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エリーゼが泣いたあの日から私は一気に動き出した。王太子としての権力を存分に使い噂を広めたもの、噂の出所を徹底的に追い詰めるために。手早くするため父に将来の王太子妃に関してのこととして許可をもらい王家の影まで使った。

正直エリーゼ以外どうでもいい私は、私が調べて直接動くことによって、エリーゼを泣かせる原因になったものたちがただでは済まなくなることを理解している。しかし、どうなろうと知ったことではないし当然の報いだとすら思う。直接手を出さなくとも言葉は立派な刃なのだから。刃を向ける者に刃を向けようと文句を言われる筋合いはない。とはいえ、その者たちに私が何をするかはエリーゼに知られたくないとは思う。

そう思う自分が不思議な感じではあるけど悪い気分ではない。正直、エリーゼには笑っていてほしいとそう思う私がいるから。

私のなどエリーゼ知らなくていい。

「まあ予想はついてた人物はいたけど……」

「リューシルさまあ!助けに来てくださったんですか!?」

今私の目の前にいるのは薄汚い牢屋に入ったあの男爵令嬢バカ女と他三人。でも男爵令嬢以外の他も私が見知った人物たちではあった。にしてもなぜこの女は私が助けに来たと勘違いしているのか謎だ。しかも他三人もほっとした様子からしてまるで私が味方だと言わんばかり。

私を不快にさせてる自覚はあるんだろうか?まあ、表情を見る限り自覚はしてないのだろう。だからこそバカなことしかしない。

「うーん、なんで君たちをそこに入れた人物が君たちを助ける必要があるのかな?」

「え?」

「で、殿下?何のご冗談を……」

まずは現実を教えてあげる必要がありそうだ。さっさと処理をしてエリーゼに会いに行きたいけれど、楽に死なれてはエリーゼの涙が安く思われそうで不快だ。私刑と言えばそれまでだけれど、ここは王家の管理を離れた特別な犯罪者のための牢屋。暗黙の場所とはされているが、貴族なら知らないものはいない。ここで死んだ者は国の法では裁けない大きな罪を犯したものだが国家機密として理由を秘匿にしたい場合に使われる場所だ。

都合の悪いことにも使えてしまうのは難点だが、時に必要悪というものもあるから知ってるもので異を唱える人は今までにいない。

今回ここを選んだのは相手が学生という理由含め、その問題がある相手の中にがいるからだ。まさかこんな近くにバカに唆された人物たちがこんなにいるなんてね。

まあそもそも今回はエリーゼ以外に興味を持とうとしなかった私にも反省点はあるだろう。この三人に限らず側近はエリーゼを気に入っている様子がないからこそ選んだのもあったんだけど、こんな程度の低いバカを好むなんて理解しがたい。

気になった点はあったけれど、私の側近であり、忠誠心はあったようだから信用はしていたつもりだったんだけど、忠誠心があるからと信用できないこともあるのだと今回は勉強になったよ。ショックはないけど。

とりあえず驚いた様子の女はともかく、真っ青な様子の三人で冗談と声をあげた男は軍隊長の息子イヴァール・ダケエだ。脳筋で書類仕事には向かないが、剣の腕はあったから将来最も近い護衛として考えていた男だが、これではそれすらも使えないただの脳筋男に成り下がったと自分から証明したようなもの。

護衛対象を裏切るような真似をしてどうなるかすらもわからないようでは安心して護衛なんてさせられるはずもない。

「私が冗談を言うと思ってるのか?」

「殿下、何か誤解があるようです」

冗談のはずがないと暗に言えばそれに突っかかったのは宰相の息子ムリイ・ガアール。頭もよく宰相も自分の後継ぎとして私を支えることでしょうとよく自慢しているだけに、頭のよさは確かに側近の中では一番だった。

今回はその頭のよさをエリーゼの悪い噂を広げることに使われたようだが。エリーゼの耳に届くほどの噂が広まった原因はこれが一番の理由だろうから、簡単に死なせるには惜しいとすら思う。この真っ青になりながらも自分は間違ってないという表情は私を苛立たせるためにしているのだろうか?と思うほどに。

「誤解?それは君たちだろう??」

「こ、これは殿下のためにしたことなんです!!!」

次々とうるさい蝿みたいだと思いつつも最後に声をあげたのは文官長の息子ヨワー・スウギン。体力のなさは問題点ではあったが、書類まとめなど整理や雑用細かい部分では器用な男で、正直弱気な部分が全面的に出て一番疑いがなかった人物だった。

聞いた時根は真面目な印象もあり、一番意外だったものの自分に自信がない故に誘惑されやすかったのかもしれないと納得した。それでもこれはないだろうとは思うが。

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