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プロローグ

望まぬ旅立ち

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 俺は嘉納玲かのうれい16歳 高校生
 
 全くもって普通で凡人、全てを程々に努力し人付き合いも億劫で最低限とゆう思春期に揺れるお年頃であり、日々漠然とした不安に頭を悩ませる少年である

 将来を豊かで、充実して周りには笑顔が溢れるそんな所轄”リア充”を夢見るもそれを叶える努力も勇気も起こせない中途半端なやつで日々を過ごしている

 そんな俺にもようやく転機が訪れようとしている

 きっかけは小中学校そして今ですら隣の席という腐れ縁とゆうか幼なじみの柊木朱鳥ひいらぎあすか、長い艶やかな黒髪をポニーテールに纏めて清楚な感じが他を寄せ付けない高嶺の花感を醸している

 朱鳥は俺の家の隣にあるでかい敷地のでかい家に住んでいる御令嬢だが何故か生活レベルが違うのに親同士はいたく親密で、お互いに子供を預けあう仲である

 その縁で今もこうしてうだつも結果も出せない俺の側で世話を焼いてくれている

 一年前

「玲くん昔から高望みで妄想癖があるんだから何か書いてみれば?」
「ふぁっ!! お前、俺のことそんな風に思ってたのか」

「私はなんでも知っているよ ......秘密の妄想ポエムとかいろいろね、まぁ隠してるつもりでも全て把握してるわよ」

 柔らかな笑顔のまま、さらっと吐き出す朱鳥、話を聞かず遠目で眺めればとても儚げな笑顔だろう

「......」

「でも、妄想はアレだけど発想も構想もいいと思う、思いの丈をぶつけて書いてみれば? 何かのきっかけになるかも」

(あれを見られたのが相当ショックだが 俺の妄想人生設計はすでにハーレムを作り年若くからセカンドライフを謳歌している 実際あり得ない世界の冒険や生活を描くか ......昔から朱鳥の助言はいいきっかけになるんだよなぁ)
 
 朱鳥を見つめながらそう考えた俺は、明日を将来を夢見る第一歩のきっかけとして俺の内なる欲望と厨二心をぶつけたラノベを15歳のこの時書き始めた

 そして一年後それが思わぬ支持層を生み出し優秀賞をもらうことになった、それが今日である

 付き添いには俺の親父と何故か朱鳥も付いてきた

『玲 お前もこの道に来てしまったのか、親父として嬉しいやら複雑やら ...とにかくおめでとう!』

「まさかほんとに玲くんが賞を取る程とは私も思わなかったわ、お父さんも読むのを楽しみしているわ」

 朱鳥の親と俺の親はここで意気投合している、俺の親父は巷で有名なラノベ作家でペンネームから”カノケン”と呼ばれている

 その熱狂的ファンと豪語するのが朱鳥の親である、その発想と独創性に閃きを覚えることもしばしばだとか 

 ......俺もその道に憧れ小学生の頃に子供心に意識はしたが、あの独創性と発想は到底真似できず早々に諦めてしまいその後は母さんから師範している嘉納流剣術に打ち込んでほしいと言われたがやはり早々から凡人意識の高かった俺は然程熱くもなれず日々程々に打ち込んでいった

 母さんが言うにはそれでも才能はあったらしい、ちなみにその道場には俺がやり始めたタイミングで朱鳥も通い始めていて数年たった今ではお互い実力を認められそれなりの段位はもっている

 しかしまさか今この時、俺の情熱が溢れこの道で輝くとは思わなかった、母さんも喜んではくれていたがなんか複雑そうではあったな、まぁ申し訳ない気持ちもあるので嘉納流もこのまま続けていくつもりではあるけど

 そんな事を思いながらやがて会場に辿りついた、受付を済ませ中へ向かうと式場は思いのほか広くその一角で親父は関係各位の人に囲まれていた

「カノケンさんすごい人気ね」
「なんか親父の授賞式みたいだな」

『君が玲くんかぁ はじめまして、カノケンさんを担当している姫野です』

 そんな光景を眺めているとその内の1人が声をかけてきた、秘書っぽい美人のキャリアウーマンだがどうらや出版社の人らしい

『この作品にはカノケンさんにはない新たな可能性を感じるのよ、世界観といいなんていうか妄想の爆発?みたいな うちなら書籍化も考えてるわよ』

 姫野さんはサラサラした髪を耳に掛けながら上目遣いに俺をまじまじと見つめ提案をしてきた、その仕草に大人の色気を感じドキドキしていると朱鳥が足を踏んできた

 その本気の踏み付けに驚き朱鳥を見やるとあちらを向いて笑顔を見せていた、これは朱鳥がイラついているときの行動である

 俺はこの後のイジリが怖いので全力で朱鳥のご機嫌とりをした、その光景を微笑ましく見ながらまた会場でと姫野さんは去っていった

 やがて授賞式が始まったが大々的な式典など入学卒業式しか知らずスポットライトを浴び日の目を見ることに当然慣れていない俺は緊張の極地にいて盛大にロボットを演じてやったが式自体はやり過ごすことができた

