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第3章 夏休みの私と人気俳優の彼

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 部屋の外が騒がしくなった。

「美輪~、お兄ちゃん帰ってきたわよ~」

 母の暢気な声が響く。

「一馬っ!」
「おうっ!」

 二人そろって部屋を飛び出すと、長い廊下を走った。
 玄関先には、小さな鞄だけ持った兄、吾郎がいた。

「兄ちゃん!」
「吾郎兄!」

 二人同時に飛びついた。

「おいおいっ、二人は無理だろっ!」

 そう言いながら、百九十センチ近い巨体で抱き留めてくれる兄。

「お帰りなさ~い!」
「お正月以来だね!」
「一馬、もうでかいんだから、やめろや~。重いってーの」
「吾郎兄なら大丈夫だっ!」

 兄にじゃれつきながらついていく一馬。
 ちょっと、私のお兄ちゃんなんですけどっ!
 普段は大阪のIT企業にお勤めの一回り年上の兄・吾郎。アメフトで鍛えた巨体のわりに、システムエンジニアをやってる。
 ふふ。身体の大きい笠原さんとの共通点かもしれない。

「美輪、仕事はどうだ?」
「うん、大変だけどがんばってるよ」
「一馬は、大学何年になったんだっけ?」
「もう、今年入学したばっかりだよ。」
「そうか~。お前もでかくなったよなぁ。」
「兄ちゃん、お嫁さんは? まだ結婚しないの?」
「お前なぁ……相手がいなきゃ、無理だっつーの」

 身内贔屓かもしれないけど、兄はそこそこのイケメンだとは思うんだけどな。

「お前は、どうなんだよ。彼氏、できたか?」

 一瞬凍りつく私。自分で墓穴掘ってどうするんだ。無言のままの私に、勝手に判断する兄。

「……はっはっは。まぁ、いいさ。もし、できたら親父より先に俺に紹介しろ。俺がちゃんと見てやる」
「……はははは」

 白い眼で一馬に見られている気がする。でも、まだ、つ、つっきあってるわけじゃないし。

 一番広い和室に大きな低いテーブルを出して、そこに大皿に盛った料理が並べられていく。実家でみんなで夕飯を食べるのは久しぶり。
 兄も忙しくしているようで、なかなか実家に戻ってこない。システムエンジニアのくせに、L〇NEもやらず、連絡手段はメールだけ。そのメールだって、ほとんどくれない。まぁ、私じゃなくて、かわいい誰かがいればいいんですけど。
 久しぶりに息子を見る両親の嬉しそうな顔。でも、兄もそろそろいい年。孫とか早く見たいとか、思うのかなぁ。

「美輪、これ食わないなら、ちょうだい」

 油断した好きに、から揚げを一馬に盗まれた。

「あっ! 最後に残してたのにっ!」

 モグモグしながら、ニヤっとする一馬。

「……ふ。隙があるほうが悪いんだよ。あー、やっぱ、おばちゃんのから揚げ、うめぇぇっ!」

 さりげにおべっか使う一馬がムカツク。

「ご馳走様!」

 そういって、すぐにテレビの前を陣取る一馬。

「へっへっへ、今日、俺がエキストラで出てたドラマの放送あるんだよねぇ。」

 スマホを片手にテレビのチャンネルを変えつつ、呟く。

「今度は何に出てるんだ?」

 和室から、兄の声が飛ぶ。

「サスペンスドラマ! 死体役じゃないよっ」

 言いながら、スマホをいじりだす。

「見つけるのが楽しみだな。見つかる大きさで映ってれば。」

 母に茶碗を渡しながら、ニヤニヤする兄。

「吾郎兄、ひどいっ」

 スマホの画面から目をあげず、こいつもニヤニヤ。ふっと目をあげたと思ったら、

「美輪、美輪のスマホどうした?」
「鞄の中だよ。」
「早く、見たほうがいいと思うぜ」

 悪魔の微笑みを浮かべた一馬に、絶対見ない方がいい、と私は本能的に思った。
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