばかりの兄上の笑み。平凡王子とも言われる兄上のこの笑みに平凡要素なんて見当たらない。自分を愛しいとばかりに見つめる目から視線が逸らせるはずもない。

兄弟ですることではないとわかっている。でも、この沸き上がる気持ちを抑えるなんて無理だ。

「………これ以上は我慢できなくなるからな?これ、普段は首にかけるネックレスにすればいい。」

「え、が、我慢?」

何の彩りもないチェーンを渡され受けとるも、聞き捨てならない言葉。思わず想像しかけてシャットアウトした。でも兄上なら抱かれるのも抱くのも……いやいやいや。

「優秀すぎると意味もすぐ理解しちゃうから大変だな。5年分の誕生日プレゼントは喜んでもらえたみたいだし、肝心の9歳のプレゼントで最後」

「あにう………ん!?」

ちゅっと僕と兄上の唇が重なり、驚きで目を見開いてしまった。兄上も目を閉じることなくこちらを見つめ、赤くなった顔がさらに熱くなるのを感じた。

「喜んでもらえた?」

「あ………え、あ、う」

『足りないかな?』と声にならない僕をいいことに、唇どころか顔中にキスされて、その日一日赤くなった顔が冷めない、忘れられない誕生日になったのは言うまでもない。
しおりを挟む
感想 51

あなたにおすすめの小説

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

弟勇者と保護した魔王に狙われているので家出します。

あじ/Jio
BL
父親に殴られた時、俺は前世を思い出した。 だが、前世を思い出したところで、俺が腹違いの弟を嫌うことに変わりはない。 よくある漫画や小説のように、断罪されるのを回避するために、弟と仲良くする気は毛頭なかった。 弟は600年の眠りから醒めた魔王を退治する英雄だ。 そして俺は、そんな弟に嫉妬して何かと邪魔をしようとするモブ悪役。 どうせ互いに相容れない存在だと、大嫌いな弟から離れて辺境の地で過ごしていた幼少期。 俺は眠りから醒めたばかりの魔王を見つけた。 そして時が過ぎた今、なぜか弟と魔王に執着されてケツ穴を狙われている。 ◎1話完結型になります

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

弟が兄離れしようとしないのですがどうすればいいですか?~本編~

荷居人(にいと)
BL
俺の家族は至って普通だと思う。ただ普通じゃないのは弟というべきか。正しくは普通じゃなくなっていったというべきか。小さい頃はそれはそれは可愛くて俺も可愛がった。実際俺は自覚あるブラコンなわけだが、それがいけなかったのだろう。弟までブラコンになってしまった。 これでは弟の将来が暗く閉ざされてしまう!と危機を感じた俺は覚悟を持って…… 「龍、そろそろ兄離れの時だ」 「………は?」 その日初めて弟が怖いと思いました。

ある日、人気俳優の弟になりました。

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

ある日、人気俳優の弟になりました。2

樹 ゆき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。穏やかで真面目で王子様のような人……と噂の直柾は「俺の命は、君のものだよ」と蕩けるような笑顔で言い出し、大学の先輩である隆晴も優斗を好きだと言い出して……。 平凡に生きたい(のに無理だった)19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の、更に溺愛生活が始まる――。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

推しの完璧超人お兄様になっちゃった

紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。 そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。 ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。 そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。

処理中です...