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1章 覚悟のとき
12話 お片付け
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久しぶりにたくさん歩いて、ようやくついた大きなマンション。僕は、躊躇うことなく聖也くんの後をつけ扉の前に立つ。そこで、ふと思った。
「小春、寂しがるかな」
「小春?」
扉を開けた聖也くんがその名を聞き振り向いた。ハッとして、慌てて両手と首を横に振る。しかし、彼はますます訝し気に僕の顔を覗き込んだ。
「誰?」
「猫ですよ……! 飼ってるんです」
慌ててそう誤解を解いて彼を宥めるように背を摩る。彼は納得したように頷いて隣の僕の部屋の扉を見つめた。
「連れて来ればいいじゃん」
確かに、と一瞬思わされかける。しかし、と思い僕は慌てて再び首をぶんぶんと横に振った。
「だめですだめです、まだ子猫ですから。散らかってると小さい物食べたりしちゃいますから」
「……来るなら餌あげて少し遊んでやってからおいで」
彼はそう言って、少し拗ねたように膨れて先に自分の部屋へと上がるのだった。
少し寂しそうだった、と思う。でも。彼の言葉に素直に甘えて、部屋へと上がった。今日の朝ぶりである僕の部屋は静かで、相変わらずなんだか寂しい場所だった。
「小春~」と、名前を呼んでリビングを覗き込む。
小春は、机の下で呑気に伸びたまま眠っていた。どうやら、悪戯をした様子もないようだ。
自動で補充される餌箱はしっかりと空になっており、トイレの中も機械が片づけてくれている。なんだか。
「あれ、小春僕いない方が静かで楽だった……?」
僕が体をつつくと、彼女はにゃあと大あくびをかまして丸まり直して眠りについた。
なんだか、飼い主として安心するやら寂しいやら。しかし、どうせ聖也くんにも遊んでくる許可を得ているんだ。僕はそのまま彼女と一緒にテーブルの横に寝転がり、少しの時間彼女と寝息を立てるのだった。
そうして小一時間添い寝をして。奇跡的に目を覚ますことができた僕は、小春を起こさないように起き上がり、慌てて家を出た。
案の定隣の部屋の扉にはサンダルが挟められており、鍵がかかっていなかった。
本当に不用心な人だ、と改めて思う。今度、彼氏としてしっかり叱っておかなければならない。と、そう思ったけれど。どうせ鍵がかかっていないのをわかった上で遅れた僕も悪いだろう。気を付けなければ。
と、そう考えながらドアノブを握った。案の定、お迎えはななかった。もう寝てしまっただろうか、と考えかけ、慌てて小さく頭を振る。彼に至って、そんなことがあるはずがない。
靴を脱ぎ、リビングの扉を引くとやっぱり。彼は真っ暗な部屋の中、パソコンの前に座っていた。でも。そんな当たり前のはずの光景だけれど、僕は思わず「え」と声を上げる。
なぜなら。その部屋は、あり得ないくらい綺麗に片付いていたから。
「ちょ、どうしたんですかこれ」
思わず部屋の照明を勝手につけ、失礼ながらまじまじと部屋を見渡す。そこは確かに僕が掃除したばかりだったけれど。でも、その後に彼が使った楽譜は落ちていたし、今日のお昼である彼のカップラーメンのゴミやコンビニ弁当のゴミが机に放置されていてもおかしくないはずだ。
なのに。あろうことかパソコンのコードは束ねられ、更には彼が今日持ってでかけていたリュックすらもしっかりと片づけられている。
相変わらずヘッドホンをした彼に声は届いていないけれど。僕はなんとなくその小奇麗な部屋に緊張して、テーブルの前に正座をしたまま彼のゲームが終わるのを待った。
「すごいでしょ」
しばらくしてゲームの終わった彼は、おもむろにヘッドホンを取り外しながらしたり顔で僕を見て、外したそれを壁へ設置されたスタンドへかけるのだった。
「小春、寂しがるかな」
「小春?」
扉を開けた聖也くんがその名を聞き振り向いた。ハッとして、慌てて両手と首を横に振る。しかし、彼はますます訝し気に僕の顔を覗き込んだ。
「誰?」
「猫ですよ……! 飼ってるんです」
慌ててそう誤解を解いて彼を宥めるように背を摩る。彼は納得したように頷いて隣の僕の部屋の扉を見つめた。
「連れて来ればいいじゃん」
確かに、と一瞬思わされかける。しかし、と思い僕は慌てて再び首をぶんぶんと横に振った。
「だめですだめです、まだ子猫ですから。散らかってると小さい物食べたりしちゃいますから」
「……来るなら餌あげて少し遊んでやってからおいで」
彼はそう言って、少し拗ねたように膨れて先に自分の部屋へと上がるのだった。
少し寂しそうだった、と思う。でも。彼の言葉に素直に甘えて、部屋へと上がった。今日の朝ぶりである僕の部屋は静かで、相変わらずなんだか寂しい場所だった。
「小春~」と、名前を呼んでリビングを覗き込む。
小春は、机の下で呑気に伸びたまま眠っていた。どうやら、悪戯をした様子もないようだ。
自動で補充される餌箱はしっかりと空になっており、トイレの中も機械が片づけてくれている。なんだか。
「あれ、小春僕いない方が静かで楽だった……?」
僕が体をつつくと、彼女はにゃあと大あくびをかまして丸まり直して眠りについた。
なんだか、飼い主として安心するやら寂しいやら。しかし、どうせ聖也くんにも遊んでくる許可を得ているんだ。僕はそのまま彼女と一緒にテーブルの横に寝転がり、少しの時間彼女と寝息を立てるのだった。
そうして小一時間添い寝をして。奇跡的に目を覚ますことができた僕は、小春を起こさないように起き上がり、慌てて家を出た。
案の定隣の部屋の扉にはサンダルが挟められており、鍵がかかっていなかった。
本当に不用心な人だ、と改めて思う。今度、彼氏としてしっかり叱っておかなければならない。と、そう思ったけれど。どうせ鍵がかかっていないのをわかった上で遅れた僕も悪いだろう。気を付けなければ。
と、そう考えながらドアノブを握った。案の定、お迎えはななかった。もう寝てしまっただろうか、と考えかけ、慌てて小さく頭を振る。彼に至って、そんなことがあるはずがない。
靴を脱ぎ、リビングの扉を引くとやっぱり。彼は真っ暗な部屋の中、パソコンの前に座っていた。でも。そんな当たり前のはずの光景だけれど、僕は思わず「え」と声を上げる。
なぜなら。その部屋は、あり得ないくらい綺麗に片付いていたから。
「ちょ、どうしたんですかこれ」
思わず部屋の照明を勝手につけ、失礼ながらまじまじと部屋を見渡す。そこは確かに僕が掃除したばかりだったけれど。でも、その後に彼が使った楽譜は落ちていたし、今日のお昼である彼のカップラーメンのゴミやコンビニ弁当のゴミが机に放置されていてもおかしくないはずだ。
なのに。あろうことかパソコンのコードは束ねられ、更には彼が今日持ってでかけていたリュックすらもしっかりと片づけられている。
相変わらずヘッドホンをした彼に声は届いていないけれど。僕はなんとなくその小奇麗な部屋に緊張して、テーブルの前に正座をしたまま彼のゲームが終わるのを待った。
「すごいでしょ」
しばらくしてゲームの終わった彼は、おもむろにヘッドホンを取り外しながらしたり顔で僕を見て、外したそれを壁へ設置されたスタンドへかけるのだった。
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