75 / 95
第9章
閑話:エルフ王の妄執
しおりを挟む
冒険者ギルドに手配書を出して、そろそろ4か月を過ぎようとしているが、一向にアカシアの子供の情報が上がってこないことに、デメトリオ国王は苛立ちを募らせていた。
「まだ、なのか」
ギロリと近くに控えていた宰相、ロブルス・ゴドフィンを睨みつけるが、当の宰相の方は、涼しい顔で「はい」とだけ答える。
「クソッ、クソッ、クソッ!」
デメトリオ国王は手近にあった書類の束に、怒りをぶつけるように殴りつける。おかげで、執務室の中は書類だらけになってしまう。
「陛下、書類に当たらないでください」
冷ややかな宰相の声にも、デメトリオ国王は臆することなく、再び睨みつける。
「なぜ、見つからん! 名前も性別も、それに容姿も載せたであろう?!」
ハルの名前と性別は、かつて逃亡直前までアカシアの侍女をしていた女を見つけ出し、拷問し、身内を人質にして吐かせた。容姿はアカシアをそのまま男性にしたものだった。なぜなら、人族とエルフの混血は、必然的にエルフに容姿が偏ることになることが多かったからだ。
実際のところ、ハルは両親それぞれの容姿を受け継いでいるせい(クルクルとしたくせ毛に青みがかった黒目は父、白銀の髪に尖った耳は母)で手配書とはまったく似てはいない。
しかし、デメトリオ国王の頭の中には、アカシアの姿しか考えられなかった。
「……手配書絡みでの報告は上がってきていませんが、それとは別にエルフの尋ね人の情報がございます」
「そんなのは、普通にあることではないのか」
「そうですね……ただそれがエルフの子供、となっているのです」
「なんだと……ここ100年ほどは、子供が生まれたなどという話は聞かないが」
「はい、それも本当に幼子のようで、見かけは人間の5、6才児だとか」
「それこそ、保護すべきではないかっ!」
「ただし……その子供の名前が『ハル』というらしいのです」
「っ!?」
デメトリオ国王は、その名前を聞いただけで身体が固まる。
「……なんだと」
「冒険者ギルドからの情報では、髪色は白銀でくせ毛。目の色は暗い色とだけしかされていません」
「それが、アレである可能性は」
「年齢的には、無理があるかと。むしろ、そのお子様の可能性の方が」
「なんということだ……人族の血の混じった者が増えているというのかっ!」
怒りで青白かった顔が、赤くなっていく。
「探せっ、探し出して……消せっ」
「貴重なエルフの子供ですが」
「例え、貴重であろうがっ、可能性があるのなら消すのだっ」
肩で息をしながら、怒鳴り散らすデメトリオ国王を、宰相は冷ややかな目で見つめる。
「……畏まりました」
宰相は感情を押し殺した声で返事をし、軽く会釈だけすると荒れた執務室から出ていった。
「……アレはアカシア様に憑りつかれているようなものだな」
ドアの前で宰相の軽蔑しきった声でそう言うと、そのまま振り返りもせずにその場を立ち去ったのだった。
「まだ、なのか」
ギロリと近くに控えていた宰相、ロブルス・ゴドフィンを睨みつけるが、当の宰相の方は、涼しい顔で「はい」とだけ答える。
「クソッ、クソッ、クソッ!」
デメトリオ国王は手近にあった書類の束に、怒りをぶつけるように殴りつける。おかげで、執務室の中は書類だらけになってしまう。
「陛下、書類に当たらないでください」
冷ややかな宰相の声にも、デメトリオ国王は臆することなく、再び睨みつける。
「なぜ、見つからん! 名前も性別も、それに容姿も載せたであろう?!」
ハルの名前と性別は、かつて逃亡直前までアカシアの侍女をしていた女を見つけ出し、拷問し、身内を人質にして吐かせた。容姿はアカシアをそのまま男性にしたものだった。なぜなら、人族とエルフの混血は、必然的にエルフに容姿が偏ることになることが多かったからだ。
実際のところ、ハルは両親それぞれの容姿を受け継いでいるせい(クルクルとしたくせ毛に青みがかった黒目は父、白銀の髪に尖った耳は母)で手配書とはまったく似てはいない。
しかし、デメトリオ国王の頭の中には、アカシアの姿しか考えられなかった。
「……手配書絡みでの報告は上がってきていませんが、それとは別にエルフの尋ね人の情報がございます」
「そんなのは、普通にあることではないのか」
「そうですね……ただそれがエルフの子供、となっているのです」
「なんだと……ここ100年ほどは、子供が生まれたなどという話は聞かないが」
「はい、それも本当に幼子のようで、見かけは人間の5、6才児だとか」
「それこそ、保護すべきではないかっ!」
「ただし……その子供の名前が『ハル』というらしいのです」
「っ!?」
デメトリオ国王は、その名前を聞いただけで身体が固まる。
「……なんだと」
「冒険者ギルドからの情報では、髪色は白銀でくせ毛。目の色は暗い色とだけしかされていません」
「それが、アレである可能性は」
「年齢的には、無理があるかと。むしろ、そのお子様の可能性の方が」
「なんということだ……人族の血の混じった者が増えているというのかっ!」
怒りで青白かった顔が、赤くなっていく。
「探せっ、探し出して……消せっ」
「貴重なエルフの子供ですが」
