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第10章

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「姉さん、それ、へリウス様に対しても言える?」

 おう……。
 普段、穏やかなアーロンが珍しく、マジで怒っているよ。
 
「わかってる、わかってるわよ」

 アーロンのお姉さんがニヤニヤしだした。

「……何、もしかして、試したの?」
「いやぁ、アーロンもちゃんとジラート一族だなぁ、と思ってね」
「当たり前のことを言うなよ」

 2人だけで何やら通じているらしいんだが。置いてけぼりの俺は、2人の顔を見比べる。

「とりあえず、中に入って話すわよ」
「わかった」

 アーロンは俺を抱きかかえて、商会の中へと入っていく。アーロンはここでは顔が知られているようで、みんな挨拶なり、声をかけてくる。それに一々応えているアーロン。

「人気者だねぇ」
「は? ああ、まぁ、しょっちゅう、こき使われてるからな」

 なるほどね。
 前を歩くお姉さんの後姿に、確かに、あれに歯向かうのは、厳しそうだな、と俺でも思った。
 俺たちは事務所のようなところを抜け、プライベートスペースらしき部屋へと案内された。ソファに座り、周囲を見渡す。見た目はシンプルそうなのに、お金がかかっていそうな気がするのは気のせいではないだろう。それだけ、ノドルドン商会というのが大手ということを改めて思い知る。

「さぁ、コークシスのお茶よ。さて、ぼくには、こっちの乳入りのお茶ね」

 ミルクティーというやつだ。こっちの世界に来てからは初めて見る。
 ティーカップに口をつけてみると、すごく甘い。お茶の香りも、懐かしい香りだ。

「これは聖女様から教えていただいたの。美味しいでしょ?」

 お姉さんも、俺と同じミルクティーを口にして、にっこりと笑う。

「俺も、それがいいな」
「あら、お前は甘いのは好きじゃなかったでしょ? これ、甘いわよ?」
「え、だったらいいや」

 素直にストレートティーらしきお茶を飲むアーロン。

「さてと、ちょっと待ってね」

 お姉さんはソファの脇にあったサイドテーブルから、オルゴールのような物を取り出した。それの蓋を開けたとたん、キーンッという高音が聞こえたと同時に、周囲から遮断されたような感じを受ける。

「何、何が起きた?」

 俺は隣に座っているアーロンの腕に捕まる。

「ごめん、ごめん。一応、防音の結界を張ったのよ。これは、それ専用の魔道具」
「……それってテントについてるあるやつと同じ?」
「ああ、へリウス様のテントのことね! そう、それと同じ。ただ、これは密閉された室内限定、というのと、あくまで防音だけなのよ」

 どうもへリウスのテントは、ノドルドン商会で購入したものだったらしい。
 色々な魔道具があるんだなぁ、と感心してたら、でもメチャクチャお高いのよ、と言われてしまった。俺でも買えるようになるのは、いつになるのだろうか。それを考えたら、ちょっと、遠い目になってしまった。
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