上 下
95 / 95
エピローグ

89

しおりを挟む
 へリウスの母国、獣人の国、ウルトガ王国に移住し、彼の養子になって、5年が経った。
 俺も10歳になり、冒険者ギルドに登録できる年齢になった。

 へリウスの正式な名前が、『へリウス・フォン・ゴードン』というのを知ったのは、養子縁組の書類を見た時。
 俺の名前は『ハル・ゴードン』という名前に変わった。『フォン』がついていないのは、俺がゴードン家の血筋ではないというのと、継承権のない『養い子』という立場のためなのだとか。

 養子になったからといって、さすがにへリウスを『父上』だの『お父様』だのと呼ぶ気にはならず、いまだに『へリウス』呼びだ。もう慣れたのか、何も言わなくなったが、最初の頃のへリウスは、相当凹みまくっていた。

「へリウス、行ってくる!」
「おう、気をつけてな!」

 屋敷のエントランスで、狼獣人の赤ん坊を抱えたへリウス。腕の中で眠っているのは、産まれて3カ月の長女のクリステルだ。
 唯一の女の子にデロデロのへリウスに見送られ、屋敷を飛び出していく。

「ハル、忘れ物は? 大丈夫っ?」

 屋敷の2階、大きな窓から身を乗りだして叫ぶのは、へリウスの奥さん、俺の義母にあたるメイリン義母さん。
 三人目を産んで間もないのに、すでに領主としての仕事をこなしている、働くお母さんだ。
 後から知ったのだけれど、へリウスは入り婿で、メイリン義母さんの方が子爵という爵位を持っている人だったのにはビックリだった。
 そりゃぁ、領主のお仕事をするわけだ。

「大丈夫!」

 背中に背負ったリュックを見せて、親指を立ててみせる。メイリン義母さんは、輝くような笑顔で同じように指を立てて返事を返してきた。
 メイリン義母さんは、人族でへリウスの番。その上、元日本人っていう前世をもっているという、情報盛りだくさんな女性だ。そのせいもあってなのか、この世界の貴族のご婦人らしからぬ、サバサバした女性でもある。
 あのへリウスが粘って粘って、番ってもらったらしい。

 今日は、魔の森の外縁で常設の薬草採取の依頼に出かけることになっていた。
 へリウスの息子で、俺の義兄、長男のサイラスが待ちきれなさそうな顔で、屋敷の門の前で足踏みしている。

「ハル、急ぐぞ」

 今日は学校が休みで家に戻ってきていたサイラスは、ヤル気満々だ。 
 サイラスは俺より3歳ほど年上で、でも、獣人の方が身体が大きく育つらしく、もっと年上に見える。
 思い切り走り出すサイラスの後を、必死に追いかける俺。
 獣人のパワーは半端ないんだけど、俺も精霊魔法で風の精霊に助けてもらいながら、なんとかついていく。

「ニ、ニコラスはっ?」
「はっ、あいつは婚約者様とお約束だとさ」
「あー、大変だーねー」

 俺の1歳上の次男のニコラスも、行きたがってたのを思い出す。

「お、来た来た」
「待ってたわよ」

 街の出入口の前で、二人の人族が俺たちを笑顔で迎えてくれた。
 彼らは、ミーシャさんのところで出会った、アルフレッドとシャーリーだ。彼らは、ミーシャさんの義兄夫婦の所の子で、ウルトガ王国に留学に来ているのだ。
 すでにアルフレッドは自分の国でCランクにまでなっていて、俺たちのリーダー的存在だ。なんでも、アルフレッドの家は、全員が冒険者ギルドに登録している家だそうだ。それは妹のシャーリーも例外ではない。
 今日は俺の採取依頼の護衛ってことで、3人がついてきているけど……実際は、それを口実に、周辺で魔物の討伐をするつもりらしい。

「さぁ、さっさと討伐してこようぜ!」
「フフフ、サイラス様ってば、ヤル気ですわね」

 ……何気に仲良しのサイラスとシャーリーを先頭に、俺とアルフレッドは、後をついていく。

「ハルは無理はするなよ」

 5年経っても、それほど成長しない俺は、小柄なままだ。
 それがエルフ仕様っていうのなら仕方がないんだけれど、どうもそうとも言えないらしい。

「うん、アルフレッドも……サイラスたちに気を付けてね」
「ああ」

 妹たちの様子に苦笑いするアルフレッド。俺もつられて笑みを浮かべた。



 あれから、母方の一族からの接触はなかったけれど、たまにやってくるアーロン曰く、未だにあちらの大陸の冒険者ギルドには、俺の手配書は貼り出されたままらしい。所謂、塩漬け案件というヤツになっているそうだ。
 そうは言っても、エルフ。時間の感覚が他の種族とは異なることもあって、5年程度じゃ、大した事ではないらしい。
 いつか、こっちの大陸にまで手を伸ばしてくるんじゃないか、そんな気がしてならない。

 ――今の俺は、まだまだ子供だ。

 でも、いつまでも逃げていられない、そんな気がする。 
 だから、強くなって、自分で身を守れるようにならないといけない。

『ハル、探している薬草はこれじゃないか?』
『ほら、あの辺に密集してるわよ』
『あっちにもあるぞ』

 ――今の俺は、子供だけれど、一人じゃない。

 あれから、風以外の精霊王様たちに加護を頂き、火・水・土と、それぞれの精霊が俺の周りについてまわるようになった。
 ちびっ子精霊の彼ら曰く、俺の護衛なのだとか。

「ありがとう!」

 俺は張り切って、薬草の前にしゃがみこむ。
 少し離れたところでアルフレッドが、周囲を警戒しているのを確認して、こっそり精霊魔法で、自分の周りだけという狭い範囲の結界を張る。

 ――今の俺は、子供だけれど、もっともっと強くなって、自分のことは自分で守れるようになってやる。 

 少し離れたところで、サイラスたちの歓声が聞こえた。
 何か魔物を狩ったのだろう。

「俺も早く冒険者ランク上げたいな」
『大丈夫さ。ハルなら、あっという間さ』
『そうよ! でも、危ないことはしないでね』
『俺たちがいるから、大丈夫さ。焦らず、行こうぜ!』
「ああ、そうだね」

 俺は、ニヤリと子供らしからぬ悪い笑みを浮かべてみせると、採った薬草をまとめて、サイラスたちの方へと向かうのだった。

(了)
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(4件)

gimi
2023.01.28 gimi

楽しみに待ってました!! m(_ _)m

解除
ダーリン
2022.03.13 ダーリン

更新楽しみに待ってます!

実川えむ
2022.03.14 実川えむ

お待たせしてすみません><。
余裕できましたら、更新します!

解除
スパークノークス

おもしろい!
お気に入りに登録しました~

実川えむ
2021.08.29 実川えむ

ありがとうございます。
頑張ります~!^^

解除

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

幼馴染と一緒に勇者召喚されたのに【弱体術師】となってしまった俺は弱いと言う理由だけで幼馴染と引き裂かれ王国から迫害を受けたのでもう知りません

ルシェ(Twitter名はカイトGT)
ファンタジー
【弱体術師】に選ばれし者、それは最弱の勇者。 それに選ばれてしまった高坂和希は王国から迫害を受けてしまう。 唯一彼の事を心配してくれた小鳥遊優樹も【回復術師】という微妙な勇者となってしまった。 なのに昔和希を虐めていた者達は【勇者】と【賢者】と言う職業につき最高の生活を送っている。 理不尽極まりないこの世界で俺は生き残る事を決める!!

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。