上 下
67 / 95
第8章

62

しおりを挟む
 道から少し離れたところを、忍び足で歩く。これはホビット族の村で狩りをする時に教えられた。まさか、こんな所で使うことになるとは思わなかった。
 その道は、時折、馬やら馬車が通り過ぎていくが、さすがに助けを求める気にはならない。あいつらの仲間ではない、と、判断がつかないから。
 俺はただ黙々と歩いていく。
 たまに、精霊の玉が、ふよふよと離れていったかと思ったら、食べられる木の実を取ってきてくれる。お腹いっぱいになっていても、止まらないので、それらはローブのポケットに入れている。今では、溜まりすぎて、ポッコリと膨れている。

 あの屋敷から離れて、何時間経っただろう。そろそろ日が暮れてきた。
 野営をしなくちゃならない、と思った時、こんな森の中じゃ、獣が出てもおかしくないことをも思い出した。下手をすれば、魔物だっている可能性だってある。今まではへリウスが守ってくれていたから、気にならなかっただけだ。

「まずいな……どうしよう……」
『どうかしたか?』

 思わず出た呟きに、エアーが反応した。

「もう日が落ちるだろ? どこかで野営しなきゃと思ったんだけど、俺、何も持ってないからさ」
『ヤエイ? ああ、野営か!』
「今までは運よく、獣や魔物とかには出会わなかったけどさ、夜になったら、わからないだろ?」
『大丈夫だと思うぞ?』
「へ?」

 なんと、精霊たちのおかげで、魔物たちは避けてくれてるらしいのだ。一つ、二つくらいじゃ、効き目はないのだけれど、これだけ大量にいると近寄ってこないのだとか。

「すげぇ……」
『もっとも、こんなに集まることは滅多にないがね』
「それでも、凄いよ」

 これが人の目には見えないっていうのは、残念なところだけれど、今の俺にはありがたい。精霊たち自身の光のおかげで、すでに暗くなっている森の中でも歩けている。

『……♪』
『なるほど、ハル』
「うん?」
『少し左奥に行ったところに、大きな木があるんだが、そこにハルが入れそうなくらいのうろがあるらしい。コイツが見つけてきたんだ』

 そう言って、エアーの隣に浮かぶ青い光の玉がぽよぽよ動いた。なんか自慢気に見えるのは気のせいだろうか。

「うろ? ああ、穴が開いてるってこと?」
『ああ。そこで今日は休むのはどうだ』
「そうだね……俺もいい加減、疲れたしな」

 実際、歩くペースも落ちてきている。青い光の玉が先行して目的の木へ行くのを、足を引きずるような感じでついていくと、本当に大きな木があった。

「おおお……」

 見上げたところで、夜空すら見えない。

『あそこだな』

 エアーに言われて目を向けると、光の玉たちが中に入って明滅している。なんか楽しそうだ。

「あれだけ大きいと、蜂とか虫がいたりしない?」
『大丈夫だ。あそこに先住するものはない』

 そう言われてホッとする。中をのぞくと枯れ草が敷き詰められていて、俺が横になっても十分な広さがありそうだ。

「はぁ……少し休もう。さすがに……俺も……疲れた」

 腰かけた瞬間、俺の疲れは限界だったみたいで、簡単に意識がとんでしまった。

            *  *  *  *  *

「お、やっと見つけたぜ……おい、おい、起きろ」
「う、う~ん……えっ!?」

 知らない男の声ととも、身体を揺らせて、無理やり起こされた。おかげで眠気もぶっとんだ。まさか、精霊たちがいなくなったのか、と思って、周りを見るが、少なくない数の光の玉は浮かんでいる。

「おい、大丈夫か?」

 そう優しく言われて、改めて男へと目を向ける。長い金髪のくせ毛を一つに結んでいて、その金髪からは大きな白い耳が出ている。

「あ……獣人……」

 すげぇ、イケメン。へリウスもイケメンだったけど、アレはワイルド系で、こっちのはもうちょっと細マッチョな王子様系って感じ。獣人って、みんなイケメンなのか?

