上 下
3 / 3

3

しおりを挟む
「それは兄上、ビアンカに失礼です!」

よく言ってくれたわ、スーデン殿下!でもあながち間違いではないからなんとも言い切れないわね……

「時にスーデン。人間に完璧な存在はいないんだよ?ビアンカ嬢は優秀ではあっても完璧ではないんだ。それは私も同じ。人には必ずしも向き不向きがありビアンカ嬢の場合未来の王妃には不向きだと私は思う。上手くはやるだろうけどね」

この王太子殿のすごいところは人の本質を見抜くことにあるだろう。確かに私も王妃というはできてもそれだけだ。王妃という存在には不向きだろう。王太子妃の代わり務めくらいならともかく。よくて側室かしらね。

「ビアンカの優秀さを認めながら何故ですか?」

これに関して周りも気になるのか王太子殿下の言動を気にする様子が窺える。私と関わる人ならなんとなくわかる方もいそうだけれど。

「ビアンカ嬢は国に無関心だからだよ。無関心という言い方は悪いかもしれないけど、彼女は貴族の義務には忠実であり、模範とも言える。けれどそれは、貴族に生まれたからこそ与えられる対価を返すためにしていること。その精神は素晴らしいことだけれど、彼女にとってそれは自分のためであり国のためではない。言い方は悪いけれど、対価がなくなった時それでも国を大切にできるかと言われれば恐らくビアンカ嬢はいっそ平民となって国を出る覚悟もある。王妃とは最後の時まで国を王と共に守っていく存在でなければならないんだ。だからこそビアンカ嬢を未来の王妃に選ぶには相応しくないんだよ。将来の王妃や未来の私の子供の指南役には彼女が適任だけどね」

王太子殿下はよくわかってると思う。私はこの貴族の生活がどれほど恵まれているかわかっているからその生活を失わないように貴族の義務として努力を怠ることはなかった。でもそれは恵まれているからこそであって、それが自分の責任で生活の質を落とすなら改善の努めるだろうけど、そうでないなら平民になってでも貴族という身分を躊躇いなく捨てる自信がある。

それでも私は薄情にはなりきれそうにはないと今は思う。だって……

「王太子殿下の言葉を否定はできません。ですがスーデン殿下、私多分貴方を見捨てられそうにはありませんの」

「ビアンカ……?」

「これでも殿下との結婚楽しみにしてるんですよ?なのに王太子殿下と結婚させようとするなんてあんまりですわ」

「そ、それって」

「私は国を捨てれてもスーデン殿下は捨てられそうにないので、結果的にスーデン殿下となら王妃の資質を得られそうですわね」

「おやおや可愛い弟と私は争いたくないんだがね」

「冗談に決まってますでしょう?スーデン殿下と一緒ならまあ、この国に何があっても力になってあげてもいいということですわ」

「それは随分頼もしいね」

王太子殿下が揶揄うものだからつい不敬きまわりない上目線な言い方になってしまったけど、怒らせた様子はない。まあ意地悪なとこはあれど基本的にこの王太子殿下は寛容だからこそ私も嫌いにはなりきれないのだ。

「び、ビアンカ!俺、兄上みたいにかっこよくないし、ダメなところばっかだけどそれでも俺でいい、のか?」

「スーデン殿下、貴方様はもう少し自分に自信をもってください。私は王太子殿下より貴方様の方を素敵に思ってるのだから」

他人ばかり褒めて自分には厳しすぎる困った私の未来の旦那様だけど

「お、俺もビアンカがすっごく好きだ!」

こうも顔でも言葉でも素直に伝えてくれる好意に私は思った以上に絆されていたようだと今更ながらに気づいた。王太子殿下に私が未来の王妃に相応しくないと言われてほっとしている自分がいたことを自覚して。

「私も愛していますよ」

「び……!!!!!????」

「「「「きゃあああああ」」」」

私の言葉に興奮して名前を呼ぼうとしたスーデン殿下に、はしたなくも私から口付けて言葉を止めた。周りの黄色い歓声からしてまあ許されるでしょう。

唇を離せば顔を真っ赤にしたスーデン殿下。

「あわ……き、きす、ビアン、カと…………っ」

「おっと……全く弟をいじめて楽しいかい?」

思った以上に興奮しきってしまった純情なスーデン殿下は気絶したようで、倒れかけたところを王太子殿下が受け止めた。やれやれといった表情だが王太子殿下もまだまだのよう。

「にやけを隠してから言ってくださいな。私の未来の旦那様は可愛いも備えてるので気持ちはわかりますけど」

「私もポーカーフェイスを鍛える必要があるね。弟の可愛さの前だと中々に難しいんだこれが」

「存じております」

少しブラコン気味な未来の義兄には苦労しそうだけど、婚約破棄の心配?もなくなってめでたしめでたしといったところかしら?

