おデブだった幼馴染に再会したら、イケメンになっちゃってた件

実川えむ

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第2章 新入社員の私に人気俳優の彼

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「そ、それは……お芝居の練習?」



 水を流しながら、つぶやく。



「芝居じゃないよっ」

「だって、遼ちゃんみたいなカッコイイ人が、私なんか……おかしいよ」

「おかしくないっ!」

「ほ、本気にしちゃうから、あんまり苛めないで」



 掠れた声しか出てこない。

 本当にそうだったらうれしい。

 うれしいけど、心のどっかでひっかかってる。



 そう。兵頭乃蒼とのキスシーン。



 あれだって、お芝居なんだってわかってるけど。

 あんなに綺麗なキスシーン、目が離せなくなったもの。



「……本気にしていいよ……ていうか、本気にしてほしい」



 なんでなんだろう。なんで私なんだろう。

 そして、うれしいはずなのに、こんなに苦しい。



「僕、美輪さんが女子校入ったから安心してた。きっと誰も僕の美輪さんを獲ったりしないって。美輪さんが女子大行っても心配なんかしなかった。」



 彼は、静かに話し続けた。



「だって、美輪さんは、どこへいっても美輪さんだと思ったから。」



 彼が私から少し離れていった。



「でも、エキストラで再会したとき」



 ベットに腰かけ、じっと見つめる彼の顔は真剣で



「うっすら化粧してた美輪さんが、どれだけ可愛くなってたか、僕の予想を越えてた」



 大きく開く黒い瞳は、やっぱり魔力を持っていて



「わかる?あの時、僕はもう一度、恋に落ちてたって。」



 金縛りのように、動けない私がいる。



「だけど、役者の仕事も増えて来て、なかなか美輪さんとも会えなくて。」



 優しい微笑みは、私の心も縛り付ける。



「でも、心の中で、まだ大丈夫だって思ってた。」



 目の奥が熱くなる。



「美輪さんが会社に入って間もない頃、たまたま見かけたんだ。夜、大勢のスーツを着た新人っぽい人たちの中にいる美輪さんを。」



 だんだんと涙がたまってくるのがわかるのに、動けない。



「嫌だって思った。誰かが気づいちゃうって。誰かに獲られちゃうかもって。」



 再び立ち上がって、近づいてくるこの人は、誰?



「ちょうどその頃、雑誌の表紙の話が来たんだ」



 はにかんだ笑顔。



「少しは、美輪さんのそばにいられる? 仕事、手伝える? って思った。」



 伸ばされた右手が、私の頬をなでる。



「そしたら、美輪さんが、先輩と仲良くしているし。」



 目の前に、彼の瞳があった。



「もう、我慢できなかった。」



 彼は、やさしくキスをした。

 始めは啄むように、何度も何度も唇を重ねた。まつ毛に覆われた大きな瞳がじっと私の目を離さない。大きな手が私の頭を抱え込み、彼に身体ごとすいついてしまいそう。薄く開いた唇から、赤い赤い舌が、私の唇を優しく撫でる。

 それだけで、気が遠くなりそうなのに



 彼は私の唇ごと……食べようとする。



 ……こ、これってディープキス!?



 彼の瞳が、彼の唇が、彼の匂いが、私を麻痺させる。彼の舌が、私を離さない楔のようで。このまま溺れてもいいかも……



 ピンポーン



 突然の玄関のチャイムに固まった二人。



 ピンポーン



 ハッとして、遼ちゃんの腕の中から離れた。



「チッ」



 え?まさかの舌打ち?

 たぶん、『ぽっかーん』という音が聞こえたかもしれない。私の顔を見て苦笑いした遼ちゃん。



「タイムアップかな」



 離れた私を、もう一度抱き寄せて、きつく抱きしめる。そして、深いため息をついて、私から離れて、玄関をあけた遼ちゃん。



「遼くん、もういいかな」



 そこには、見知らぬ男の人が立っていた。

 遼ちゃんより少し背が高くて、シルバーメタルのメガネ、前髪をあげて黒い髪を撫でつけてる。遼ちゃんが天使なら、この人は、まるでドラキュラ伯爵?



「よくない」



 思い切り不機嫌そうな顔の遼ちゃん。



「でも、約束ですから」



 この人、優しそうに微笑んでるけど、目が笑ってない。

 クッ、と睨みつけてる遼ちゃんは、まるでおもちゃを取り上げられた子供みたい。実際、私はおもちゃみたいなものかもしれない。



「時間内に落とせなかった、君の力不足です。」



 冷ややかに言うと、遼くんの襟首をつかんで部屋から引っ張り出した。



「遅い時間に失礼しました。明日もお仕事でしょうから、これで失礼します。」

「み、美輪さん、L〇NEするからっ!」



 その姿にドナドナの歌が頭をよぎった私なのであった。
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