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1章 覚悟のとき
20話 僕のせい
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そんな毎日が、いくらか続いた。
聖也くんが夜中にゲームを作って、僕が寝かせて、気づいたら彼はベッドを抜け出して今度はゲームをする。そして、それを朝に発見した僕はご飯を作りながら彼を寝かせて、そしてお昼には一緒に曲を作って。
そして。
夜になったらどちらからともなく一緒にお風呂へ入るのも、また定番となった。そのくせ、怖いからと言って挿れるのだけはさせてはくれなかった。
なんだかまるで、と思う。セフレかなんかみたいだ。
もちろん、急かすつもりはない。でも。
胸騒ぎがしてならなかった。本当に、怖いというその理由だけなのかと考えると、怖かった。しかし。聖也くんは何も答えてはくれなかった。
そんなある日のことだった。
いつも通りに隣からの振動で目を覚ます。きっと小春だろうと。また、聖也くんはゲームだろうかと。そう思って重い瞼を擦る。
しかし、今日は珍しく小春は僕の背中の後ろに気配があって、そして目の前には聖也くんが眠っていた。
「ん゛~」
彼はそう声を上げて伸びをする。いつもの小春そっくりだ。
「おはようございます」
目を覚ますと隣に彼がいるなんて経験が嬉しくて、つい手を伸ばしてその体を抱きしめる。そんな彼の体は。
驚く程に熱かった。
「聖也くん、なんか熱い!」
思わず大きく声を上げ、彼の額へ手を当てる。案の定そこは、いつもの彼の子供体温では説明がつかないほどに熱く、そして汗ばんでいた。
「風邪引いたかな」
と、彼は言う。
しかし。僕はすぐさま体を起こしてスマホを手に取ると、タクシーアプリを起動させた。
「病院行きますよ。準備してくるんで少し待っててください」
「え、大袈裟だって……」
「いいから」
そんな不満そうな彼を無視してタクシーを呼び、ベッドを下りる。
冷蔵庫には冷却シートすら無くて、僕は嫌な胸騒ぎがする中1度自宅に戻り、冷却シートや冷枕、そして寒い時のための湯たんぽなど、一通りものを持って彼の部屋へ戻る。
彼の前髪を上に避け額へ冷却シートを張りつけると、彼は心地よさそうに目を細めながら言った。
「ねえ、ほんとに病院行くの」
と、彼が言う。
「当たり前です。死んじゃったらどうするんですか」
そう叱って、彼の荒い息遣いを聴きながら持ってきてあった自分の服に着替える。
小春はそんな彼の様子を伺うように顔を覗き込んで、そして何度も僕を見てニャーと声を上げた。
「大丈夫。聖也くんは僕が病院に連れていくよ」
そう伝えて、彼女の背中を優しく撫でる。しかし、小春は珍しく鳴き止まずにソワソワと聖也くんの傍を行ったり来たりするのだった。
ふと、思う。これは、僕のせいなんじゃないかって。
だって、僕がゴネて泣いたりしないで早くに手術を済ませておけばこんなことにはならなかったのかもしれないって。
「聖也くん」と彼を呼ぶ。
彼は熱い息を吐きながら、僕の頬へ触れた。
「なんで泣いてるの」と、彼は言った。
気がついたら、彼の手は濡れていた。全部全部僕がまいた種で、自業自得だった。それに聖也くんを巻き込んでしまった。
「ごめんなさい」
彼の隣へしゃがみこみ強く抱き締め、彼の胸へ顔を埋める。やっぱりその体はとっても熱くて、汗ばんでいた。
聖也くんは、そんな泣き虫な僕の背中をさすってふふと笑顔を作ってくれた。
「なんでお前が謝るのさ」
彼はそう言って、のっそりと起き上がる。そして、ビシビシと少し強すぎるくらいに僕の背を叩くと、僕の手を借りることなくベッドを降りてパジャマから着替え始めた。
何となく、僕は思った。こんなんじゃ、と。記憶を無くした聖也くんに、『僕が貴方の彼氏だったんです』だなんて、言えるのだろうか。いいや、言っていいわけが無い。
忘れないって約束したのに、気づいたら記憶の無くなった後のことを想像していた。
僕は。それはもう、最低な彼氏だった。
「聖也くん……好きって言ってください」
「……好きだよ」
彼は着替え終えたパジャマを床へ投げ置き、困ったように僕の頭へ手を置いた。
──あと何度、聖也くんの口から好きと聞けるのだろう。
「……僕も、愛してます」
彼の熱い体を、強く抱きしめた。
──あと何度、僕は愛してると伝えられるのだろう。
僕は思う。もういっその事、今すぐに病院で手術をしてもらってしまった方が聖也くんは苦しくないのではないだろうか、と。
ならばやっぱり、僕が彼を苦しめているのではないか、と。
そう思うと息が苦しくて、吸っても吸っても空気が入ってこなくって。聖也くんを病院まで送らなくちゃいけないのに、頭がぼーっとして。
つい、抱きしめた彼に体重を預けてしまう。
「聖也くん、ごめんなさい……ッ」
「大丈夫。息、ゆっくり吐いて。そう、偉い」
聖也くんはそんな頼りない僕を優しく包んで、癒してくれた。聖也くんの方がよっぽど辛いはずなのに。
「ごめんなさいっ……」
