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第6章 信じたい私と人気俳優の彼
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黒っぽい大きなドア。まるで、某アニメに出てきた真理の扉みたい。
一馬の押しの強さに負け、引きずられるように来てしまった。そもそも、私みたいな一般人が入れるのかい? と、思ってたら、まぁ、案の定、一馬のお友達関係が融通効かせてくれたらしい。
扉の向こうには、私にしてみればカオスともいえる状況で、たくさんの人。人。人。それも、同じ人間に見えないような、絶対、作りが違うって思えるような、そんな生き物たちが蠢いているようにさえ見えた。
完全に場違い。
室内に入ってからは、余計にそう感じたのは、不思議な生き物でも見る様な、周囲の痛い視線のせい。
「か、一馬、やっぱ、無理っ」
尻込みして、戻ろうとする私の手首を持って引きずる一馬。時々、一馬の知り合いらしき人と遭遇しては、軽く挨拶を交わすけど、一向に止まる気配はない。
――ああ、なんで来ちゃったんだろう。
それは遼ちゃんの姿を一目でも見たかったから。少しでも、話ができたら、と思ったから。
でも、こんな状態で、見つけるのなんて……。
「あ、いた」
ぼそっとつぶやく一馬の視線の先に遼ちゃんがいるようなのだけど、大きな人々の中で、完全に埋没している私には、まったく状況がわからない。
しかし、その頃には、周囲の雰囲気にのまれた上に、酒やタバコの匂いで、気分が悪くなってきていた。
「か、一馬、ちょっと酔ったかも」
「えっ!?」
慌てて振り向く一馬の腕に、思わずすがりつく。
「ご、ごめん、ごめん。あっち、あっちに席あるから、座ろう」
人の波をかきわけて、パーティー会場の壁際の空いている席に座り込む。
「ちょっと待ってて。なんかもらってくるから」
胸がムカムカしながらも、再び、人ごみの中に戻っていく一馬の背中を見て、 一馬も大人になったなぁ、なんて少しだけ見直した。
ふと、その先のカウンターに、遼ちゃんが座っているのを見つけた。
いつも会う時のような自然な感じではなく、黒いスーツで、髪型もしっかり決めて、普通にカッコイイって思った。まさに『芸能人オーラ』が溢れてる。近くでみたら、心臓が止まっちゃうかもしれない。今だって、もう、ドキドキしてる。
すると、彼の隣に背中の大きくあいた赤いドレスの女性が座った。
あ、あれっ?あの女性は確か、女優の兵頭乃蒼?
漆黒のロングヘアが、一つにまとめられて、襟足の美しさが際立って、大きく開いた背中の、肩甲骨が、彼女の華奢な身体を強調させる。
赤いドレスと、真っ白な肌。女の私から見ても、色っぽい。確か、私と同い年だったはず。
遼ちゃんと並んでも、遜色ない様子に、ただ茫然と、絵になる二人を遠くから見つめるだけ。
――それが、現実?
二人が近くに寄り添った。
彼の手が、彼女の腰を引き寄せて、耳元で何か囁いてる。
これは、何かの映像か何かですか?
目を大きく見開いた彼女と、優しく微笑む彼。
『何があっても、僕だけを信じて待っててね。』
『僕から離れないで』
信じたかった……のに。
離れたのは……私じゃない。
瞼を閉じて、大きく深呼吸して、もう一度見た。
二人は、やっぱり存在していて、仲がよさそうに、微笑みあっている。
目の前が霞んできた。私、まだ、ここにいなきゃダメなのかな。一馬、早く戻ってきて……。
「……わ……み……美輪?」
気が付けば、水の入ったコップを持った一馬が心配そうに覗き込んでる。
「か、一馬」
「どうかした?」
「あ、あれ」
私の指さしたほうを見て、驚く。
「あ、遼……と、あれは」
そして、顔をこわばらせた。その理由は、私の視野にも入ってきてる。
そう、遼ちゃんが、彼女の頬にキスしてる?
