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第3章 夏休みの私と人気俳優の彼

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 世の中はお盆休みの時期になった。
 わが社もご多分に漏れず、だいたいの部署がカレンダー通りの夏休みとなった。
 あれから、遼ちゃんからは二、三回、L○NEがきてたけど、

『今、ここにいまーす』とか、『これ、美味しかったです』とか。そんな話だけ。
 それも一馬もいるグループに。

 結局、あれはなんだったんだろう、と、思い出すと、赤面せずにはいられない。
 なんか、バカやっちゃったみたい。やっぱり、遼ちゃんにからかわれただけなのかな、と、半分ほっとしてる自分がいた。



 朝からマンションを出て昼過ぎには実家に戻ると、うちが仏壇守ってるせいもあって、一馬の家族も来ていた。

「美輪、またエキストラ行こうな」

 ニヤニヤしながら話しかけてくる一馬とは、半年ぶりくらいか。男の子の成長は早いもので、たったそれだけの期間なのに、少し大人っぽくなっている。

「エキストラ……は、いいや。今の仕事だけで手いっぱいだもの」
「なんだよ、つれないなー」

 ははは、と笑ってごまかして、自分の部屋に逃げ込んだ。
 ここ数年、ほとんどいなかったから、自分の部屋という気分にはならないけど。古いエアコンを動かして、なんとか一息つける状態にしたところで、ドアをノックする音がした。

「美輪、いいかなぁ」

 一馬の声だ。

「何?」

 ドアを開けて入ってくる一馬は、どこか神妙な面持ち。

「んとな……」
「うん」
「最近、遼ちゃんと会った?」
「あー、うん」
「それ、どこで?」
「……うちのマンション」
「!? マジかっ! あいたたたた……」

 本当にどこかが痛いんじゃないかっていう感じで、頭に手をあてる一馬。

「……ごめんな、それ、俺が住所教えたんだ。遼ちゃんに頼まれて」
「遼ちゃんをストーカーにさせたのは、一馬か」

 思わず出た低い声と共に、白い眼を向ける。

「えぇぇぇ、ストーカーって何?」

 思った以上に驚く一馬に、とりあえず、遼ちゃんが同じフロアに引越してたことを伝え、稀に遭遇することもあるという話はした。

「まじか……俺、遼ちゃんにいろいろ相談されてたんだ……年下に相談ってなんだよ、って思うけど」

 ああ、私もあんたに今の状況を相談してしまいたい。

「でもね、美輪。本当に遼ちゃん、ずっと美輪のこと好きだったんだよ」
「……」
「ずっと、ずっと、好きだったんだよ」
「……それ、一馬に言われても嬉しくない」
「ぐっ!?た、確かにっ!」

 そんなのは本人から聞きたいわけで。まぁ、もう「好き」って言ってもらったけど(は、恥ずかしい)。
 でも、やっぱり、俳優さんだから、演技なんじゃないの?って、からかってるだけじゃないの?って、思って、逃げたくなるのも事実。

「まぁなぁ。あそこまでイケメンになるとも思ってなかったしな」

 ニヤニヤする一馬。
 ……殴っていいですか?

「まぁ、あれだ。愛の力ってやつ?ってことにしといてやれよ」

 あんたは、他人事だと思って。

「それと、これは誕生日プレゼント」

 そういって、渡してくれたのは、美術館のチケット二枚。

「へへ。今のバイト先でもらったんだけどさ。嫌いじゃないでしょ?」
「ありがたいけどさ、二枚って、一緒に行ってくれる人いないし」
「遼ちゃんは? ……と言いたいところだけど、あいつは無理か」
「まぁ、一人で二回いってもいいけどね。」

 チケットを受け取りながら、私は苦笑いしかでなかった。
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