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第2章 新入社員の私に人気俳優の彼
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遼ちゃんのつぶやきに反応せず、料理を続ける。
ピーピーピー、と炊飯器がお米が炊けた音が鳴る。
あ、食器。友だちが泊まりに来た時用に準備した茶碗しかないことを思い出す。
「遼ちゃん、お茶碗小さいけど、いいよね?」
「うん、おかわりするからいいよ」
まるで小さな子供のようなことを言うから、ちょっと可愛いって思ってしまう。
「ごめんね。お皿とかお客様用とかほとんど準備してなくて」
「ううん、一緒のお皿って、なんかいいね」
嬉しそうに笑う遼ちゃんに、私もつられて笑みが浮かぶ。
「いただきます」
「いただきます」
大きいお皿に盛った生姜焼きと、小皿のサラダに、カボチャの煮物。
それを二人でつつく。遼ちゃんの美味しそうに食べてる姿が、なんかうれしい。
「美輪さん、カボチャ、美味しい」
「そう?」
「うん。母さんの味と同じ」
おばさんも、めんつゆ使ってるのか。そう思ったら、クスッと笑ってしまう。
「お味噌汁も美味しいよ」
「ありがとう」
単純に、『美味しい』と言われるのはうれしい。そして、ふと、気づく。
「そう言えば私、初めて男の人ためにご飯作ったかも」
実家にいた時は、手伝いといっても母親の料理をテーブルに出すだけだった。
無意識に私が言った言葉が、遼ちゃんの手を止めた。
「そう……なんだ」
箸をくわえながら、にへらっと笑う遼ちゃん。
「こらっ。くわえちゃダメでしょ」
「えへへへ。ごめんなさい。でも」
目をキラキラしながら見つめる遼ちゃん。
その目には魔力でもあるのでしょうか。離せなくなった。
「『初めての男』って、響きがよくない?」
「りょ、遼ちゃんが言うとエロイよ」
遼ちゃんはクスクス笑いながら、どんどん食べてくれて、気が付けば見事に食器の中は空っぽになっていた。
食事を終えると、食器を受け取り、シンクへと重ねる。そして洗剤をスポンジに含ませて泡立てて、食器を洗い始める。
きっと結婚するとかって、こんな感じなのかな。
遼ちゃんがいるのも忘れて、ちょっとした妄想モードに入る。
自然と、口元にほほえみを浮かべてしまう。
不意に、背中に気配を感じた。
「……? 遼ちゃん?」
振り向く前に、後ろから抱きすくめられた。
「ど、どうした?」
「美輪さん……好きだ」
首筋に遼ちゃんの唇。熱い息。
絞り出すようにつぶやいた遼ちゃん。
「え、えと」
私は頭が真っ白になって、言葉が出てこない。
「僕のこと、嫌い?」
逃がさない、というばかりにギュッと抱きしめる。
「……」
「ストーカーみたいだから、嫌?」
「……き、嫌いじゃない」
遼ちゃんの一言一言が、首筋を伝って身体に響く。
小さな声で答えると、より一層強く抱きしめてくる。
「く、苦しいよ……」
私の呻き声に、パッと離れたかと思うと、肩をつかんでクルっと遼ちゃんの方を向かされた。
目の前の遼ちゃんは、期待に満ちた顔。
「美輪さんっ!」
再び抱きしめられた私。
「う、うげっ!?」
私、両手が泡だらけなんですがっ。
手の泡がひじまで垂れてきた。
「りょ、遼ちゃん、私、洗い物の途中なんだけど」
慌てて離れた遼ちゃん。
「ごめんっ」
この感情の起伏は、俳優の『相模 遼』では見せないのかな、と、ふと思った。
こういう振る舞いに、どうしても子供のころの遼ちゃんの姿が重なる。
外見は大人の男なのに、中身は子供の頃と変わらない。遼ちゃんの『好き』は、その延長なんじゃないかって、思ってしまう。
身体が自由になったので、苦笑いしながら、何も言わずに洗い物を続ける。
「ねぇ。美輪さん」
「うん」
