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第10章 負けない私と人気俳優の彼
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帰り道の秋の風が、もう随分と冬に近づいていることを教えてくれる。
アルコールで少しだけ、身体が熱くなってる自覚はある。だから、今、この風は気持ちいい。駅からマンションまでの道すがら、とても遼ちゃんに会いたくなった。
――一緒にいたいなぁ。
玄関を開けて、冷たい一人の部屋。
――これが、二年間? でも、二年も待てるの?
やっぱり、この季節は嫌だ。いろんなことを、後ろ向きに考えてしまう。
そんな時、充電していたスマホに、電話の着信。
「はい」
『今から、行っていい?』
「え、今どこ?」
『僕の部屋』
「……いいよ」
まるで、私の気持ちがわかってたみたい。
通話を終えると時をおかずに、玄関のチャイムが鳴る。
「こんばんわ」
ドアを開けるといつもの王子様の笑顔が、少し寂しそうに見えた。
私の気のせいだろうか。
「いらっしゃい」
玄関先での軽いキス。そしてハグ。これが日常になったら、私は幸せになれるのだろうか?
「お酒の味がするね」
「先輩と飲んできたから」
「男の先輩?」
「違うよ」
「そっか」
「今日は、どうしたの?」
いつもより、醸し出す雰囲気が甘い気がする。
「……留学、決まった。」
遼ちゃんは俯きながら、小さな声でそう告げた。
「そっか」
「一人で行ってくるよ」
「うん」
そうだよ。遼ちゃん。
あなたなら、大丈夫。きっと大丈夫。
「絶対、二年で戻ってくる」
少しだけ、ギュッと抱きしめて、耳元で囁いた。
「……だから。やっぱり、僕と結婚して」
「はっ!? 何言ってるの!? 言ったじゃないっ。待ってるって言ったよね?」
「うん、でもね、ずっと考えてたんだ。」
見つめる目は、いつも以上に真剣だ。
「美輪に情けないって思われても、やっぱり、我慢できないよ。僕がいない間に、美輪が他の人のものになっちゃうかもしれない、そんな可能性を残してるとか、思っただけでも嫌だし。そんな不安なまま、勉強できるって自信はない」
絞り出すように言う彼の声が、私の心臓をつかむ。
「だから、そんな心配しないでいられるように、僕が、この先、どんなことがあっても、がんばれるように。美輪のこれからの人生、僕にちょうだい。」
「……簡単に言ってくれるよね」
人生だなんて大袈裟なことを、軽々しく言う遼ちゃんに、少し呆れたように返事をする。そうやって、自分でも誤魔化してるってわかってる。
「簡単じゃないよ」
「……私が信じられない?」
「美輪は信じられるけど、美輪の周りは何があるかわかんないから」
「そ、そんなの遼ちゃんだって、そうじゃないっ」
「だから。美輪のモノにしてよ」
「なっ!?」
「僕の人生、美輪にあげるから。美輪の人生、僕にちょうだい。ねっ?」
……ううううう。
満面の王子様スマイルなんて、反則だよ。
「じゃ、じゃぁ、兄ちゃんに許可とって」
私は必殺の『兄ちゃん』ブロックをかますのだけれど。
「うん。もう話してる」
「へ?」
「あ、おじさんも、おばさんも了解とってるから。」
「は?」
「あー、事務所的には、留学から戻ってきたら公開ってことになってるけど」
唖然として声が出ない。
「あと、何か問題ある?」
ニッコリ笑う遼ちゃん。
私が、うじうじと考えている間に、この人は裏工作してたってこと?
「……私、遼ちゃんのご両親に挨拶してない」
「あ、忘れてた。でも、うちは大丈夫だと思うけどな。じゃあ、今度、うち来る?」
「そんな、あっさり……そ、それに、兵頭さんの件はどうなったの」
これも、まだ、すごく気になること。
「嫌がらせの犯人は、捕まったよ」
「えっ。だ、誰?」
「知りたい?」
さっきまでの甘い顔が、一気に真面目な表情に変わる。
アルコールで少しだけ、身体が熱くなってる自覚はある。だから、今、この風は気持ちいい。駅からマンションまでの道すがら、とても遼ちゃんに会いたくなった。
――一緒にいたいなぁ。
玄関を開けて、冷たい一人の部屋。
――これが、二年間? でも、二年も待てるの?
