36 / 39
1章 覚悟のとき
35話 橙花の覚悟
しおりを挟む
1人で黙々と、机へ向かう。今までは大学の勉強で埋め尽くされていた時間だったけれど、いつの間にか開く教科書は全く別のものとなっていた。
今日も今日とて、彼に借りた角の折れ曲がった教科書とにらめっこする。そこには、もうすっかり見慣れた言葉が羅列されていた。
彼が教えてくれてから暫く勉強して、リズムやらコード進行やらの事は何となく理解した。あとは実際に作ってみるだけだ、と思う。しかし。僕はそこまで進んだところで、教科書を閉じた。
隣で聖也くんが眠っているから。ギターを鳴らすのは迷惑だろう。
僕は重い腰を上げ、閉じた教科書を棚へ戻してから再び静かに聖也くんの側へと歩み寄り、彼の黒い髪へ手を伸ばす。しかし。直ぐにそれを引っ込めた。
僕のせいで聖也くんを苦しめていたんだ。ならば。せめてちゃんと謝って、許して貰えるまでは辞めておこう。
そうして、再び彼が目を覚ますのはお昼もゆうにすぎた時間であった。
もちろん、彼がそこからなにか作業に取り掛かる様子もない。かと言って、ゲームを楽しむ様子もなくて。ただただ本当に、ぼーっとしているのみであった。
心配した小春が、彼の足やら腕やらに頭を擦り付ける。聖也くんはそんな小春の頭を撫でこそしたものの、その顔に表情はなかった。
そんな聖也くんに謝罪も贖罪の願い出もしにくくて。僕はただ太陽が沈むのを、黙って見届けた。
「橙花、元気ないの?」
そんな僕を見た聖也くんは、どう見ても自分の方が元気がないくせにそう言って僕の背中を擦るのだった。
それは僕の思う彼の先輩らしさの象徴で。思わずドキリと胸が痛む。
きっと、本当は聖也くんも辛いのに、我慢して僕を慰めているんだと。そう思うと可哀想で、辛くって。僕が泣いている場合では無いのに瞳に涙が溜まった。
こんな彼を失うのが怖くって。でも。彼のためだって、そう言い聞かせて。
僕は、口を開いた。
「聖也くん。今日、夜景見ようってお話しましたよね? その時、ちょっとお話させてください」
僕がそう言うと、彼は黙って頷いて、僕が心の底で求めたように頭をわしゃわしゃとかき混ぜてくれた。
今日も今日とて、彼に借りた角の折れ曲がった教科書とにらめっこする。そこには、もうすっかり見慣れた言葉が羅列されていた。
彼が教えてくれてから暫く勉強して、リズムやらコード進行やらの事は何となく理解した。あとは実際に作ってみるだけだ、と思う。しかし。僕はそこまで進んだところで、教科書を閉じた。
隣で聖也くんが眠っているから。ギターを鳴らすのは迷惑だろう。
僕は重い腰を上げ、閉じた教科書を棚へ戻してから再び静かに聖也くんの側へと歩み寄り、彼の黒い髪へ手を伸ばす。しかし。直ぐにそれを引っ込めた。
僕のせいで聖也くんを苦しめていたんだ。ならば。せめてちゃんと謝って、許して貰えるまでは辞めておこう。
そうして、再び彼が目を覚ますのはお昼もゆうにすぎた時間であった。
もちろん、彼がそこからなにか作業に取り掛かる様子もない。かと言って、ゲームを楽しむ様子もなくて。ただただ本当に、ぼーっとしているのみであった。
心配した小春が、彼の足やら腕やらに頭を擦り付ける。聖也くんはそんな小春の頭を撫でこそしたものの、その顔に表情はなかった。
そんな聖也くんに謝罪も贖罪の願い出もしにくくて。僕はただ太陽が沈むのを、黙って見届けた。
「橙花、元気ないの?」
そんな僕を見た聖也くんは、どう見ても自分の方が元気がないくせにそう言って僕の背中を擦るのだった。
それは僕の思う彼の先輩らしさの象徴で。思わずドキリと胸が痛む。
きっと、本当は聖也くんも辛いのに、我慢して僕を慰めているんだと。そう思うと可哀想で、辛くって。僕が泣いている場合では無いのに瞳に涙が溜まった。
こんな彼を失うのが怖くって。でも。彼のためだって、そう言い聞かせて。
僕は、口を開いた。
「聖也くん。今日、夜景見ようってお話しましたよね? その時、ちょっとお話させてください」
僕がそう言うと、彼は黙って頷いて、僕が心の底で求めたように頭をわしゃわしゃとかき混ぜてくれた。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
14
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる