32 / 95
第5章 クリスマスの私と人気俳優の彼
32
しおりを挟む
クリスマスイブ。『それって美味しいんですか?』と言いたくなるくらい、まったくクリスマスらしいことの予定なし。
遼ちゃんは映画の撮影がずっと続いているようで、地方に行ってていないし。
『ごめんね』
うっ。いいもん。お仕事だもんね。仕方ないもんね。
そういう私も、仕事が忙しいといって、なかなか会うタイミングが合わなかったのも事実。
事務所の公式サイトに載ってるイケメンに撮れてる自撮り写真を見ながら、我慢する日々。今まで会ってもスマホに一緒に撮るのを忘れちゃう。これじゃ、ファンと変わらない。首にしたネックレスとL〇NEでのやりとりだけが、私と遼ちゃんが繋がってる証。
会わない時間が愛を育てるって昔の歌にはあったけど、私はどんどん『自信がない自分』が育ってる。
続々とフロアの人々が帰っていく中、うちのチームだけ残っている。
「神崎、そろそろ上がれば?」
「あー、あと少し……やりたいことがあるんで……」
というか、下手に家に帰って、いろいろ考えたくない、という情けない理由があるものだから、自然と情けない顔になる。
「んー、じゃあ、時間区切ろう。今日みたいな日に、だらだら仕事しても精神衛生上よくない」
ニヤっと笑って時計を見上げる本城さん。
「神崎、この後、予定ないのか?」
顔をあげずに、聞いてくる笠原さん。そんなこと聞くなんて、辛すぎる。
「残念ながら、ございません」
「本城は?」
「……それ、聞く? この時間に?」
苦笑いしながらも、相変わらずパソコンから顔をそらさない笠原さん。
「じゃあ、あと一時間で終わらせよう。で、飲みに行こうぜ。寂しい者同士で」
「さ、寂しい者……悲しいです……」
はぁ、とため息をつき、一時間後に終わらせるように気持ちを引き締める。結局、強引に終わらせて会社を出るはめになる。
「なんか、情けないわねぇ」
「はっはっは、仕方ないだろ」
「ていうか、色気がないというか」
「なんだよ、文句言わずに、飲め」
ガード下の飲み屋。仕事があがった頃に入ろうと思ってた店は満席で、寒さに負けて、放浪の旅は断念。駅の近くのこの店に入った。
コートの襟をたてながら、アルコールの力が暖房代わり。確かに同僚三人で、ガード下の飲み屋で、つまみをつつきつつ飲んでる姿には、色気の『い』の字もない。
「というか、なんで本城、予定ないって」
笠原さんの頭の少し上あたりを、まるで睨むように見ながら、ぽつりと言ったのは。
「今、冷却期間中」
「はぁ!?」
初耳だったのか、笠原さんが驚いた顔で本城さんを見つめた。
「なんだ、それ。聞いてないし」
「私は今言ったし」
「てか、崇《たかし》も水臭いよなぁ」
「言う必要もないし」
ぶすっとした顔で、おでんをつつく本城さん。
「あ、坂本さんって、崇っていうんですか」
「うん……って、なんで神崎さんが知ってるのよ」
笠原さんを睨む本城さん。
「まぁ、なんだ。別にいいじゃん」
苦笑いしながら、空いているグラスを戻す仕事をする。さすが、フットワーク軽い。
「冷却期間って、このまま別れるのか?」
「……わかんない」
「なんだよ、俺はすっかり結婚式のスピーチを任せられると思って、準備してたのに」
「ぷっ。あんたに頼むとは限らないでしょうが」
本当に二人は仲がいいんだなぁ、と、つくづく思う。
「……しばらく離れてみて、やっぱりお互いが必要って思えば、戻るだろうし、いなくてもなんとかなっちゃった、っていうなら、そのまま別れるだろうし」
「冷めてんなぁ」
「なんかねぇ、お互いが結婚を意識したタイミングがずれてたっていうか。今は、二人ともが、仕事が楽しいっていうか。まぁ、坂本くんは異動決まったばっかりで、余裕もないし」
「本当にタイミングって大事なんですね……」
しみじみ思いながら、梅酒をちびり。
「そうよ~。本当に大事。ここぞ! という時が来たら、迷わずGO!よっ!」
経験者の発言は重い、と、つくづく思った。
遼ちゃんは映画の撮影がずっと続いているようで、地方に行ってていないし。
『ごめんね』
うっ。いいもん。お仕事だもんね。仕方ないもんね。
そういう私も、仕事が忙しいといって、なかなか会うタイミングが合わなかったのも事実。
事務所の公式サイトに載ってるイケメンに撮れてる自撮り写真を見ながら、我慢する日々。今まで会ってもスマホに一緒に撮るのを忘れちゃう。これじゃ、ファンと変わらない。首にしたネックレスとL〇NEでのやりとりだけが、私と遼ちゃんが繋がってる証。
会わない時間が愛を育てるって昔の歌にはあったけど、私はどんどん『自信がない自分』が育ってる。
続々とフロアの人々が帰っていく中、うちのチームだけ残っている。