「僕の彼女になって」
「!?」
「僕だけのものになってよ……」
弱々しく話し続ける遼ちゃん。
ピーピーピー、と炊飯器がお米が炊けた音が鳴る。
あ、食器。友だちが泊まりに来た時用に準備した茶碗しかないことを思い出す。
「遼ちゃん、お茶碗小さいけど、いいよね?」
「うん、おかわりするからいいよ」
まるで小さな子供のようなことを言うから、ちょっと可愛いって思ってしまう。
「ごめんね。お皿とかお客様用とかほとんど準備してなくて」
「ううん、一緒のお皿って、なんかいいね」
嬉しそうに笑う遼ちゃんに、私もつられて笑みが浮かぶ。
「いただきます」
「いただきます」
大きいお皿に盛った生姜焼きと、小皿のサラダに、カボチャの煮物。
それを二人でつつく。遼ちゃんの美味しそうに食べてる姿が、なんかうれしい。
「美輪さん、カボチャ、美味しい」
「そう?」
「うん。母さんの味と同じ」
おばさんも、めんつゆ使ってるのか。そう思ったら、クスッと笑ってしまう。
「お味噌汁も美味しいよ」
「ありがとう」
単純に、『美味しい』と言われるのはうれしい。そして、ふと、気づく。
「そう言えば私、初めて男の人ためにご飯作ったかも」
実家にいた時は、手伝いといっても母親の料理をテーブルに出すだけだった。
無意識に私が言った言葉が、遼ちゃんの手を止めた。
「そう……なんだ」
箸をくわえながら、にへらっと笑う遼ちゃん。
「こらっ。くわえちゃダメでしょ」
「えへへへ。ごめんなさい。でも」
目をキラキラしながら見つめる遼ちゃん。
その目には魔力でもあるのでしょうか。離せなくなった。
「『初めての男』って、響きがよくない?」
「りょ、遼ちゃんが言うとエロイよ」
遼ちゃんはクスクス笑いながら、どんどん食べてくれて、気が付けば見事に食器の中は空っぽになっていた。
食事を終えると、食器を受け取り、シンクへと重ねる。そして洗剤をスポンジに含ませて泡立てて、食器を洗い始める。
きっと結婚するとかって、こんな感じなのかな。
遼ちゃんがいるのも忘れて、ちょっとした妄想モードに入る。
自然と、口元にほほえみを浮かべてしまう。
不意に、背中に気配を感じた。
「……? 遼ちゃん?」
振り向く前に、後ろから抱きすくめられた。
「ど、どうした?」
「美輪さん……好きだ」
首筋に遼ちゃんの唇。熱い息。
絞り出すようにつぶやいた遼ちゃん。
「え、えと」
私は頭が真っ白になって、言葉が出てこない。
「僕のこと、嫌い?」
逃がさない、というばかりにギュッと抱きしめる。
「……」
「ストーカーみたいだから、嫌?」
「……き、嫌いじゃない」
遼ちゃんの一言一言が、首筋を伝って身体に響く。
小さな声で答えると、より一層強く抱きしめてくる。
「く、苦しいよ……」
私の呻き声に、パッと離れたかと思うと、肩をつかんでクルっと遼ちゃんの方を向かされた。
目の前の遼ちゃんは、期待に満ちた顔。
「美輪さんっ!」
再び抱きしめられた私。
「う、うげっ!?」
私、両手が泡だらけなんですがっ。
手の泡がひじまで垂れてきた。
「りょ、遼ちゃん、私、洗い物の途中なんだけど」
慌てて離れた遼ちゃん。
「ごめんっ」
この感情の起伏は、俳優の『相模 遼』では見せないのかな、と、ふと思った。
こういう振る舞いに、どうしても子供のころの遼ちゃんの姿が重なる。
外見は大人の男なのに、中身は子供の頃と変わらない。遼ちゃんの『好き』は、その延長なんじゃないかって、思ってしまう。
身体が自由になったので、苦笑いしながら、何も言わずに洗い物を続ける。
「ねぇ。美輪さん」
「うん」
「僕の彼女になって」
「!?」
「僕だけのものになってよ……」
弱々しく話し続ける遼ちゃん。
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