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その後、説明は終わったとばかりに父が部屋を出てすぐに使用人たちが部屋に入ってきて、僕の肌の手入れや着替えを念入りにし始めた。この一週間ほどでもここまではされなかったので、考えるまでもなく今日その婚約者と対面する日なのだろう。
今日知らされたばかりで今日会わせるなんてあまりにも杜撰だけど、あの父が簡潔とはいえ説明に応じてくれただけでも今までを思えばいい方だ。どうせ逆らえないのだから文句も言えない。
ただただ不安だけが大きくなる中で、僕はただ人形のようにされるがまま。相手がαということがわかった今、番にされることも考えると、下手をすれば番解消されてΩである僕は一生そのαの人が死ぬまで発情期に悩まされる可能性がある。通常なら、番にされた時点で番になったαにしか発情しなくなるΩは、αに番解消されることで身体的精神的ダメージにより発情期を抑えられなくなり、番解消されようとそのαが生きている限りその発情を止められるのはそのαのみのため、他の方法は強力な抑制剤を飲むこと。
しかしそれが特殊な僕の場合その発情が今までの発情期と変わらないとなると常に周りを狂わせる兵器みたいなのに早変わりだ。しかも僕はそれを抑えられないかと一度事件になった時飲むよう言われて飲んだが、抑制効果はないに等しかった。
番になることで通常のΩと同じになるならいいけど、今のままなら下手すれば番のαすら狂わせる可能性だってあるわけで、それが公爵家の人物なら過去の事件以上のことになりえない。少し考えれば僕にだってわかること。いくらお金や地位に目が眩んだと言っても、それが破滅の一歩になるかもしれないと考えたりしなかったのだろうか?
いや……考えたところでたかが子爵家が公爵家に逆らえるはずもなかった。それこそ考えなくてもわかるのに僕はよっぽど混乱しているみたいだ。
そうして考え込んでいるうちに準備は済んだようで、同時に公爵家からの迎えも来ていたらしい。しかし、馬車は一台ではなく、何故か既に荷物が乗った荷台まで用意されていた。
「これから公爵家に住むための準備はしておいた。足りないものは公爵家が用意してくれるそうだから安心するがいい」
「え」
婚約と聞いていたからしばらくはまだこの子爵家に戻ってくるものと思っていた。なのに今日は子爵家を完全に出ていくことになっていたようだ。婚約者すら見つからない相手だからこそ逃さないようにするためだったりするのだろうか?きっと僕を厄介者として見ている父からしたらどうぞどうぞと簡単に了承したことだろう。
どちらにしてもどこへ行こうと僕に居場所がないのは一緒だと思えばもう無駄に考えるのも意味はないと、公爵家の遣いの方に案内されるまま馬車に乗り込む。婚約者となる人は屋敷で待っているとのこと。
初の対面の迎えにも来ない相手に考えないようにしても、より一層不安がまた膨れる。こんな厄介な僕相手に、最初すら優しくしてもらえるわけもないのに。
公爵家に着くまでの間、使用人男女の二人が同席して簡単な説明をしてくれることとなった。その配慮をしてくれたのは、父と僕の様子から僕が状況をよく理解していないと察してくれたのは言うまでもない。公爵家の使用人ともなるとΩの男の僕にですら気遣いをかけてくれるみたいだ。
「まずは簡単に自己紹介ですが、私めはキュウジン・モートム、隣のメイドがメリー・サンです。気軽にキュウジン、メリーとお呼びください」
「えっとキュウジンさんとメリーさん……よろしくお願いします」
「使用人ですからさん付けはいりませんよ。さて、どこまで説明をされているかわからないので最初からご説明致しますね」
そのまま説明に応じてくれたのは、使用人の中でも上の立場なのが見てとれ、執事服の似合うダンディな少々年配のキュウジン・モートムと名乗ったキュウジン。
「お願いします」
どこまで説明されたかと聞かれたら、何と言っていいのかわからないくらい簡潔だったため、最初から説明すると言ってくれたことに心底安心した。まあ言わずとも何も知らない状態だとそれこそ察せられたのかもだけど。
「まず今回ラフィエル・ウラン様のお相手は公爵家の長男であり後継ぎのレイム・ラグナード様です。レイム坊っちゃまは希少なα性をお持ちですが、ラフィエル・ウラン様のように常人とは違う部分がございまして、出来損ないとは噂されてはいますが、実際公爵としての仕事は問題なくできる方なのです。ただ原因不明の不眠症と生活習慣に問題がありまして、それを正そうにもお坊ちゃまはいくら成長しても情緒不安定な部分も治らず、誰もが匙を投げ、不名誉な噂が流れる始末でして……」
αとしての才能は間違いなくあるのに、αらしからぬ不健康な部分や情緒不安定なところが、あの父すらも断言するほどにできそこないαとして事実のように広がったのか。
公爵家に仕える人がその噂をそのまま僕に伝えるくらいだから有名な噂ではあるようだ。当然ながら、僕が過去起こした人を狂わせる発情期のフェロモンに関しても調べているのが伺える。そんな僕を婚約者に選んだくらいだから本当に切羽詰まっているのだろう。公爵家の後継ぎ相手なら当たり前かもしれないけど。