「一馬、か、帰ろう。私、無理……う、うぅっ」
「ちょっと待って。吾郎兄、呼ぶ。迎えにきてもらう」
スマホを取り出して、淡々と兄ちゃんに迎えを頼む一馬。兄ちゃんは、近くに車を駐車して待っててくれてたらしく、十分もせずに入ってきた。
スーツを着ていても、その身体がわかるほど、がっしりした姿は、頭一つ、飛びぬけているおかげで、入口ですぐにわかる。
一馬が手をあげ、それにすぐに気づいたらしく、人波をするすると抜けてくる。
「大丈夫か」
「に、兄ちゃん。」
私の涙でボロボロの顔を見た兄ちゃんが、一馬をすごい怖い顔で見る。同じように怖い顔をした一馬が、反対側に視線を送ると、同じ方向を見つめる兄ちゃん。
私を支えて、出口に向かう兄ちゃんは、無表情。
私は、最後のあがきみたいに、振り向いて遼ちゃんが座っていたところを見ると、まだ、楽しそうに彼女と話している彼がいて……今の私には、もう、ちょっと、限界だった。
一馬の押しの強さに負け、引きずられるように来てしまった。そもそも、私みたいな一般人が入れるのかい? と、思ってたら、まぁ、案の定、一馬のお友達関係が融通効かせてくれたらしい。
扉の向こうには、私にしてみればカオスともいえる状況で、たくさんの人。人。人。それも、同じ人間に見えないような、絶対、作りが違うって思えるような、そんな生き物たちが蠢いているようにさえ見えた。
完全に場違い。
室内に入ってからは、余計にそう感じたのは、不思議な生き物でも見る様な、周囲の痛い視線のせい。
「か、一馬、やっぱ、無理っ」
尻込みして、戻ろうとする私の手首を持って引きずる一馬。時々、一馬の知り合いらしき人と遭遇しては、軽く挨拶を交わすけど、一向に止まる気配はない。
――ああ、なんで来ちゃったんだろう。
それは遼ちゃんの姿を一目でも見たかったから。少しでも、話ができたら、と思ったから。
でも、こんな状態で、見つけるのなんて……。
「あ、いた」
ぼそっとつぶやく一馬の視線の先に遼ちゃんがいるようなのだけど、大きな人々の中で、完全に埋没している私には、まったく状況がわからない。
しかし、その頃には、周囲の雰囲気にのまれた上に、酒やタバコの匂いで、気分が悪くなってきていた。
「か、一馬、ちょっと酔ったかも」
「えっ!?」
慌てて振り向く一馬の腕に、思わずすがりつく。
「ご、ごめん、ごめん。あっち、あっちに席あるから、座ろう」
人の波をかきわけて、パーティー会場の壁際の空いている席に座り込む。
「ちょっと待ってて。なんかもらってくるから」
胸がムカムカしながらも、再び、人ごみの中に戻っていく一馬の背中を見て、 一馬も大人になったなぁ、なんて少しだけ見直した。
ふと、その先のカウンターに、遼ちゃんが座っているのを見つけた。
いつも会う時のような自然な感じではなく、黒いスーツで、髪型もしっかり決めて、普通にカッコイイって思った。まさに『芸能人オーラ』が溢れてる。近くでみたら、心臓が止まっちゃうかもしれない。今だって、もう、ドキドキしてる。
すると、彼の隣に背中の大きくあいた赤いドレスの女性が座った。
あ、あれっ?あの女性は確か、女優の兵頭乃蒼?
漆黒のロングヘアが、一つにまとめられて、襟足の美しさが際立って、大きく開いた背中の、肩甲骨が、彼女の華奢な身体を強調させる。
赤いドレスと、真っ白な肌。女の私から見ても、色っぽい。確か、私と同い年だったはず。
遼ちゃんと並んでも、遜色ない様子に、ただ茫然と、絵になる二人を遠くから見つめるだけ。
――それが、現実?
二人が近くに寄り添った。
彼の手が、彼女の腰を引き寄せて、耳元で何か囁いてる。
これは、何かの映像か何かですか?
目を大きく見開いた彼女と、優しく微笑む彼。
『何があっても、僕だけを信じて待っててね。』
『僕から離れないで』
信じたかった……のに。
離れたのは……私じゃない。
瞼を閉じて、大きく深呼吸して、もう一度見た。
二人は、やっぱり存在していて、仲がよさそうに、微笑みあっている。
目の前が霞んできた。私、まだ、ここにいなきゃダメなのかな。一馬、早く戻ってきて……。
「……わ……み……美輪?」
気が付けば、水の入ったコップを持った一馬が心配そうに覗き込んでる。
「か、一馬」
「どうかした?」
「あ、あれ」
私の指さしたほうを見て、驚く。
「あ、遼……と、あれは」
そして、顔をこわばらせた。その理由は、私の視野にも入ってきてる。
そう、遼ちゃんが、彼女の頬にキスしてる?
「一馬、か、帰ろう。私、無理……う、うぅっ」
「ちょっと待って。吾郎兄、呼ぶ。迎えにきてもらう」
スマホを取り出して、淡々と兄ちゃんに迎えを頼む一馬。兄ちゃんは、近くに車を駐車して待っててくれてたらしく、十分もせずに入ってきた。
スーツを着ていても、その身体がわかるほど、がっしりした姿は、頭一つ、飛びぬけているおかげで、入口ですぐにわかる。
一馬が手をあげ、それにすぐに気づいたらしく、人波をするすると抜けてくる。
「大丈夫か」
「に、兄ちゃん。」
私の涙でボロボロの顔を見た兄ちゃんが、一馬をすごい怖い顔で見る。同じように怖い顔をした一馬が、反対側に視線を送ると、同じ方向を見つめる兄ちゃん。
私を支えて、出口に向かう兄ちゃんは、無表情。
私は、最後のあがきみたいに、振り向いて遼ちゃんが座っていたところを見ると、まだ、楽しそうに彼女と話している彼がいて……今の私には、もう、ちょっと、限界だった。
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