上 下
68 / 95
第9章

63

しおりを挟む
 今俺は、狼獣人に抱えられて移動中。
 
「おっし、もう街が見えてきた」

 ご機嫌な声でそう言っている狼獣人。最初のうちこそ、ジタバタした俺だけど、エアーがこいつは悪いヤツじゃないって言うのと、悪い奴らが近づいてると教えてくれたので、大人しくしてた。
 コイツのスピード、へリウス並み。すでに日が落ちてるっていうのに、大きなリュックに俺という荷物を抱えながらスイスイ道を駆けていく。ゆっくり走っている馬車なんて、追い抜いてるし。
 そして、このスピードについてきてるのはエアーだけ。他の精霊の光の玉たちは、森の中で別れた。あの最初に声をかけてくれたヤツも、森で別れることになったのは、少し残念だったけど、力のない精霊たちでは仕方がないのだとか。
 いよいよ街に入るってところで、俺はフードでしっかり頭を隠す。また変なのに絡まれるのはゴメンだ。

「身分証を」
「ほいよ」

 街の入口で狼獣人はカードを見せると。

「ハッ!? もしや、『黄金の白狼』!?」
「げぇ、やめてくれよ、それ」
「はっ! し、失礼いたしましたっ!」
「で、通っていい?」
「ど、どうぞっ!」

 ……なんか、コイツ、有名人?
 おかげで俺へのチェックはスルーされたけど。
 狼獣人は、こじんまりした宿屋に入ったかと思ったら、決まった部屋でもあるのか、すぐに鍵だけ渡されて、そのまま部屋へと駆け込んだ。

「ふぃ~!」

 ドアを閉めたとたん、狼獣人は大きなため息をついたかと思ったら。

「おっし、とりあえず、ここまでくりゃ、大丈夫か」

 俺をストンと床に下した。そして、俺のフードをとりやがった。

「な、何すんだよっ!」

 慌てて、もう一度かぶろうとしたんだけど。

「ちょ、ちょっと確認させろ」

 そう言ってじーっと、見ると「よしっ、間違いねぇな」と言って二カッと笑った。

「お、お前、誰だよ」
「おお、そうだったな。その前に、荷物降ろしてっと……お前、腹減ってねぇ?」
「え、あ、うん、木の実食ってたから……」

 そう言って、俺はローブのポケットから手にいっぱいの木の実を見せる。

「すげぇな、お前。よく、そんだけ見つけられたな」

 狼獣人はリュックを床に降ろして、椅子にどっかと座った。

「ほれ、お前も座れ」

 そう言われて、俺も椅子に座った。そして落ち着いて部屋の中を見回してみれば、そこそこいい部屋なのがわかった。

「さてと、俺のことだったな。俺はアーロン・ジラート。一応、冒険者な」
「……俺はハル。その冒険者が俺になんの用だよ」
「おいおい、お前さんが呼び出したんだろうが」
「……呼び出す?」

 こいつは何を言ってるんだ? と思ったら、狼獣人、アーロンは再びリュックの方へ戻って、ゴソゴソと何かを探している。

「あった、あった」

 そう言うと、俺の目の前に掌より少し小さな丸い光の玉を差し出した。

「お前だろ? 『救援の玉』を使ったの?」
「……キュウエンノタマ? キュウ……あ、ああっ! 『救援の玉』!」

 そして俺は思い出した。
 あのへリウスが泥だらけでテントの中に倒れこんだ時のことを。あの時に使った封筒のことか! って、今頃!? ある意味、ナイスタイミングではあるけどさ!

「まぁ、お前が無事でよかったけどよぉ……それよりも、へリウス様はどうした?」

 真剣な顔で聞いてきたアーロン。
 それは、俺の方が知りたい!
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

転生5回目!? こ、今世は楽しく長生きします! 

実川えむ
ファンタジー
猫獣人のロジータ、10歳。 冒険者登録して初めての仕事で、ダンジョンのポーターを務めることになったのに、 なぜか同行したパーティーメンバーによって、ダンジョンの中の真っ暗闇の竪穴に落とされてしまった。 「なーんーでーっ!」 落下しながら、ロジータは前世の記憶というのを思い出した。 ただそれが……前世だけではなく、前々々々世……4回前? の記憶までも思い出してしまった。 ここから、ロジータのスローなライフを目指す、波乱万丈な冒険が始まります。 ご都合主義なので、スルーと流して読んで頂ければありがたいです。 セルフレイティングは念のため。

完結【真】ご都合主義で生きてます。-創生魔法で思った物を創り、現代知識を使い世界を変える-

ジェルミ
ファンタジー
魔法は5属性、無限収納のストレージ。 自分の望んだものを創れる『創生魔法』が使える者が現れたら。 28歳でこの世を去った佐藤は、異世界の女神により転移を誘われる。 そして女神が授けたのは、想像した事を実現できる創生魔法だった。 安定した収入を得るために創生魔法を使い生産チートを目指す。 いずれは働かず、寝て暮らせる生活を目指して! この世界は無い物ばかり。 現代知識を使い生産チートを目指します。 ※カクヨム様にて1日PV数10,000超え、同時掲載しております。

異世界転移しましたが、面倒事に巻き込まれそうな予感しかしないので早めに逃げ出す事にします。

sou
ファンタジー
蕪木高等学校3年1組の生徒40名は突如眩い光に包まれた。 目が覚めた彼らは異世界転移し見知らぬ国、リスランダ王国へと転移していたのだ。 「勇者たちよ…この国を救ってくれ…えっ!一人いなくなった?どこに?」 これは、面倒事を予感した主人公がいち早く逃げ出し、平穏な暮らしを目指す物語。 なろう、カクヨムにも同作を投稿しています。

完結【進】ご都合主義で生きてます。-通販サイトで異世界スローライフのはずが?!-

ジェルミ
ファンタジー
32歳でこの世を去った相川涼香は、異世界の女神ゼクシーにより転移を誘われる。 断ると今度生まれ変わる時は、虫やダニかもしれないと脅され転移を選んだ。 彼女は女神に不便を感じない様に通販サイトの能力と、しばらく暮らせるだけのお金が欲しい、と願った。 通販サイトなんて知らない女神は、知っている振りをして安易に了承する。そして授かったのは、町のスーパーレベルの能力だった。 お惣菜お安いですよ?いかがです? 物語はまったり、のんびりと進みます。 ※本作はカクヨム様にも掲載しております。

転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。

克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります! 辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

処理中です...