「例え、貴重であろうがっ、可能性があるのなら消すのだっ」
肩で息をしながら、怒鳴り散らすデメトリオ国王を、宰相は冷ややかな目で見つめる。
「……畏まりました」
宰相は感情を押し殺した声で返事をし、軽く会釈だけすると荒れた執務室から出ていった。
「……アレはアカシア様に憑りつかれているようなものだな」
ドアの前で宰相の軽蔑しきった声でそう言うと、そのまま振り返りもせずにその場を立ち去ったのだった。
0
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~
いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。
他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。
「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。
しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。
1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化!
自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働!
「転移者が世界を良くする?」
「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」
追放された少年の第2の人生が、始まる――!
※本作品は他サイト様でも掲載中です。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
女神様から同情された結果こうなった
回復師
ファンタジー
どうやら女神の大ミスで学園ごと異世界に召喚されたらしい。本来は勇者になる人物を一人召喚するはずだったのを女神がミスったのだ。しかも召喚した場所がオークの巣の近く、年頃の少女が目の前にいきなり大量に現れ色めき立つオーク達。俺は妹を守る為に、女神様から貰ったスキルで生き残るべく思考した。
悠々自適な転生冒険者ライフ ~実力がバレると面倒だから周りのみんなにはナイショです~
こばやん2号
ファンタジー
とある大学に通う22歳の大学生である日比野秋雨は、通学途中にある工事現場の事故に巻き込まれてあっけなく死んでしまう。
それを不憫に思った女神が、異世界で生き返る権利と異世界転生定番のチート能力を与えてくれた。
かつて生きていた世界で趣味で読んでいた小説の知識から、自分の実力がバレてしまうと面倒事に巻き込まれると思った彼は、自身の実力を隠したまま自由気ままな冒険者をすることにした。
果たして彼の二度目の人生はうまくいくのか? そして彼は自分の実力を隠したまま平和な異世界生活をおくれるのか!?
※この作品はアルファポリス、小説家になろうの両サイトで同時配信しております。
キャンピングカーで往く異世界徒然紀行
タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》
【書籍化!】
コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。
早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。
そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。
道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが…
※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜
※カクヨム様でも投稿をしております
異世界召喚されたのは、『元』勇者です
ユモア
ファンタジー
突如異世界『ルーファス』に召喚された一ノ瀬凍夜ーは、5年と言う年月を経て異世界を救った。そして、平和まで後一歩かと思ったその時、信頼していた仲間たちに裏切られ、深手を負いながらも異世界から強制的に送還された。
それから3年後、凍夜はクラスメイトから虐めを受けていた。しかし、そんな時、再度異世界に召喚された世界は、凍夜が送還されてから10年が経過した異世界『ルーファス』だった。自分を裏切った世界、裏切った仲間たちがいる世界で凍夜はどのように生きて行くのか、それは誰にも分からない。
平凡冒険者のスローライフ
上田なごむ
ファンタジー
26歳独身動物好きの主人公大和希は、神様によって魔物・魔法・獣人等ファンタジーな世界観の異世界に転移させられる。
平凡な能力値、野望など抱いていない彼は、冒険者としてスローライフを目標に日々を過ごしていく。
果たして、彼を待ち受ける出会いや試練は如何なるものか……
ファンタジー世界に向き合う、平凡な冒険者の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる