嫌われ悪役令嬢と人形王子

荷居人(にいと)

文字の大きさ
上 下
1 / 8

1

しおりを挟む
生まれたときから私は異質だったらしい。泣き声ひとつあげずに生まれた私に、最初こそ第一王子は何か病気でも?と周囲は心配したそうだが、異常なしと判断され安心したのも束の間。

成長するに辺り、泣くどころか笑わず、言葉遣いも大人の真似をし、勉強の理解も早すぎた私は神童を通り越し、恐れられた。

しかし、子供時代、感情が欠落していたせいか人の感情に疎く、それに気づかなかった私は、ある日母が父に泣きついているのを盗み見見た。たまたま聞いてしまっただけではあるが。

「陛下、私はあの子が恐ろしいのです。あまりにも子供らしさひとつないあの子が」

「しかし、王太子としてはこれ以上ない逸材。もう少し勉強すれば私の職務さえ任せられそうなほどだ」

「まだ学園にも通えない年齢ですよ?あまりにも落ち着きすぎて自分の子供に思えないときがあるのです………。あの子はまるで感情がありません。考えを読まれないのはいいにしても、あまりに無機質すぎます。国の王とは人の気持ちを理解することも大切です。けれどリューシル王子は………」

リューシル、それは間違いなく私の名。母にそんな風に思われていたとは思わなかったが、聞いてしまったからと言って特に何も感じはしなかった。

どう思われようとどうでもよく感じていたくらいに。

「殿下………その」

しかし、一緒に護衛としてついていた大人は気を遣うように困った顔をしていた。私が気にしていないのに、他人が気にするとは変なものだ。と不思議に思いながらも、父に用があったので気にせずノックをする。

「誰だ?今は少し……」

「陛下、リューシルです」

「あ、ああ、リューシルか。入りなさい」

気まずそうに、どこか緊張した様子で私を迎え入れた父と母。私はそれをなんとなく理解しながらも気にせず必要な報告をした。

「陛下、今日の勉学は終了し、予定よりも先に進んでいるので、剣術をそろそろ学びたいのですが」

「そ、そうか……リューシルは本当にしっかりしているな。だが、5歳で剣術はまだ早い気がするが………」

「城の中ばかりいては身体も鈍りましょう。こういった剣術は身体づくりが基本です。早い方がよいでしょう。剣術をできる限り早く学ぶため空いた時間で身体は鍛えて参りました」

「うむ、そうか……ならば、剣術の教師を用意しよう」

「ありがとうございます」

目的は達成し、部屋を出ようとしたときだった。

「待ちなさい」

部屋に私を引き止める母の声。私はそっと足を止めて、母に振り向く。母は強張った顔で幼い私をじっと見て言った。

「聞いていたのでしょう?」

確信したような口調で問うように。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

ヤンデレ悪役令嬢の前世は喪女でした。反省して婚約者へのストーキングを止めたら何故か向こうから近寄ってきます。

砂礫レキ
恋愛
伯爵令嬢リコリスは嫌われていると知りながら婚約者であるルシウスに常日頃からしつこく付き纏っていた。 ある日我慢の限界が来たルシウスに突き飛ばされリコリスは後頭部を強打する。 その結果自分の前世が20代後半喪女の乙女ゲーマーだったことと、 この世界が女性向け恋愛ゲーム『花ざかりスクールライフ』に酷似していることに気づく。 顔がほぼ見えない長い髪、血走った赤い目と青紫の唇で婚約者に執着する黒衣の悪役令嬢。 前世の記憶が戻ったことで自らのストーカー行為を反省した彼女は婚約解消と不気味過ぎる外見のイメージチェンジを決心するが……?

気だるげの公爵令息が変わった理由。

三月べに
恋愛
 乙女ゲーの悪役令嬢に転生したリーンティア。王子の婚約者にはまだなっていない。避けたいけれど、貴族の義務だから縁談は避けきれないと、一応見合いのお茶会に参加し続けた。乙女ゲーのシナリオでは、その見合いお茶会の中で、王子に恋をしたから父に強くお願いして、王家も承諾して成立した婚約だったはず。  王子以外に婚約者を選ぶかどうかはさておき、他の見合い相手を見極めておこう。相性次第でしょ。  そう思っていた私の本日の見合い相手は、気だるげの公爵令息。面倒くさがり屋の無気力なキャラクターは、子どもの頃からもう気だるげだったのか。 「生きる楽しみを教えてくれ」  ドンと言い放つ少年に、何があったかと尋ねたくなった。別に暗い過去なかったよね、このキャラ。 「あなたのことは知らないので、私が楽しいと思った日々のことを挙げてみますね」  つらつらと楽しみを挙げたら、ぐったりした様子の公爵令息は、目を輝かせた。  そんな彼と、婚約が確定。彼も、変わった。私の隣に立てば、生き生きした笑みを浮かべる。  学園に入って、乙女ゲーのヒロインが立ちはだかった。 「アンタも転生者でしょ! ゲームシナリオを崩壊させてサイテー!! アンタが王子の婚約者じゃないから、フラグも立たないじゃない!!」  知っちゃこっちゃない。スルーしたが、腕を掴まれた。 「無視してんじゃないわよ!」 「頭をおかしくしたように喚く知らない人を見て見ぬふりしたいのは当然では」 「なんですって!? 推しだか何だか知らないけど! なんで無気力公爵令息があんなに変わっちゃったのよ!! どうでもいいから婚約破棄して、王子の婚約者になりなさい!! 軌道修正して!!」  そんなことで今更軌道修正するわけがなかろう……頭おかしい人だな、怖い。 「婚約破棄? ふざけるな。王子の婚約者になれって言うのも不敬罪だ」  ふわっと抱き上げてくれたのは、婚約者の公爵令息イサークだった。 (なろうにも、掲載)

悪役令嬢さん、さようなら〜断罪のその後は〜

たたた、たん。
恋愛
無実の罪で家を勘当された元貴族エルは、その国唯一の第一級冒険者ヴォルフの元へ向かい、パーティー加入を嘆願する。ソロで動いてきたヴォルフは、エルのパーティー加入を許すが、それにはある冷酷な条件が付いてきた。 暫くして、エルの付与魔法が強力なことを知ったヴォルフはエルの魔法に執着を抱くが、数年後にはエルへの執着が利用価値によるものから何か違うものへ変化していて。そんなある日、エルとヴォルフの前に冤罪の元凶であるリード王子がやってきた。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

じゃない方の私が何故かヤンデレ騎士団長に囚われたのですが

カレイ
恋愛
 天使な妹。それに纏わりつく金魚のフンがこの私。  両親も妹にしか関心がなく兄からも無視される毎日だけれど、私は別に自分を慕ってくれる妹がいればそれで良かった。  でもある時、私に嫉妬する兄や婚約者に嵌められて、婚約破棄された上、実家を追い出されてしまう。しかしそのことを聞きつけた騎士団長が何故か私の前に現れた。 「ずっと好きでした、もう我慢しません!あぁ、貴方の匂いだけで私は……」  そうして、何故か最強騎士団長に囚われました。

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

悪役令嬢は天然

西楓
恋愛
死んだと思ったら乙女ゲームの悪役令嬢に転生⁉︎転生したがゲームの存在を知らず天然に振る舞う悪役令嬢に対し、ゲームだと知っているヒロインは…

完 さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。

水鳥楓椛
恋愛
 わたくし、エリザベート・ラ・ツェリーナは今日愛しの婚約者である王太子レオンハルト・フォン・アイゼンハーツに婚約破棄をされる。  なんでそんなことが分かるかって?  それはわたくしに前世の記憶があるから。  婚約破棄されるって分かっているならば逃げればいいって思うでしょう?  でも、わたくしは愛しの婚約者さまの役に立ちたい。  だから、どんなに惨めなめに遭うとしても、わたくしは彼の前に立つ。  さぁ、悪役令嬢のお役目の時間よ。

処理中です...