とりあえず今日からは未来の旦那様に私に慣れてもらうよう頑張りますわ。これでは初夜の一つや二つも難しそうですから……ね?

END


















あとがき
久々の新作。AndroidからiPhoneに変えたため割と打ちミスが多く練習させていただきました。

定番の婚約破棄ものシリーズでしたがお楽しみいただけたでしょうか?

ドクターストップ(精神的なもの)により休職してから少しずつ回復して外出も増やすように励んでます。小説を書く気力が出たのは自分でも嬉しい変化です。

ここまで読んでくれてありがとうございました。
しおりを挟む
感想 1

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

mios
2023.07.15 mios

わあ!新作!荷居人様の作品大好きなのでまた読めて嬉しいです!可愛いお話でほっこりしました。

荷居人(にいと)
2023.07.17 荷居人(にいと)

ずっと書いてなかったにも関わらず覚えていてくださってありがとうございます(T . T)

解除

あなたにおすすめの小説

毒舌王甥殿下は全方位殲滅機能をお持ちのようです

ルーシャオ
恋愛
舞踏会で政変起きちゃったけど婚約破棄ついでにお願いしてきてくれる?と頼む貴族令嬢のお話。

悪役令嬢は断罪イベントをエンジョイしたい

真咲
恋愛
悪役令嬢、クラリスは断罪イベント中に前世の記憶を得る。 そして、クラリスのとった行動は……。 断罪イベントをエンジョイしたい悪役令嬢に振り回されるヒロインとヒーロー。 ……なんかすみません。 カオスなコメディを書きたくなって……。 さくっと読める(ハズ!)短い話なので、あー暇だし読んでやろっかなーっていう優しい方用ですです(* >ω<)

悪役令嬢に仕立て上げられた彼女は精霊の愛し子だってお話

下菊みこと
恋愛
精霊が愛し子のためにわちゃわちゃするお話。 小説家になろう様でも投稿しています。

お約束の異世界転生。計画通りに婚約破棄されたので去ります──って、なぜ付いてくる!?

リオール
恋愛
ご都合主義設定。細かい事を気にしない方向けのお話です。 5話完結。 念押ししときますが、細かい事は気にしないで下さい。

急に婚約破棄だと騒がれたけど問題なしです。みんな大歓迎!

うめまつ
恋愛
パーティー会場でワガママ王子が婚約破棄宣言した。誰も困らない!

慈悲深い天使のテーゼ~侯爵令嬢は我が道を征くつもりだ

あとさん♪
恋愛
王太子の婚約者候補に名を連ねながら、政権争いに敗れ、正式任命されなかった侯爵令嬢パトリシア。 彼女には辺境伯家との縁組が命じられた。辺境伯は毛むくじゃらの天をつくような大男で、粗野で野蛮人だと王都では噂されている。さらに独立して敵国に寝返るかもしれないと噂される辺境伯家に嫁いだら、いったいどうなるの? いいえ、今まで被り慣れた巨大な猫を、この際、盛大に開放させましょう。 わたくしは過去の自分を捨て、本来のわたくしに戻り、思うまま生きてやります! 設定はゆるんゆるん。なんちゃって異世界。 令嬢視点と辺境伯視点の2話構成。 『小話』は、2人のその後。主に新婚さんの甘々な日常。 小説家になろうにも掲載しております。

婚約破棄された悪役令嬢~改心して求婚してきたけど許しません!~

六角
恋愛
エリザベスは、自分が読んだ乙女ゲームの世界に転生したことに気づく。彼女は悪役令嬢として、皇太子レオンハルトと婚約していたが、聖女アリシアに惹かれたレオンハルトに婚約破棄を宣言される。エリザベスはショックを受けるが、自分の過ちを反省し、新しい人生を始めようと決意する。一方、レオンハルトはアリシアとの結婚後に彼女の本性を知り、後悔する。彼はエリザベスに謝罪しようとするが、彼女はすでに別の男性と幸せそうに暮らしていた。レオンハルトはエリザベスを忘れられなくなり、彼女の心を取り戻すために奮闘する。

とっても短い婚約破棄

桧山 紗綺
恋愛
久しぶりに学園の門を潜ったらいきなり婚約破棄を切り出された。 「そもそも婚約ってなんのこと?」 ***タイトル通りとても短いです。 ※「小説を読もう」に載せていたものをこちらでも投稿始めました。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。