僕はタクシーが来て病院へ着くまでの間もずっと、ただ聖也くんに何度も謝り続けることしか出来なかった。
聖也くんが夜中にゲームを作って、僕が寝かせて、気づいたら彼はベッドを抜け出して今度はゲームをする。そして、それを朝に発見した僕はご飯を作りながら彼を寝かせて、そしてお昼には一緒に曲を作って。
そして。
夜になったらどちらからともなく一緒にお風呂へ入るのも、また定番となった。そのくせ、怖いからと言って挿れるのだけはさせてはくれなかった。
なんだかまるで、と思う。セフレかなんかみたいだ。
もちろん、急かすつもりはない。でも。
胸騒ぎがしてならなかった。本当に、怖いというその理由だけなのかと考えると、怖かった。しかし。聖也くんは何も答えてはくれなかった。
そんなある日のことだった。
いつも通りに隣からの振動で目を覚ます。きっと小春だろうと。また、聖也くんはゲームだろうかと。そう思って重い瞼を擦る。
しかし、今日は珍しく小春は僕の背中の後ろに気配があって、そして目の前には聖也くんが眠っていた。
「ん゛~」
彼はそう声を上げて伸びをする。いつもの小春そっくりだ。
「おはようございます」
目を覚ますと隣に彼がいるなんて経験が嬉しくて、つい手を伸ばしてその体を抱きしめる。そんな彼の体は。
驚く程に熱かった。
「聖也くん、なんか熱い!」
思わず大きく声を上げ、彼の額へ手を当てる。案の定そこは、いつもの彼の子供体温では説明がつかないほどに熱く、そして汗ばんでいた。
「風邪引いたかな」
と、彼は言う。
しかし。僕はすぐさま体を起こしてスマホを手に取ると、タクシーアプリを起動させた。
「病院行きますよ。準備してくるんで少し待っててください」
「え、大袈裟だって……」
「いいから」
そんな不満そうな彼を無視してタクシーを呼び、ベッドを下りる。
冷蔵庫には冷却シートすら無くて、僕は嫌な胸騒ぎがする中1度自宅に戻り、冷却シートや冷枕、そして寒い時のための湯たんぽなど、一通りものを持って彼の部屋へ戻る。
彼の前髪を上に避け額へ冷却シートを張りつけると、彼は心地よさそうに目を細めながら言った。
「ねえ、ほんとに病院行くの」
と、彼が言う。
「当たり前です。死んじゃったらどうするんですか」
そう叱って、彼の荒い息遣いを聴きながら持ってきてあった自分の服に着替える。
小春はそんな彼の様子を伺うように顔を覗き込んで、そして何度も僕を見てニャーと声を上げた。
「大丈夫。聖也くんは僕が病院に連れていくよ」
そう伝えて、彼女の背中を優しく撫でる。しかし、小春は珍しく鳴き止まずにソワソワと聖也くんの傍を行ったり来たりするのだった。
ふと、思う。これは、僕のせいなんじゃないかって。
だって、僕がゴネて泣いたりしないで早くに手術を済ませておけばこんなことにはならなかったのかもしれないって。
「聖也くん」と彼を呼ぶ。
彼は熱い息を吐きながら、僕の頬へ触れた。
「なんで泣いてるの」と、彼は言った。
気がついたら、彼の手は濡れていた。全部全部僕がまいた種で、自業自得だった。それに聖也くんを巻き込んでしまった。
「ごめんなさい」
彼の隣へしゃがみこみ強く抱き締め、彼の胸へ顔を埋める。やっぱりその体はとっても熱くて、汗ばんでいた。
聖也くんは、そんな泣き虫な僕の背中をさすってふふと笑顔を作ってくれた。
「なんでお前が謝るのさ」
彼はそう言って、のっそりと起き上がる。そして、ビシビシと少し強すぎるくらいに僕の背を叩くと、僕の手を借りることなくベッドを降りてパジャマから着替え始めた。
何となく、僕は思った。こんなんじゃ、と。記憶を無くした聖也くんに、『僕が貴方の彼氏だったんです』だなんて、言えるのだろうか。いいや、言っていいわけが無い。
忘れないって約束したのに、気づいたら記憶の無くなった後のことを想像していた。
僕は。それはもう、最低な彼氏だった。
「聖也くん……好きって言ってください」
「……好きだよ」
彼は着替え終えたパジャマを床へ投げ置き、困ったように僕の頭へ手を置いた。
──あと何度、聖也くんの口から好きと聞けるのだろう。
「……僕も、愛してます」
彼の熱い体を、強く抱きしめた。
──あと何度、僕は愛してると伝えられるのだろう。
僕は思う。もういっその事、今すぐに病院で手術をしてもらってしまった方が聖也くんは苦しくないのではないだろうか、と。
ならばやっぱり、僕が彼を苦しめているのではないか、と。
そう思うと息が苦しくて、吸っても吸っても空気が入ってこなくって。聖也くんを病院まで送らなくちゃいけないのに、頭がぼーっとして。
つい、抱きしめた彼に体重を預けてしまう。
「聖也くん、ごめんなさい……ッ」
「大丈夫。息、ゆっくり吐いて。そう、偉い」
聖也くんはそんな頼りない僕を優しく包んで、癒してくれた。聖也くんの方がよっぽど辛いはずなのに。
「ごめんなさいっ……」
僕はタクシーが来て病院へ着くまでの間もずっと、ただ聖也くんに何度も謝り続けることしか出来なかった。
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