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第7章
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朝日が昇る少し前。まだ、空に夜の名残の蒼さが残っている頃。
俺たちは鬱蒼とした森の中の街道を走っていた。
正確には、俺を抱えたへリウスが走っている。
これ以上、厄介ごとを押し付けられる前に、町から離れることにしたのだ。正直、俺はかなりの寝不足だけど、そんなことは言ってられない。
「あっちの大陸だったら、俺のスレイプニルに乗せてやれたんだがな」
自慢げにそう話すへリウス。
スレイプニルというのは、足が八本ある馬の魔物らしい。どうやって走るんだよ? と不思議に思いつつ、あちらに渡ったら、絶対乗せてもらう約束をした。
そう言いながらも、凄い速さで駆け抜ける。さすが狼の獣人なだけある。
時間が時間なせいか、俺たち以外、街道を走る姿は見られない。
「次の町では、馬を借りるか」
「……ごめんな」
俺を抱えて走るのは、やっぱり疲れるんだろう。
「気にするな。言っただろう? うちの子に比べれば、軽い、軽い」
うん、軽いのはわかった。これ以上はプライドが傷つくから、言わないで欲しい。
しかし、俺を抱えてるから、万が一の時に戦うのに不利なんじゃないかと思う。ありがたいことに、今のところ、魔物には遭遇していないけれど。
ワイバーンの巣は街道から少し離れたところにあるらしい。今のところ、それらしき姿は見えない。もしかしたら『剛腕の獅子』の連中がなんとかしたかもしれないが、それを確認する術はない。
「そろそろ小さな村があるはずなんだが……」
あのペースで息が上がらないへリウスは、やっぱ、すげぇって思う。
へリウスの言葉通り、少し先に村らしき入口が見えてきたが……門らしきものは破壊されていた。
ペースを落として周囲の様子を窺うへリウス。なんとかく周囲の空気が、どんよりとしている気がするのは気のせいだろうか。それに、なんだか……生臭い。
「……ハル、今、テントを出す。そこで隠れてろ」
へリウスが緊張した声でそう言った。やっぱり、なんか変なんだ。
俺が頷くと、地面に降ろされる。
街道の端にある大きな木の根本あたりに手早くテントを張ると、俺の背中を押す。へリウスも一緒に中に入り、邪魔になりそうな荷物を下ろしていく。
「いいか、何があっても出てくるなよ。もし……もし、万が一、俺が戻って来なかったら、これを開け」
そう言って、渡されたのは、小さな封筒。何やら家紋みたいな印で封をされている。
「これは、我が一族だけが持つ、緊急を知らせる魔道具だ。この大陸に、うちの一族の者か、それに関わる者がいれば助けに来てくれるはずだ」
「……わかった」
いなかった場合、どうすんの、とは言わない。へリウスだったら、大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせ、テントの奥で体育座りする。へリウスはそんな俺を確認すると、テントから出て結界のボタンを押した。
「ほんじゃ、行ってきますか」
気楽そうな声で言ってたけれど、テントから出ていくときの横顔は真剣で、俺でもけっこうヤバいんじゃないか、と恐くなった。
俺たちは鬱蒼とした森の中の街道を走っていた。
正確には、俺を抱えたへリウスが走っている。
これ以上、厄介ごとを押し付けられる前に、町から離れることにしたのだ。正直、俺はかなりの寝不足だけど、そんなことは言ってられない。
「あっちの大陸だったら、俺のスレイプニルに乗せてやれたんだがな」
自慢げにそう話すへリウス。
スレイプニルというのは、足が八本ある馬の魔物らしい。どうやって走るんだよ? と不思議に思いつつ、あちらに渡ったら、絶対乗せてもらう約束をした。
そう言いながらも、凄い速さで駆け抜ける。さすが狼の獣人なだけある。
時間が時間なせいか、俺たち以外、街道を走る姿は見られない。
「次の町では、馬を借りるか」
「……ごめんな」
俺を抱えて走るのは、やっぱり疲れるんだろう。
「気にするな。言っただろう? うちの子に比べれば、軽い、軽い」
うん、軽いのはわかった。これ以上はプライドが傷つくから、言わないで欲しい。
しかし、俺を抱えてるから、万が一の時に戦うのに不利なんじゃないかと思う。ありがたいことに、今のところ、魔物には遭遇していないけれど。
ワイバーンの巣は街道から少し離れたところにあるらしい。今のところ、それらしき姿は見えない。もしかしたら『剛腕の獅子』の連中がなんとかしたかもしれないが、それを確認する術はない。
「そろそろ小さな村があるはずなんだが……」
あのペースで息が上がらないへリウスは、やっぱ、すげぇって思う。
へリウスの言葉通り、少し先に村らしき入口が見えてきたが……門らしきものは破壊されていた。
ペースを落として周囲の様子を窺うへリウス。なんとかく周囲の空気が、どんよりとしている気がするのは気のせいだろうか。それに、なんだか……生臭い。
「……ハル、今、テントを出す。そこで隠れてろ」
へリウスが緊張した声でそう言った。やっぱり、なんか変なんだ。
俺が頷くと、地面に降ろされる。
街道の端にある大きな木の根本あたりに手早くテントを張ると、俺の背中を押す。へリウスも一緒に中に入り、邪魔になりそうな荷物を下ろしていく。
「いいか、何があっても出てくるなよ。もし……もし、万が一、俺が戻って来なかったら、これを開け」
そう言って、渡されたのは、小さな封筒。何やら家紋みたいな印で封をされている。
「これは、我が一族だけが持つ、緊急を知らせる魔道具だ。この大陸に、うちの一族の者か、それに関わる者がいれば助けに来てくれるはずだ」
「……わかった」
いなかった場合、どうすんの、とは言わない。へリウスだったら、大丈夫だ。
そう自分に言い聞かせ、テントの奥で体育座りする。へリウスはそんな俺を確認すると、テントから出て結界のボタンを押した。
「ほんじゃ、行ってきますか」
気楽そうな声で言ってたけれど、テントから出ていくときの横顔は真剣で、俺でもけっこうヤバいんじゃないか、と恐くなった。
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