それはどうしようもないこととして、気になる点は情緒不安定と予め説明されたこと。それは初対面ですら隠し通すのが難しいからこそ注意しろということなのか、もしくは何をされても我慢しろということなのかもしれない。
父以上に酷い人は想像できないけれど、よっぽど酷い状態なのだろうか?こればかりは対面しないことには想像もできない。
今日知らされたばかりで今日会わせるなんてあまりにも杜撰だけど、あの父が簡潔とはいえ説明に応じてくれただけでも今までを思えばいい方だ。どうせ逆らえないのだから文句も言えない。
ただただ不安だけが大きくなる中で、僕はただ人形のようにされるがまま。相手がαということがわかった今、番にされることも考えると、下手をすれば番解消されてΩである僕は一生そのαの人が死ぬまで発情期に悩まされる可能性がある。通常なら、番にされた時点で番になったαにしか発情しなくなるΩは、αに番解消されることで身体的精神的ダメージにより発情期を抑えられなくなり、番解消されようとそのαが生きている限りその発情を止められるのはそのαのみのため、他の方法は強力な抑制剤を飲むこと。
しかしそれが特殊な僕の場合その発情が今までの発情期と変わらないとなると常に周りを狂わせる兵器みたいなのに早変わりだ。しかも僕はそれを抑えられないかと一度事件になった時飲むよう言われて飲んだが、抑制効果はないに等しかった。
番になることで通常のΩと同じになるならいいけど、今のままなら下手すれば番のαすら狂わせる可能性だってあるわけで、それが公爵家の人物なら過去の事件以上のことになりえない。少し考えれば僕にだってわかること。いくらお金や地位に目が眩んだと言っても、それが破滅の一歩になるかもしれないと考えたりしなかったのだろうか?
いや……考えたところでたかが子爵家が公爵家に逆らえるはずもなかった。それこそ考えなくてもわかるのに僕はよっぽど混乱しているみたいだ。
そうして考え込んでいるうちに準備は済んだようで、同時に公爵家からの迎えも来ていたらしい。しかし、馬車は一台ではなく、何故か既に荷物が乗った荷台まで用意されていた。
「これから公爵家に住むための準備はしておいた。足りないものは公爵家が用意してくれるそうだから安心するがいい」
「え」
婚約と聞いていたからしばらくはまだこの子爵家に戻ってくるものと思っていた。なのに今日は子爵家を完全に出ていくことになっていたようだ。婚約者すら見つからない相手だからこそ逃さないようにするためだったりするのだろうか?きっと僕を厄介者として見ている父からしたらどうぞどうぞと簡単に了承したことだろう。
どちらにしてもどこへ行こうと僕に居場所がないのは一緒だと思えばもう無駄に考えるのも意味はないと、公爵家の遣いの方に案内されるまま馬車に乗り込む。婚約者となる人は屋敷で待っているとのこと。
初の対面の迎えにも来ない相手に考えないようにしても、より一層不安がまた膨れる。こんな厄介な僕相手に、最初すら優しくしてもらえるわけもないのに。
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「えっとキュウジンさんとメリーさん……よろしくお願いします」
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そのまま説明に応じてくれたのは、使用人の中でも上の立場なのが見てとれ、執事服の似合うダンディな少々年配のキュウジン・モートムと名乗ったキュウジン。
「お願いします」
どこまで説明されたかと聞かれたら、何と言っていいのかわからないくらい簡潔だったため、最初から説明すると言ってくれたことに心底安心した。まあ言わずとも何も知らない状態だとそれこそ察せられたのかもだけど。
「まず今回ラフィエル・ウラン様のお相手は公爵家の長男であり後継ぎのレイム・ラグナード様です。レイム坊っちゃまは希少なα性をお持ちですが、ラフィエル・ウラン様のように常人とは違う部分がございまして、出来損ないとは噂されてはいますが、実際公爵としての仕事は問題なくできる方なのです。ただ原因不明の不眠症と生活習慣に問題がありまして、それを正そうにもお坊ちゃまはいくら成長しても情緒不安定な部分も治らず、誰もが匙を投げ、不名誉な噂が流れる始末でして……」
αとしての才能は間違いなくあるのに、αらしからぬ不健康な部分や情緒不安定なところが、あの父すらも断言するほどにできそこないαとして事実のように広がったのか。
公爵家に仕える人がその噂をそのまま僕に伝えるくらいだから有名な噂ではあるようだ。当然ながら、僕が過去起こした人を狂わせる発情期のフェロモンに関しても調べているのが伺える。そんな僕を婚約者に選んだくらいだから本当に切羽詰まっているのだろう。公爵家の後継ぎ相手なら当たり前かもしれないけど。
それはどうしようもないこととして、気になる点は情緒不安定と予め説明されたこと。それは初対面ですら隠し通すのが難しいからこそ注意しろということなのか、もしくは何をされても我慢しろということなのかもしれない。
父以上に酷い人は想像できないけれど、よっぽど酷い状態なのだろうか?こればかりは対面しないことには想像もできない。
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