 ……って、そんなことを考えている場合じゃない!
 まさか、あいつらの仲間か!?
 ヤバいっ!

 だけど、俺はびっくりし過ぎてて、反応が遅れてしまい、しっかり捕まえられてしまったのであった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

クラス転移で無能判定されて追放されたけど、努力してSSランクのチートスキルに進化しました~【生命付与】スキルで異世界を自由に楽しみます~

いちまる
ファンタジー
ある日、クラスごと異世界に召喚されてしまった少年、天羽イオリ。 他のクラスメートが強力なスキルを発現させてゆく中、イオリだけが最低ランクのEランクスキル【生命付与】の持ち主だと鑑定される。 「無能は不要だ」と判断した他の生徒や、召喚した張本人である神官によって、イオリは追放され、川に突き落とされた。 しかしそこで、川底に沈んでいた謎の男の力でスキルを強化するチャンスを得た――。 1千年の努力とともに、イオリのスキルはSSランクへと進化! 自分を拾ってくれた田舎町のアイテムショップで、チートスキルをフル稼働! 「転移者が世界を良くする?」 「知らねえよ、俺は異世界を自由気ままに楽しむんだ!」 追放された少年の第2の人生が、始まる――! ※本作品は他サイト様でも掲載中です。

家族全員異世界へ転移したが、その世界で父(魔王)母(勇者)だった…らしい~妹は聖女クラスの魔力持ち!?俺はどうなんですかね?遠い目~

厘/りん
ファンタジー
ある休日、家族でお昼ご飯を食べていたらいきなり異世界へ転移した。俺(長男)カケルは日本と全く違う異世界に動揺していたが、父と母の様子がおかしかった。なぜか、やけに落ち着いている。問い詰めると、もともと父は異世界人だった(らしい)。信じられない! ☆第4回次世代ファンタジーカップ  142位でした。ありがとう御座いました。 ★Nolaノベルさん•なろうさんに編集して掲載中。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

器用さんと頑張り屋さんは異世界へ 〜魔剣の正しい作り方〜

白銀六花
ファンタジー
理科室に描かれた魔法陣。 光を放つ床に目を瞑る器用さんと頑張り屋さん。 目を開いてみればそこは異世界だった! 魔法のある世界で赤ちゃん並みの魔力を持つ二人は武器を作る。 あれ?武器作りって楽しいんじゃない? 武器を作って素手で戦う器用さんと、武器を振るって無双する頑張り屋さんの異世界生活。 なろうでも掲載中です。

ズボラ通販生活

ice
ファンタジー
西野桃(にしのもも)35歳の独身、オタクが神様のミスで異世界へ!貪欲に通販スキル、時間停止アイテムボックス容量無限、結界魔法…さらには、お金まで貰う。商人無双や!とか言いつつ、楽に、ゆるーく、商売をしていく。淋しい独身者、旦那という名の奴隷まで?!ズボラなオバサンが異世界に転移して好き勝手生活する!

目立ちたくない召喚勇者の、スローライフな(こっそり)恩返し

gari
ファンタジー
 突然、異世界の村に転移したカズキは、村長父娘に保護された。  知らない間に脳内に寄生していた自称大魔法使いから、自分が召喚勇者であることを知るが、庶民の彼は勇者として生きるつもりはない。  正体がバレないようギルドには登録せず一般人としてひっそり生活を始めたら、固有スキル『蚊奪取』で得た規格外の能力と(この世界の)常識に疎い行動で逆に目立ったり、村長の娘と徐々に親しくなったり。  過疎化に悩む村の窮状を知り、恩返しのために温泉を開発すると見事大当たり! でも、その弊害で恩人父娘が窮地に陥ってしまう。  一方、とある国では、召喚した勇者(カズキ)の捜索が密かに行われていた。  父娘と村を守るため、武闘大会に出場しよう!  地域限定土産の開発や冒険者ギルドの誘致等々、召喚勇者の村おこしは、従魔や息子(?)や役人や騎士や冒険者も加わり順調に進んでいたが……  ついに、居場所が特定されて大ピンチ!!  どうする? どうなる? 召喚勇者。  ※ 基本は主人公視点。時折、第三者視点が入ります。  