やっぱり、この季節は嫌だ。いろんなことを、後ろ向きに考えてしまう。
そんな時、充電していたスマホに、電話の着信。
「はい」
『今から、行っていい?』
「え、今どこ?」
『僕の部屋』
「……いいよ」
まるで、私の気持ちがわかってたみたい。
通話を終えると時をおかずに、玄関のチャイムが鳴る。
「こんばんわ」
ドアを開けるといつもの王子様の笑顔が、少し寂しそうに見えた。
私の気のせいだろうか。
「いらっしゃい」
玄関先での軽いキス。そしてハグ。これが日常になったら、私は幸せになれるのだろうか?
「お酒の味がするね」
「先輩と飲んできたから」
「男の先輩?」
「違うよ」
「そっか」
「今日は、どうしたの?」
いつもより、醸し出す雰囲気が甘い気がする。
「……留学、決まった。」
遼ちゃんは俯きながら、小さな声でそう告げた。
「そっか」
「一人で行ってくるよ」
「うん」
そうだよ。遼ちゃん。
あなたなら、大丈夫。きっと大丈夫。
「絶対、二年で戻ってくる」
少しだけ、ギュッと抱きしめて、耳元で囁いた。
「……だから。やっぱり、僕と結婚して」
「はっ!? 何言ってるの!? 言ったじゃないっ。待ってるって言ったよね?」
「うん、でもね、ずっと考えてたんだ。」
見つめる目は、いつも以上に真剣だ。
「美輪に情けないって思われても、やっぱり、我慢できないよ。僕がいない間に、美輪が他の人のものになっちゃうかもしれない、そんな可能性を残してるとか、思っただけでも嫌だし。そんな不安なまま、勉強できるって自信はない」
絞り出すように言う彼の声が、私の心臓をつかむ。
「だから、そんな心配しないでいられるように、僕が、この先、どんなことがあっても、がんばれるように。美輪のこれからの人生、僕にちょうだい。」
「……簡単に言ってくれるよね」
人生だなんて大袈裟なことを、軽々しく言う遼ちゃんに、少し呆れたように返事をする。そうやって、自分でも誤魔化してるってわかってる。
「簡単じゃないよ」
「……私が信じられない?」
「美輪は信じられるけど、美輪の周りは何があるかわかんないから」
「そ、そんなの遼ちゃんだって、そうじゃないっ」
「だから。美輪のモノにしてよ」
「なっ!?」
「僕の人生、美輪にあげるから。美輪の人生、僕にちょうだい。ねっ?」
……ううううう。
満面の王子様スマイルなんて、反則だよ。
「じゃ、じゃぁ、兄ちゃんに許可とって」
私は必殺の『兄ちゃん』ブロックをかますのだけれど。
「うん。もう話してる」
「へ?」
「あ、おじさんも、おばさんも了解とってるから。」
「は?」
「あー、事務所的には、留学から戻ってきたら公開ってことになってるけど」
唖然として声が出ない。
「あと、何か問題ある?」
ニッコリ笑う遼ちゃん。
私が、うじうじと考えている間に、この人は裏工作してたってこと?
「……私、遼ちゃんのご両親に挨拶してない」
「あ、忘れてた。でも、うちは大丈夫だと思うけどな。じゃあ、今度、うち来る?」
「そんな、あっさり……そ、それに、兵頭さんの件はどうなったの」
これも、まだ、すごく気になること。
「嫌がらせの犯人は、捕まったよ」
「えっ。だ、誰?」
「知りたい?」
さっきまでの甘い顔が、一気に真面目な表情に変わる。
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