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1章これがモブだと?

これは誰だ~イエメンホブヤファスイル公爵当主~

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ついに頭がイカれるところまでいってしまったのだろうか?我が娘は。

幼い頃は普通だった娘はいつしか何かにとりつかれたかのように殿下との婚約に意地を見せ、家族すら信用できないとばかりに怯えを見せ続けたあのミリーナが今目の前にいるはずなのに……これはあのミリーナとは違う。

確かに私に怯えを見せてはいるようだが、私の顔で表面的に怯えるものを見てきた私だからわかるが今のミリーナは正にそれ。

今までのミリーナはそんな表面的な怯えではなかった。今更親の顔に怖がるのもおかしな話だ。だが、どこを見てもミリーナそのもので偽物にしては出来すぎている。

やはり殿下からの婚約破棄がショックだったのか?とはいえ、公爵の娘が嫉妬で人様をいじめるのは未来の王妃として相応しくないと思っていたからこそ苦言してきたというのにそれを無視したのはミリーナであり、正に自業自得。

婚約破棄されながらそれなりの身分どころか能力のある婚約者を宛がってもらえただけよかったというもの。ただ心配なのは公爵の私でさえ調べられない謎に満ちた人物ということだが、それでもミリーナが何か文句を言うようなら言わせない腹積もりでいたくらいには殿下のやり方には賛成だった。前もって知らせられながら止めなかったほどに。

まあ婚約者を用意すると言ったのは噂の殿下の不貞の件に対する謝罪もあるのだろう。それはそれでどうかとは思ったが。とはいえ、殿下が不貞を働かなければ……とは思わない。働く前からミリーナはどこか殿下に執着するのが見てとれていたので私的にはよくない傾向だと考え、結婚を阻止できないかと考えてもいた。

要は殿下が提案しなければ私が提案していた可能性もあり、ミリーナはそれを危惧して私を信用しなかったのだろうと思わない日々がなかったわけではない。

しかし、いざ対面すれば説得、強制する必要性が感じられないくらいミリーナはルーチェ伯爵との婚約を受け入れているのが見てとれる。これが本当に私の知るミリーナなのか。何度もそう自分に確認しながらさらに信じられない言葉を娘は発した。

「まあ!失礼ですね!私は正常です!ただ目が覚めたのです……あんな不貞をやらかす王子に恋してた方がおかしかったのだと!」

あのミリーナが私に反発し、あまつには殿下の不貞を言葉にして自分がおかしかったことを認めたのだ。

「帰ってきたのか……」

「え?」

思わず発してしまったのはミリーナとまだ家族として仲良くしていた頃を思い出してしまったからかもしれない。ミリーナはいつでも私の見えるところにいたというのに何を言ってるんだと思いながらも私は何故かミリーナとしばらく離れていたような気にすらなり、気がつけばミリーナを抱き締めていた。
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