 会場を後にし、どっと疲れた俺は朱鳥と2人きりで帰り道だ、親父は姫野さんと別件の打ち合わせのため会場に残るそうだ

『朱鳥ちゃんちゃんと送れよ、寄り道せずになぁ』

 と何故か親指を立てて俺に訝しげな目を向けながら声をかける親父になんの意味だよと思い呆れながら「またな」と返事をしてやった

 夕日の照らす街並みを朱鳥と2人歩く

「はぁー今日は疲れた」
「ふふ でも努力が報われたね! 私も嬉しいよ」

 拳を顔の前で握りしめて嬉しそうに頷く朱鳥を眺める

うだつの上がらない陰キャ体質の俺の側にいてくれる朱鳥が喜ぶ姿を見て俺も内心嬉しくはなった

「まぁやり切った感はあるな」
「玲くんはやればできる子だからね、いい子いい子」

 そんな事を言いながら朱鳥に頭を撫でられる、街中なのでちょっと恥ずかしいぞ、そんな事を思ったときその手が頬に触れて止まった、不意の事に朱鳥を見やると真面目な顔でこちらに向き直して朱鳥は俺に告げてきた

「そんな私はずっと玲くんの側にいたいのです」
「ふぁっ!」
「ふぁぁ!」

 朱鳥の突然の思いの打ち明けに油断した俺はあらぬ声を出してしまった、釣られて朱鳥もあらぬ声を返す

 しばし見つめ合い、苦笑いを返し俺も思いを打ち明けた

「俺もできることなら一緒にいたいな」
 
 なんのことはない俺も妄想ではハーレムセカンドライフを送っているが、現実では朱鳥のことが好きだからだ、うだつがあがらないからこそ内に秘めていたが結果はどうあれ伝えるべきだろうと今は思った

 顔をほんのり赤くしながら見つめ合い改めて朱鳥に告げる

「僕は朱鳥のことが....」

 『......見つけた』

 ——パシッ——

 何かのひび割れる音が空間に響きその瞬間に歩く人が車が全てが止まって見えた

 唖然とし2人で辺りを見渡した、人の気配がしそちらを見やるとそれまで目の前5メートルほどに誰もいなかったはずが瞬きをした瞬間にそこに女性が忽然と現れた

「......鉄 これは血の匂い」

 思わず朱鳥は口を抑える

 血染めのようなドレスを纏った色白の女性はルビーの瞳に底知れない感情を浮かべ、膝まである赤黒い髪をふわりとたなびかせながらカーテシーをし柔らかな笑顔を俺に向けた

 コスプレかとも一瞬思ったが俺にはその女性に心当たりがあった

「エリスっ 馬鹿なっ」
「玲くん エリスって?」

 それは紛れもなく俺の描いて想って創った異世界のラスボス【エリス】そのものの姿だった、何故? どうして? 起こり得ない事が起こる事実についていけない

『正解よ ......ようやく貴方を見つけたわ ふふっ何故こんなところにって顔ね ——そうよね貴方達では理解できないかしらね 大変だったのよ神の目を欺くのは』

 息がしづらい、少しでも動けば殺される ——平和ボケしてても直感で本能でそう感じる

 エリスはくるりと一回りしはにかみながら

『ここは良いところね、奪い合い争いあうこともなくとても穏やか ——私もそんなところに生まれたかったわ』

 エリスは静かに、優雅に、ゆっくりと俺に向けて歩いてくる その見た目に反し纏う気配は氷のように冷たい

『今ここで貴方を殺したい けどミアとも話したの、貴方には貴方の創った世界で死んでもらう、私を生んだ事 ——創った事を後悔してもらいたいから』

 エリスの手元に赤黒い靄が集まり、それはやがて大鎌に変化した、それを俺に向かって無表情で振り抜いた瞬間

「玲くんっ!!」
「あ 朱鳥っ」

 不意に朱鳥が俺を庇い抱きしめてきた ——がそんなのお構いなしに大鎌は2人を切りつけていった

 刃物に切られたのに不思議と血は出なかった、痛みもない ——しかし足元から体は黒い靄となって消えていく

「朱鳥っ!」
「玲くん!」

 俺たちは強く抱きしめ合い徐々に消えゆく体に恐怖しながらもお互いを呼び合った 全てが靄となり溶けゆく最後まで

『いいわぁ 愛し合うのに報わず消えてゆく 最後にいいものが見れたわぁ ——あっミア、最後じゃなくてこれが始まりよね、私が満たされるようせいぜいあちらで足掻いて足掻いて消えていってもらわなくっちゃ! では私達も行きましょうか』

 そう1人呟くとエリスは靄を纏いながら優雅に一回りすると溶けるように消えていった
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