「神崎、そろそろ上がれば?」
「あー、あと少し……やりたいことがあるんで……」
というか、下手に家に帰って、いろいろ考えたくない、という情けない理由があるものだから、自然と情けない顔になる。
「んー、じゃあ、時間区切ろう。今日みたいな日に、だらだら仕事しても精神衛生上よくない」
ニヤっと笑って時計を見上げる本城さん。
「神崎、この後、予定ないのか?」
顔をあげずに、聞いてくる笠原さん。そんなこと聞くなんて、辛すぎる。
「残念ながら、ございません」
「本城は?」
「……それ、聞く? この時間に?」
苦笑いしながらも、相変わらずパソコンから顔をそらさない笠原さん。
「じゃあ、あと一時間で終わらせよう。で、飲みに行こうぜ。寂しい者同士で」
「さ、寂しい者……悲しいです……」
はぁ、とため息をつき、一時間後に終わらせるように気持ちを引き締める。結局、強引に終わらせて会社を出るはめになる。
「なんか、情けないわねぇ」
「はっはっは、仕方ないだろ」
「ていうか、色気がないというか」
「なんだよ、文句言わずに、飲め」
ガード下の飲み屋。仕事があがった頃に入ろうと思ってた店は満席で、寒さに負けて、放浪の旅は断念。駅の近くのこの店に入った。
コートの襟をたてながら、アルコールの力が暖房代わり。確かに同僚三人で、ガード下の飲み屋で、つまみをつつきつつ飲んでる姿には、色気の『い』の字もない。
「というか、なんで本城、予定ないって」
笠原さんの頭の少し上あたりを、まるで睨むように見ながら、ぽつりと言ったのは。
「今、冷却期間中」
「はぁ!?」
初耳だったのか、笠原さんが驚いた顔で本城さんを見つめた。
「なんだ、それ。聞いてないし」
「私は今言ったし」
「てか、崇《たかし》も水臭いよなぁ」
「言う必要もないし」
ぶすっとした顔で、おでんをつつく本城さん。
「あ、坂本さんって、崇っていうんですか」
「うん……って、なんで神崎さんが知ってるのよ」
笠原さんを睨む本城さん。
「まぁ、なんだ。別にいいじゃん」
苦笑いしながら、空いているグラスを戻す仕事をする。さすが、フットワーク軽い。
「冷却期間って、このまま別れるのか?」
「……わかんない」
「なんだよ、俺はすっかり結婚式のスピーチを任せられると思って、準備してたのに」
「ぷっ。あんたに頼むとは限らないでしょうが」
本当に二人は仲がいいんだなぁ、と、つくづく思う。
「……しばらく離れてみて、やっぱりお互いが必要って思えば、戻るだろうし、いなくてもなんとかなっちゃった、っていうなら、そのまま別れるだろうし」
「冷めてんなぁ」
「なんかねぇ、お互いが結婚を意識したタイミングがずれてたっていうか。今は、二人ともが、仕事が楽しいっていうか。まぁ、坂本くんは異動決まったばっかりで、余裕もないし」
「本当にタイミングって大事なんですね……」
しみじみ思いながら、梅酒をちびり。
「そうよ~。本当に大事。ここぞ! という時が来たら、迷わずGO!よっ!」
経験者の発言は重い、と、つくづく思った。
0
お気に入りに追加
62
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
淫らな蜜に狂わされ
歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。
全体的に性的表現・性行為あり。
他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。
全3話完結済みです。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
地味女で喪女でもよく濡れる。~俺様海運王に開発されました~
あこや(亜胡夜カイ)
恋愛
新米学芸員の工藤貴奈(くどうあてな)は、自他ともに認める地味女で喪女だが、素敵な思い出がある。卒業旅行で訪れたギリシャで出会った美麗な男とのワンナイトラブだ。文字通り「ワンナイト」のつもりだったのに、なぜか貴奈に執着した男は日本へやってきた。貴奈が所属する博物館を含むグループ企業を丸ごと買収、CEOとして乗り込んできたのだ。「お前は俺が開発する」と宣言して、貴奈を学芸員兼秘書として側に置くという。彼氏いない歴=年齢、好きな相手は壁画の住人、「だったはず」の貴奈は、昼も夜も彼の執着に翻弄され、やがて体が応えるように……
月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~
真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる