酒井物語

おもちうさぎ

文字の大きさ
上 下
7 / 11
中学時代編

お洒落への目覚め

しおりを挟む
翌日、酒井は朝から上機嫌だった。

いつもなら髪もとかさずに学校へ行こうとするのだが、今日はどういうわけかブラシで丁寧に髪をとかしている。

勿論母は、目を丸くして驚いた。

「舞由李…?あんた、今自分が何をしてるかわかってる…?」

「わかってるよ!いちいちうるさいなあ!あんたには関係のないことでしょ!」

「あっそう!似あわないっつーの!!」

酒井は髪をとかし終わると、今度は頭のてっぺんで二つにしばりはじめた。

使っているヘアゴムは勿論、昨日柴田からもらったピンクのヘアゴムである。

酒井は髪を縛るだけではなく、ゴムの上からさらにピンクのリボンを巻いてちょうちょ結びにした。

母は唖然としたまま娘のその様子を見ていた。

「ちょっと、母さん。口紅貸してくんない?それから、マスカラとマニキュアと底上げブラも!」

「は?あんた気は確か?」

そう言いながらも、母は言われたものを全部用意してくれた。

酒井はそれらのものを全て身に付け、るんるんとスキップしながら学校へ向かった。

教室のドアを勢いよく開け、酒井はいつもより大きな声でクラスのみんなに挨拶をした。

「おっはよ~う!」

「おはよう」と答えてくれた人は、誰一人いなかった。

しかし酒井は気にもとめず、柴田と田山のもとへ駆けて行った。

「絵里果!優衣!おはよ!」

いつのまにか、田山のことまで呼び捨てである。

「どうしたの!その恰好!」

田山が驚いて尋ねた。

「オシャレだよ!」

得意げに答える酒井。

「生活委員に注意されるよ」

柴田がそう言ったとたん、生活委員の関谷美代子がドッカドッカと足を踏み鳴らしながらやってきた。

「ちょっと、酒井さん!学校でリボンとマスカラとマニキュアと底上げブラは禁止だよ!」

「うるさいな~。私がどんな恰好しようとあんたには関係ないでしょ!自分がブスだからってひがまないでくれる?」

「ああ?!なんだと?!」

関谷はむかついて、つい暴言を吐いてしまった。

「きめーんだよ!この白髪野郎!」

「は?!白髪なんてないし!それに、野郎じゃないし!」

激怒した酒井は、筆箱から鋏を取り出して関谷の前髪をばっさりと切ってしまった。

「何すんだよ!せっかく伸ばしてたのに!」

関谷は酒井のツインテールに掴みかかり、両手で思い切り引っ張って引き抜こうとした。

しかし、かなり根付いているようで、一向に抜ける気配はなかった。

そこで関谷は酒井の制服のスカートに手を伸ばし、チャックをはずして無理やり脱がせ、それを窓の外へ放り投げてしまった。

「あ~!私のスカート!」

酒井は手近にあった誰かのジャンパーを下半身に巻き付け、すぐさまスカートを取りに外へ出て行った。






しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

いつか歌われる詞集

蒼井托都(あおいたくと)
青春
タイトルの通り、詩というより詞集です。 (小説家になろうやカクヨムなどにも掲載中です)

#春夏秋冬忘れ物

蒼井托都(あおいたくと)
青春
それぞれの季節に置いてきた思い出を切り取って、言葉になった。 (小説家になろうやカクヨムなどにも掲載中です)

何も知らない僕たちは

凪海 三月
青春
ある日、1人の幼なじみを失った、5人は誰にも知られず、成長していく。またあの場所で______ 。6人でおくる、友情物語。

からっぽ

明石家秀夫
青春
普通の人って、どんな人だろう。 障がい者じゃない人? 常識がある人? 何をもって、普通というのだろう。 これは、ちょっと変わった男の子が、普通の中学校で、普通の日常を送るだけの物語。 7割実話、3割フィクション。 「事実は小説よりも奇なり」 小説家になろう、カクムヨでも公開中!

咲き乱れろスターチス

シュレッダーにかけるはずだった
青春
自堕落に人生を浪費し、何となく社会人となったハルは、彼女との待ち合わせによく使った公園へむかった。陽炎揺らめく炎天下の中、何をするでもなく座り込んでいると、次第に暑さにやられて気が遠のいてゆく。  彼は最後の青春の記憶に微睡み、自身の罪と弱さに向き合うこととなる。 「ちゃんと生きなよ、逃げないで。」  朦朧とした意識の中、彼女の最後の言葉が脳裏で反芻する。

幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。

スタジオ.T
青春
 幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。  そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。    ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。

最近の綾瀬さん

青羽 藍色
青春
最近の綾瀬さんは、なんだかおかしい。

しゃぼん玉。

かのん
青春
おばあちゃんのかるた教室で知り合った男性の孫と 無理やりお見合いをさせられた! 見た目はイケメンでいいかなと思っていたら なんと学校の教師だった! しかも学校での先生のあだ名は・・・? お互い学校では知られたくない『秘密』があって―― 先生に気持ちを伝たえたい だけど伝えたらこの関係は壊れそうで… しゃぼん玉のように気持ちを届けたら 壊れてしまえばいいのに――

処理中です...