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「こう言ってはなんですが、ラフィエル様には可能性がないかと思い選ばせていただいたのです」

「可能性……?」

「過去の社交界での事件は通常のΩではありえない出来事。もしかすると坊っちゃまがα性として制御し得ない存在なら、同じくラフィエル様もΩとして同じような存在なのではと旦那様は考えておりまして」

同じ存在同士なら近づいて失神というのもないかもしれないという可能性があると考えているのか。多少第二性別での苦労に親近感はあれど確約はできない。僕はあくまで特殊なΩというだけだから。

でもこんな僕がその人の役に立てたなら、厄介者以外の立場になれることだろう。だから挑戦はしたいとは思う。どうせ婚約からは逃げられないのだから。

そんなことを思う僕が、この後一気にこの婚約に対しての考えが好転するとは夢にも思わなかった。

「おや、説明の途中でしたが着いたようですね。大事なことはお伝えさせていただいたので、また必要なことがあればその都度お話させていただきます。では、今回は私めがエスコートを」

「あ、ありがとう」

それはもう馬車を開けた瞬間から決まっていたことのように、全身を包むような香り。その原因はこの人だとすぐわかるほどにエスコートしようとしてくれたキュウジンから視線を離してその人が目に止まった。

ああ、見つけた。

そう思えた。

互いに目が離せないのがわかる。こんな気持ちは初めてだった。歩いてなんていられないと、僕はキュウジンを無視して馬車を飛び出して、その人へと抱きついた。

「僕のパパになってください!」

そう言わずにはいられなかった。だってこんなにも一緒にいたいとこう抱きついただけでこの安心感……僕の理想とした父そのものだと思ったから。ぽっちゃりで目元は隈のせいか睨むような怖い赤い瞳の目つきなのにかっこよくしか見えないし、黒髪はただただ煌めいて見えて、その雰囲気を浴びるだけで守られている気分になる。

嗅いだことのない香りはこの人の体臭なんだろうか?その匂いだけでよく眠れそうだし、負の感情を全て消し去ってくれている気さえした。

「申し訳ございません!レイム坊っちゃま!その方は新しい婚約者様ですのでどうかお怒りにならず……」

「キュウジン、俺に子供はいないがこれは父性……なのか?婚約者らしいが、この子は私を父にと望んだぞ?」

「あ、え?いや、あの契約では養子ではなく婚約ですが」

声すらも心地いい。キュウジンが驚いてるような声で話してるけど、そんなことも気にならないくらいに、この人の傍を離れ難いし、いきなりパパになってと抱きついた僕に対して、拒否せず自然と背中に腕を回してくれて嬉しくて仕方がない。受け入れてくれているのがそれだけでわかる。

「そうか。まあ婚約でも養子でも一緒にいるのに変わりはない。君には父がいないのか?」

やっと僕に話しかけてくれたと僕は嬉しくなり、顔をあげる。抱きついた時に思ったけれど、理想のパパは身長も高い。僕の頭が胸辺りなのだから。まあ僕自身身長は高くないけれど。これはΩ性だと低身長はよくあることではあるみたいだ。

「いるけど、あれは偽物なんだよ。僕の理想のパパじゃないからいらないの」

初対面なのは理解してるのについつい甘えた声になってしまうのはやっぱり理想の父相手だからだろう。

「その理想のパパがこの醜い私なのか?」

だからこそパパが自分で自分を醜いと言う言葉に僕は怒りが湧いた。例えそれが本心でも許せないものは許せない。

「パパは醜くなんてないよ!僕、パパが誰よりもかっこいいと思ったもん!」

「そうかそうか。この俺がかっこいいか。それにもうパパ呼びか?確か年は10離れているが10歳の時の子供とは随分と俺は盛んなようだ」

「パパになってくれないの……?」

「婚約者の願いだ。パパにもなってやる。それにしても不思議だな……君といると気持ちが安らぐし、甘やかしたくて仕方がない。こんな気持ちは初めてだ。まさかこの年で急に父性が芽生えるとは……」

「えへへ……僕にやっと本当のパパができたあ」

一瞬不安になったけど、すぐパパはパパになってくれると承諾してくれて天にも昇る気持ちになったのは言うまでもない。にしてもさっきパパは婚約者の願いって言った?

「パパが僕の婚約者なの?」

「パパはよくても婚約者は嫌か?」

「ううん!婚約者なら誰にもパパをとられないね!」

初めて偽物の父に感謝した。こんな出会いが待っていたなんて思いもしなかったから。ずっといなくならない理想のパパを僕は手に入れたんだ。

「そうだな、婚約者なら息子を嫁に出さなくてもいい。まさか父性が芽生える日が来るとは。……今なら寝れそうだ。ラフィエルという名前だったな?ラフィと呼んでも?」

「うん!いいよ!」

「この公爵家ではパパでもいいが外ではレイと呼んでくれ。すまないな」

「ううん、パパになってくれたのが大事だからいいよ。レイ……、パパ……レイってパパの愛称?」

「ああ、ラフィにはそう呼んで欲しいと思ったんだ。ラフィもう少し話したいんだが、ラフィと会ってから急に眠たくて仕方ない。少し寝るのに付き合ってもらってもいいか?」

「あ、パパ不眠症って聞いたよ!寝てるなら寝よう!僕パパの傍にいたい!」

「ありがとう」

「わあっ!」

お礼と一緒にパパは軽々と僕を抱き上げた。ぽっちゃり体型からは信じられないくらいに力持ちみたいだ。益々理想的なパパだと思ったし、パパにしてもらいたいことの一つだったから感動してしまう。抱っこなんて初めてだ!

「レイム坊っちゃま、ラフィエル様を連れてどこへ……」

「寝室だ。心配はいらない寝るだけだ。初めて眠いと感じたんだ」

「坊っちゃま自らお眠りに!ああ、ラフィエル様は坊っちゃまにとっての救世主だったのですね!」

何やらキュウジンが興奮した物言いだったけど、パパは気にもせずさっさと歩き出してしまった。よっぽど眠たいのだろう。でも僕もパパに抱っこされてなんだか眠くなってきてしまった。まだ昼にもなってないのに眠いのはパパという存在への興奮とこのとてつもない安心感のせいだろう。

不思議とパパはずっと探し求めていた宝物を見つけ出した気分なのだ。パパの様子からもしかしたらパパも同じなのかもしれないと思うのはあまりにも都合がよすぎるだろうか?




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