兎人ちゃんと異世界スローライフを送りたいだけなんだが

アイリスラーメン
ファンタジー
黒髪黒瞳の青年は人間不信が原因で仕事を退職。ヒキニート生活が半年以上続いたある日のこと、自宅で寝ていたはずの青年が目を覚ますと、異世界の森に転移していた。 右も左もわからない青年を助けたのは、垂れたウサ耳が愛くるしい白銀色の髪をした兎人族の美少女。 青年と兎人族の美少女は、すぐに意気投合し共同生活を始めることとなる。その後、青年の突飛な発想から無人販売所を経営することに。 そんな二人に夢ができる。それは『三食昼寝付きのスローライフ』を送ることだ。 青年と兎人ちゃんたちは苦難を乗り越えて、夢の『三食昼寝付きのスローライフ』を実現するために日々奮闘するのである。 三百六十五日目に大戦争が待ち受けていることも知らずに。 【登場人物紹介】 マサキ:本作の主人公。人間不信な性格。 ネージュ:白銀の髪と垂れたウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。恥ずかしがり屋。 クレール:薄桃色の髪と左右非対称なウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。人見知り。 ダール:オレンジ色の髪と短いウサ耳が特徴的な兎人族の美少女。お腹が空くと動けない。 デール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ドール:双子の兎人族の幼女。ダールの妹。しっかり者。 ルナ:イングリッシュロップイヤー。大きなウサ耳で空を飛ぶ。実は幻獣と呼ばれる存在。 ビエルネス:子ウサギサイズの妖精族の美少女。マサキのことが大好きな変態妖精。 ブランシュ:外伝主人公。白髪が特徴的な兎人族の女性。世界を守るために戦う。 【お知らせ】 ◆2021/12/09:第10回ネット小説大賞の読者ピックアップに掲載。 ◆2022/05/12:第10回ネット小説大賞の一次選考通過。 ◆2022/08/02:ガトラジで作品が紹介されました。 ◆2022/08/10:第2回一二三書房WEB小説大賞の一次選考通過。 ◆2023/04/15:ノベルアッププラス総合ランキング年間1位獲得。 ◆2023/11/23:アルファポリスHOTランキング5位獲得。 ◆自費出版しました。メルカリとヤフオクで販売してます。 ※アイリスラーメンの作品です。小説の内容、テキスト、画像等の無断転載・無断使用を固く禁じます。

レベルを上げて通販で殴る~囮にされて落とし穴に落とされたが大幅レベルアップしてざまぁする。危険な封印ダンジョンも俺にかかればちょろいもんさ~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界に転移した山田(やまだ) 無二(むに)はポーターの仕事をして早6年。 おっさんになってからも、冒険者になれずくすぶっていた。 ある日、モンスター無限増殖装置を誤って作動させたパーティは無二を囮にして逃げ出す。 落とし穴にも落とされ絶体絶命の無二。 機転を利かせ助かるも、そこはダンジョンボスの扉の前。 覚悟を決めてボスに挑む無二。 通販能力でからくも勝利する。 そして、ダンジョンコアの魔力を吸出し大幅レベルアップ。 アンデッドには聖水代わりに殺菌剤、光魔法代わりに紫外線ライト。 霧のモンスターには掃除機が大活躍。 異世界モンスターを現代製品の通販で殴る快進撃が始まった。 カクヨム、小説家になろう、アルファポリスに掲載しております。

処理中です...