夏の記憶

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ホテルで朝食をとった後は
朝から2人でプラド美術館に出かける予定だったが
そこに青磁の職場から緊急の呼び出しがあり、青磁は急遽バルセロナに戻った
「ゆっくりしておいで」の言葉とともに

美咲は学生の時にベラスケスの絵画に感動し
以来、留学中の時にヨーロッパ各地のベラスケスの絵画を観てまわった。
プラドにはそのベラスケスの代表作ラスメニーナス・宮廷女官がある
これは門外不出で、日本で何度も開催されたプラド美術館展にも出品されていない。

今日もまずはラスメニーナスを観賞してから、プラドの中をゆっくり巡った
ランチを館内のカフェテラスで済ませ
午後4時頃にはまたラスメニーナスの間に戻る
後ろ向きに手鏡を持ち絵を見ると
まるで絵の中に自分が入り込んだような錯覚にとらわれる。。。
それだけベラスケスの遠近法の技法は見事である。 
手鏡越しに絵画に見入っている美咲は
近づく男性の姿に気がつかなかった

「美咲。。。」

名前を呼ばれるハッとして顔を上げると
そこには孝志が立っていた

「孝。。。」

持っていた手鏡が美咲の手から滑り落ち
カチリと小さな音を立て床に転がった

「どうして。。。ここに」と言い終わらないうちに
孝志は美咲の腕を掴みグッと引き寄せ抱きしめた
閉館間際でまばらにいた鑑賞者がチラリと2人に視線をむける

ギュッと抱きしめられ、胸いっぱいに
大好きな孝志の匂いに包まれた。